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魔女はいたずらがお好き

作者: ring

「んも! どう思います? こんなに私1人じゃ出来ない…」


始まった……次の展開もきっといつも通り。


「可愛いマーヤにきっと嫉妬してんだ、あの行き遅れ教師。俺が手伝ってやるよ、勿論ヴィアインも手伝ってくれるよな?」


「何故でしょうか? これはマリリヤンさんへの課題です。自分でやらなければ意味は御座いません、この様なお呼びだしならば今後一切お受け致しかねます」


礼をして教室を出ると、はぁー。と肩を落とす。


申し遅れました。わたくし、子爵令嬢のヴィアインと申します。

そして、先ほどマーヤと呼ばれていたのは、男爵令嬢マリリヤンさん。成績…非優秀、礼節…非非優秀、殿方の扱い…非常に優秀。


可愛らしい見た目、背の低さを生かした上目遣い、殿方を手懐ける術にかけては、この学園トップと言われておりますの。


そして、簡単に落ちたバカ……いえ、わたくしの婚約者(仮)の侯爵家次男のジャクシャ様は、事ある毎にわたくしを呼び出しマリリヤンさんの手伝いを強要しようとなさいます。が!!


ぶっちゃけ、アホじゃないの?

課題を出されるなら真摯に向き合うのは、自分の為でしょ? 何故わたくしが手伝わなきゃならないの? ええ、最初は平民から男爵令嬢になり不慣れだと思い、声を掛けました。が!! わたくし彼女と赤の他人。


それなのに。

『こんなに一生懸命なマーヤが可哀想だとは思わないのか!?』

『健気なマーヤと違い、ヴィアインは本当に冷たい女だな!』

『婚約者なら、俺の言う通りにしろ。少しはマーヤを見習ったらどうだ?』


確かに爵位は上、えぇ分かっております。しかし、わたくしと婚約者(仮)なのを綺麗さっぱり忘れておいでのよう。


「ヴィアイン様。お疲れのようね」

「あなたは?」


真っ黒な服を着た可愛らしい女の子が、わたくしの目の前に立っていた。


「私は魔女のイースト。ねぇヴィアイン様は、あの女を排除したいと思わないの?」


首をこてんと傾けながら、大きな瞳で見つめられたけど。


「いいえ、誰の事を仰っているか分かりかねますが。この国の貴族として恥じる行いをしない事を心掛けておりますの。

ですから、誰かの排除を願うなら、誰かの幸せを願いたいですわね」


背筋を伸ばし答えれば、魔女はキョトンとわたくしを見て、ふわりと微笑んだ。同じ女性でありながら、あまりにも可愛らしい姿にわたくしも笑ってしまった。


「ヴィアイン様。私あなたは好きになれそう。だから私の邪魔しないでね」


くるりと回ると、魔女は姿を消した。





それから数日後。


「ちょっと!! 私の課題は終わったの?」

「……はい」

「それなら早く出しなさいよ。本当にお前は愚図ね」

「申し訳御座いません」


マリリヤンさんの後ろに、付き従う1人の令嬢を見かけるようになった。

長い前髪、いつもオドオドして背中を丸めている姿にマリリヤンさんに無理難題を押し付けられても、クラスの皆は彼女へ関わろうとしない。


マリリヤンさんが彼女を従えているのは、何を言っても彼女は逆らわないからだろう。


「いい? あんたみたいなネクラで愚図な人でも私は優しいから一緒に居てあげてるのよ! 感謝しなさい」

「はい。ありがとうございます」


振り向く事無く立ち去る後ろ姿を確認して、わたくしは彼女へ近寄った。


「大丈夫? わたくしで力になれる事があればお話になって。マリリヤンさんの言いなりになる必要は御座いません」

「お気遣いありがとうございます。ヴィアイン様は本当にお優しい」


長い前髪から覗いた瞳が、どこかで見たように感じたけど。一体どこでだったかしら?


