入学式 その6
ラバルの代表挨拶に会場は異様な熱気を帯びていた。
その場にいた生徒会役員や上級生たちはこの熱気を前に戦々恐々していた。
ただでさえ、歴代唯一の入試満点という偉業をなしとげた首席がいる世代だというのに、その首席が新入生全体を鼓舞し、煽っていることに、上級生たちは恐れおののいていた。
このままでは自分たちの立場が危ういのではないか。そういった危機感が上級生たちの間で伝染病のように広がっていった。
しかし、それを歓迎している者たちも中にはいた。
それはこの学園でもはや不動の地位にいる十傑やそれに準ずる者たちだ。
誰にも侵すことの出来ない聖域とも言える現在の十傑たち。
そんな彼らにラバルは喧嘩をふっかけたということだ。
それは、史上最強の黄金世代と呼ばれた30年前の世代にも引けを取らない新入生たちと、史上最高の首席率いる現十傑との戦いが始まった合図でもあった。
これは、面白いことになったじゃないかラバル。
兄さんは嬉しいよ。
現首席にして、生徒会長、34年ぶりの勇選賢覇王でもある、ラン・ユンはラバルの挑戦状を心から楽しみにしていた。
強くなった弟弟子と相まみえることを心待ちしていた。
自分の背中を追っていたあの頃のラバルはもういない。
今いるのは、歴代最強の新入生として自らの前に立ちはだかるライバルだ。
10年このときを待っていた。
いつか俺の前に立ちはだかる壁になるとそう思っていた。
初めて会った時から感じた圧倒的な強者の風格。しかし当時は体がその力に付いていかず、その力を十分発揮出来ていなかった。
だが、今は違う。
体が成熟し、その力を十二分に発揮出来るようになった。
そんな君はどれだけ強くなっているのか、楽しみだ。
ラバルのことがあったにも関わらず、式は無事に終わった。
教師や生徒会役員はホッと胸を撫で下ろした。
教師陣はどうなることかと肝を冷やしたが、学園長の指示通りラバルの動向を見守っていた。
途中、式が崩壊するのではないかと身構えたが、何事もなく進んだことに安堵の表情を見せた。
「アイツなら何も心配いらなかっただろ?」
フローラはそう得意げに胸を撫で下ろす教師たちにそう言い放つ。
「ですが危険すぎます」
「まぁそう言うな。あのクソガキだって必死なんだよ」
「ですが……」
「じゃあ、Aクラスの担任さんに聞いてみようか?」
「わ、私ですか!?」
フローラと歳の近い若い女教師が驚いたように声を上げる。
「そうだメリアの意見を聞きたいんだ」
皆の視線がその教師に集まる。
「えーっと。ラバルくんはフィーちゃんの弟でフーちゃんの知り合いでもあるわけでしょ?なら、何も心配してないです」
緊張からか、メリアは時々口ごもりながらもそう伝えた。
「だそうだぞ」
メリアの答えにフローラは他の教師陣、特にラバルのことを危険視している派閥にそう睨みを利かせた。
「まぁいい。まずは君たちの仕事が待っているぞ。さぁ行った行った」
フローラの合図に教師たちは各々自分の持ち場へと戻っていった。
「ああちょっと待てメリア」
フローラは去っていく友を呼び止めた。
「後でラバルに学園長室まで来るよう伝えてくれ」
「うん。分かった。伝えておく」
そう言うとメリアは重い足取りで会場を後にした。
これからどうなることかねぇ。
フローラは大きな溜め息を吐いた。