テロリスト襲来 その3
「私たちも行きましょうか」
ラバルたちと分かれておよそ5分後、予定通り残りのメンバーも動き出した。
6人は職員通路を歩いていた。襲撃により混乱したショッピングモール内は進めないと判断したラバルの指示によりそこを注意深く進んでいく。
そして一足先にラバルとレンは危険なモール内を通って、襲撃を伝えるため外へと向かっていた。
「それじゃあ。死なないでよね」
一団は分かれ道まで来ると、アリアは神妙な面持ちでエースたちにそう言った。
ラバルの予想通り途中で分かれ道があったため、ラバルの指示に従い、二手に分かれることになった。
全滅しないよう二手に分かれようということだった。だが、これは進む道に敵がどちらかしかいないという希望的観測でしかない。
どちらにもいなければ良いが、どちらにもいる可能性もある。
だからこそ、この瞬間が彼らが言葉を交わす最後の時になるかもしれない。
「死ぬ気はねぇよ」
「そちらこそ」
「安心しろ」
だがエース、ダニエル、ユリアクは微塵も恐怖を感じていないかのように、飄々と答える。アリアの心配など意にも介さずに。
「必ず、また再会しましょう!死んだら許さないんだから!」
「御武運を」
「……。死んだら許しませんわよ」
アリア、サラ、ミシェルは気を使わせまいと強がる三人を見送った。
「行ってしまいましたね」
「そうね」
サラとアリアは三人の背中をいつまでも追いかけるように、彼らの進んでいった道を見つめる。
「お姉様、参りましょう。此方に何時また下賤な輩が来るか分かりませんから」
心配そうに友を見送る姉を横目に、ミシェルは自分が何をするべきか先を見据えていた。
「そうね、ミシェルの言う通りだわ。それじゃあ、私たちも気を付けて行きましょう」
こちらの三人もまた、自分たちの道を進み始めた。
一方その頃外に出たラバルは近くを歩いていた通行人にこの場から逃げるよう声をかけていた。
「いいから、俺たちの言う事聞けって」
「だから、そんなこと誰が信じられると言うのだ!」
しかし、誰にも信じて貰えなかった。
「クッソ!仕方ねぇ、こうなったらフローラ姉さんにどうにかしてもらわねぇと」
ラバルは急いでフローラに電話をした。
「……」
しかし、電話は繋がらなかった。
やっぱ無理か。フローラ姉さん、ああ見えても忙しそうだしな。
だが、どうする?
この状況であの人の助けがないと厳しいぞ。
「ラバルっち、こっちは大丈夫そうだよ」
騎士団へと通報を済ませたレンが、四苦八苦しているラバルの下へとやってきた。
「こっちは全然ダメだ。誰も相手にしてくれねぇよ」
「そりゃあそうだろ。誰も信じたくないし、それにこの街は平和ボケしちまってるからな」
レンは冷静に状況を分析していた。
だが、そんな彼の顔は悪巧みをしようと思案する少年のようだった。
「そんな奴らには、現実を思い知らせればいいだけだよ」
そう言うとレンは弓を構え、魔矢を番えた。そして弓を天に向け、弦を力一杯引っ張る。
「ちょっ!おま、お前それは――!」
親友が何をしようとしているのか悟ったラバルは止めようとするが、一歩遅かった。
「神装起動。『英雄の剛矢』」
レンは空に向かって夥しいほどの魔力を込めた矢を放った。
その瞬間、辺り一帯に轟音と爆風が駆け巡った。
周囲の窓ガラスは粉々に砕け、看板や街路樹、街灯などを薙ぎ倒した。
途端に大混乱が生じた。
悲鳴とともに我先にと逃げ出す市民たち。
「これでいっちょ上がりだな」
レンは満足そうに弓をしまった。
「あんたの姉も大概だけど、お前もヤバい奴だな」
ラバルは呆れて皮肉を言う語彙力が低下していた。
「褒め言葉として受け取っておくよ」
しかし、レンにラバルの思いは伝わっていなかったのか、嬉しそうにニコニコしていた。
「まぁいいか。どうせそのつもりだし」
最悪フローラ姉さんになんとかしてもらおう。
きっとあの人なら大丈夫だろ。
ラバルとレンは再びテロリストの立て籠もるショッピングモールへと舞い戻る。友を救出し、テロリストたちを制圧するために。
時同じくしてサラたち3人は従業員通路を進みテロリストたちの動向を探るため、管制室へと向かっていた。しかし、そんな3人に恐ろしい魔の手が迫っていた。
次回「テロリストと少女と英雄」をお楽しみに!




