入学式 その3
これは見て見ぬフリなど出来るわけがない。
明らかに体格差のある、上級生と思われる男4人に華奢な女の子。
これを見過ごすとか元英雄どころか人間じゃないだろ。
「えーっと、皆さんどうかされましたかね?」
こういうのはなるべく刺激しないのが鉄則。
「あぁあん!?」
こんな分かりやすい不良、学園都市にもいるんだな。
時代に取り残された存在みたいである種激レアだな。
「ンだてめぇ!」
「何見てんだよ!」
「てめぇもこの嬢ちゃんみたいに俺たちに遊ばれてぇのか!?」
ここまで活きがいいとこっちも嬉しくなるってもんだな。
あの日以来1年2ヶ月ぶりの対人戦か。
鬼の力をどこまで制御できるかこの雑魚たちに確かめさせてもらうか。
ついでにこの学校のチンピラの強さも知りたいしな。
「まぁまぁ落ち着いて。君たちは彼女に何してたんだ?」
とりあえずコイツらが殴りかかってくるまで待とう。
それにこの女子生徒の安全が第一だからな。
「ああ?てめぇにはかんけぇねぇだろうが!」
おうおうここまで露骨にモブ不良とかこれはゲームのチュートリアルか?
「確かに彼女とは初対面だな」
「だったらなんでてめぇが出しゃばってくるんだよ!」
まぁ確かにそうだな。
俺はこの件に関しては全くの無関係だな。
「まぁ困ってる人がいたから助けるのは普通だろ」
「ったははははあ!!!聞いたかてめぇら!この馬鹿なお人好しに俺様たちの怖さを教えてやんねぇとな!」
キタキタ来た!!
早くボコボコにしてやりてぇよ!
久しぶりに腕が鳴るぜ!
「行くぞてめぇら!」
チンピラたちが武装を解除して俺を取り囲んだ。
「ま、待ってください!」
今にも俺に飛び掛ってきそうなチンピラどもをその女子生徒が止めた。
「その人は関係ありませんから。なので彼には手を出さないでください」
その女子生徒いや、その白銀の妖精は俺の身を案じてか、きっと怖いだろうにチンピラどもを止めようとした。
「はははは!!!!コイツ、この馬鹿のために初めて口を開きやがったぞ!」
不良たちは俺から興味を失ったのか、彼女の方へと移って行った。
「お嬢ちゃん、喋れるんじゃん。だったら最初っからそうしてくれよな」
チンピラのリーダーと思われる男子生徒が彼女の肩に腕を回す。
このクソ野郎。この子震えてんじゃねぇか。
「てめぇ、その手離せや」
俺は考えるより先に動いていた。
俺はその男子生徒の頭を掴んでいた。
「聞こえねぇのか」
その男子生徒は驚いていたのか動かなかったので、そいつの頭を掴む手に力を入れる。
「あがァああああ!!!!」
その男子生徒は痛みからか、彼女から手を離した。
だが、俺はそいつの頭をがっしり掴んだままだった。
「てめぇらとっと失せな」
「て、てめぇ!おい、おめぇらコイツやっちまえ!」
リーダーの命令に他の不良はビビったのか、微動だにしない。
「てめぇら俺に逆らってどうなるか分かってんのか?」
リーダーからの脅迫についに決心したのか、奴らは武器を取り出した。
「そうだ。それでいい」
リーダーは満足そうに下卑た笑みを浮かべる。
「丸腰のコイツをとっと殺っちまえ!」
はぁーここまでクズとか生きてる価値ねぇわ。
とっとコイツの首をへし折って殺すか。
あーでも殺しはさすがにまずいか。
停学じゃ済まないな。
じゃあ背骨折るぐらいでいいか。
「待ちなさい!」
俺がそんなことを考えていると一人の女子生徒が俺たちの間に割り込んだ。
「貴様ら、この学園で不用意に武器を使用することは禁じられているはずだ!それを知っての狼藉か!」
侍さながらの啖呵に思わず圧倒されてしまう。
彼女は一体何者なのだろうか。
だが、この一言でゴミクズたちの顔色が変わった。
「生徒会役員、並びに風紀委員長として貴様らを校則違反で拘束する!」
いつの間にか俺たちを取り囲んでいた十数名の生徒たちによって不良たちは制圧された。
「大丈夫ですか、ラバル殿」
「どうして俺の名前を?」
「これでも生徒会役員ですから。今季の首席を覚えるのは当然です。それに、学園長からの以来であなた様をお迎えに上がりましたから」
なるほど。あまりに俺の到着が遅いから迎えを寄越したってことか。
「ところで、この騒ぎは一体?」
「ああそれなら、彼女が……」
あれ、いない?
「どこ行った?」
「えーっと、もう一人いらっしゃったのですか?」
「ああ。シルクのような美しい銀髪の少女がいたんだが、気付いたらいなくなっていた」
まるでイリュージョンのような一瞬の出来事だった。
俺が一瞬彼女から意識を変えたその間にもういなくなっていた。
俺に悟られず、しかも目の前にいる風紀委員たちにも気付かれずにこの場から消え去った。
一体彼女は何者だ?
俺もこの風紀委員長も気が付かないほどの隠密性。これはかなり強者なのかもしれんな。
「もしかしたらその女子生徒は、サラ・ドレビュールかもしれないな」
「サラ……ドレビュール」
ドレビュールということは、アードミヤ皇帝の血筋ということか。
「彼女は強いのか?」
「どうでしょう。彼女はあまり戦いを好まない方ですからね。それに、彼女はラバル殿と同じ1年生ですから」
「そうなのか!?」
「ええ。それにラバル殿と同じクラスになるはずです」
「そうですか。なら、後でこのことについて聞いておきます」
「そこまでしていただなくても。これは我々風紀委員の仕事ですから」
「そうですか。なら、後で風紀委員会まで行くよう言っておきますよ」
「そうしていただけると助かります」
そう言えば、この人の名前聞いてないな。
生徒会役員で風紀委員長ということは実力者ということには変わりない。
そんな人物と関係を築けるのは好都合だ。
しかし、名前を知らないでは意味ない。
「そう言えば、名前を伺っていませんでした。良かったら、教えて頂いてもよろしいですか?」
「そうだった、すっかり失念していた。すまない。私は、リュー・ライエン。3年だ。これからよろしくお願いしますラバル殿」
俺も自己紹介したいところだけど、もうそも必要は無いしな。はて、どう話題を繋げるものか。
「それではラバル殿、学園長がお待ちです。私に付いてきてください」
俺のそんな不安をよそに、リュー先輩は歩き出した。