「マリリヤン様に言われた物を買いに行きますので、これで失礼します」


ぺこりと頭を下げて彼女は行ってしまった。



あれから学園内では。婚約者(仮)のジャクシャ様だけじゃなく、高位、下位問わず学園の令息達を虜にしたマリリヤンさん。


ふわっふわのピンク髪、くりくりした少し垂れ目な瞳。幼児体型の身体は令息達の庇護欲マシマシらしい。それとわたくしには絶対出来ない事、それは。


どっから声出してんの? ねぇ、頭のてっぺんに口があるの? と思ってしまうような声。ええ、あれは喉に変声機でも仕込んでいるとしか思えませんわ。


わたくしの友人達も、婚約者(仮)の方々に苦言を呈していらっしゃいますが、


『健気なマーヤを見習った方が良い』

『お前みたいな高飛車な女は誰も相手にしない。マーヤのように優しく出来ないのか』

『天使のようなマーヤと張り合おうとは無駄な事を』


わたくし同様。みなさま婚約者(仮)の姿を今では遠巻きに見ているだけ。


「こんな私に優しくしてくれるみんなが居て、本当に幸せよ」


デレッとだらしない顔をする令息達を冷めた目で見ていると、


「グスン…でもね。みんなの優しさが分からず私を悪く言う人達もいるの。でも、私は大丈夫よ」

「マーヤ、教えてくれ!」

「そうだぞマーヤ! きっとマーヤに嫉妬してるだけだ」

「安心しろ、俺たちが守ってやる!」


はいはい。ずーっと守ってあげなさいな。いい加減付き合いきれないわ。




そして本日は学園の卒業パーティー。

この学園は、一年間通い各々の実力にあった学園へ行く。簡単に言えば正規学園へ通う為の学園。


「アリアローズ!! 私はお前との婚約を破棄する! か弱いマーヤに行った卑劣な諸行は全て分かっている。醜い嫉妬にかられるとは言語道断!」

「俺も婚約破棄する!」

「私も!」

「オレも!」


プルプル小鹿のように震えるマリリヤンさんを守る騎士モドキの令息達は、自身の婚約者(仮)へ向かい婚約破棄を声高に叫ぶ。


「レオンハルト様。婚約破棄、確かに承りました」

「「「わたくしも婚約破棄、確かに承りました」」」


皆さま、満面の笑みで婚約者(仮)を見ております。


「おい!! ヴィアイン!」

「はい。ジャクシャ様」


「マーヤに聞いたぞ。お前達はマーヤを男爵令嬢だと見下し色々と虐めているらしいな」

「何のお話でしょうか?」

「いくらお前が俺を好きでも、マーヤを虐めるようなお前を愛する事は無い! 俺はお前よりマーヤのような心優しい女性が好きなんだ! お前との婚約は破棄する!」

「はい。その言葉しかと承りました。それでは婚約者(仮)の証でもある指輪をお返し致します」


小指から指輪を抜き取りジャクシャ様へ渡すと、何故か真っ赤な顔をしてますわね。


「お、お前は俺が好きなんじゃないのか!! 親が決めた婚約を簡単に破棄出来ると思ってんのか!」

「はい。出来ます。そもそもジャクシャ様とわたくしは婚約者"仮"で御座います。わたくしの婚約者"仮"は、もう一方いらっしゃいますの。勿論、皆さまにもおられます。

わたくしのもう一方は、執事で身分違いを気にしておりましたが。

ジャクシャ様より破棄したいと仰って頂きましたので、これでわたくしが本当に愛する方と婚姻出来る事。深く御礼を申し上げます」

「私からも、お嬢様を解放して頂きジャクシャ様へ感謝しております」

「お前は!!」


いつの間に後ろへ来たのかしら?

ジャクシャ様は、それは見目麗しの美貌を誇る令息。赤い髪に銀色の瞳、剣の腕も一流、そりゃ自分に私が惚れてると勘違いもなさるわね。


「令息の皆さま。まさか忘れた訳では無いと思いますが。女性が16歳になるまでは婚約者(仮)、この魔界では爵位を後継出来るのは女性のみ。従って男性から破棄する事、即ち貴族である事を放棄したとみなされてしまうのですよ、もう婚約者(仮)の指輪を返された時点で平民になりましたが……」


はっ!! とわたくしの顔を見た元令息達。



「ヴィアイン様も人が悪いね」


小鹿のプルプルマリリヤンさんの後ろから現れたのは、いつかの魔女。


「あら? やはりイーストさんでしたか」


彼女へネクラだとか、ナンダカンダ言っていた令息達は、イーストさんの魔法が解けたのでしょう。手にある指輪を握りしめ、元婚約者(仮)のご令嬢方を見つめ小鹿のようにプルプル震えていらっしゃいます。


「人間の貴族しか知らなかったんだもん。魔界は女性優位なのね、今度は人間の国で魔力集めするわ」


明るくゲラゲラ笑っているイーストさんに、激突する勢いで近付くマリリヤンさん。あら? 小鹿のプルプルは終わったのかしら?


「約束が違うじゃない!! 私が王妃になれるって言ったのに、どう言う事よ!」


「いやー。ごめんねテヘ。でも契約は完了。マーヤの魔力はぐっちゃぐちゃのドッロドロ、ここまで自分の欲望に忠実な魔力ってなかなか無いよねー」


ニタァと嗤ったイーストさんは、マリリヤンさんの動きを封じると。ゆっくり額へ指を当てた。


「や、止めて! お願い! 止めてよ! あんた達、私を守るんじゃなかったのかよ!! お前らみたいな奴の相手をしてやっただろ!! さっさと助けろ!」


あらあら、お口が悪いわね。

でも彼ら元令息は、再起不能みたいよ。


「はぁー。本当に美味しそう! ヴィアイン様、見てよ。この真っ黒な魔力、私、大好物なの!」


魔力を全て抜き取られたマリリヤンさんは、ぐったりして倒れてしまわれたけど、きっと人間界行きね。

それでも、彼女なら何とかしそうですが。


「人間である魔女が魔界まで遊びに来ると災いが起きると言われてますが本当でしたのね。宜しければ、パーティーが終わりましたら、わたくしの家へ遊びにいらっしゃらないかしら?」

「行く行く! ヴィアイン様と一緒に遊ぶ!」


ふふ。まるでネコみたいにわたくしの腕にすり寄るイーストさん。


友人達も、元婚約者(仮)から解放されて皆さま笑顔ですわ。


第1婚約者(仮)は親が決めた相手。第2婚約者(仮)は自分が決めた相手ですからね。


「では、皆さま。卒業パーティーをはじめましょう!」


アリアローズ様の声に皆さま笑顔で頷くと、卒業パーティーが再開された。


「今日から正式な婚約者ですから、エスコートして下さる?」

「夢みたいだ。愛しているよヴィアイン」


魔女のイタズラは、昔から厄介と聞いておりましたが。今回は幸せを運んで頂きましたわ。






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