テロリスト襲来
ライブもそろそろ折り返し地点となり、観衆の盛り上がりは最高潮へと達しようとしていた。
「すごいな!」
「でしょ!」
あまりの熱狂ぶりにすぐ隣にいるアリアの声も聞こえにくい。
「これが歌姫の力なのよ!」
みんなが凄いと言うのもよく分かる。彼女の歌には言葉に出来ないパワーがある。
歌の力は国境や人種、性別や年齢を超えるとよく言われるが、彼女の歌にはそれがある。
歌詞がいいのでも音楽がいいのでもなく、彼女の声や表現、魂を込めた歌唱が、聞く者の心や細胞一つ一つに強烈に響いてくる。
なぜだか、身体の底から力が湧き上がってくる気がする。
彼女の歌はそんな勇気をくれる歌だ。
「これはファンになっちまうな」
「そうでしょ。私たちみたいな学生は彼女から勇気を貰ってるんだ。彼女の歌には不思議なチカラがあるから」
日々苦しい鍛錬を積み、極限の弱肉強食の世界である学園都市にとって、彼女の歌がオアシスなんだな。
だからこそ彼女の歌はこうも輝いている。
「なんだよラバルっち泣いてんの⁉」
「泣いてねぇよバ〜カ!」
こんなふうに笑ったり、遊んだりするの久しぶりだな。
ずっとこのままがいい。
なんのしがらみも無く、ただ笑って、ふざけて、バカやって、そんなふうにいれたらいいのにな。
「次の曲が最後です」
俺が感傷に浸っている間に、盛り上がりに盛り上がったライブも、もう最終盤に突入してしまった。
それを聞いた観衆たちからの「えー!」とか、「もう終わり⁉」という残念そうな声が会場に響く。
「聴いてください。『Cry Song』」
しかし、最後の曲名を聞くと、会場全体が今日一番の盛り上がりをみせた。
まるで地鳴りのような重厚で、軽快な踊り子のようなイントロのギターに、会場のボルテージは最高潮に達した。
「凄いなこりゃ」
さっきまでの曲も凄かったが、これは一段と凄い。
曲の熱量も観客の熱気も、そして何よりも魂を込めるだけでなく、文字通り命を削るが如く歌う彼女の姿に、俺は一層引き込まれた。
まさに圧倒される歌声だ。
体の内側がメラメラと燃えるように熱くなってきた。
身体中の魔力が、血液が沸騰しそうだ。
これが彼女の歌の力。
一体、彼女は何者なんだ?
これもある種の魔法か、神装なのか?
「驚いてるわね。さすがのあなたでもこれは心にくるものがあるんじゃない?」
「そうだな。心が沸き立つって、きっとこういうことを言うんだなって感じだ」
「そう。ならよかった」
「別に俺にも人の心はあるぞ。鬼だけど」
「そんな嫌味を言ってる訳じゃないわよ。私をなんだと思ってるのかしら?」
「まぁちょっと皮肉っただけだ」
と、言いたいところだが、火に油を注ぎかねないので言わないでおこう。
「この曲はルビーちゃんの一番のヒット曲なのよ。そして、私たちの応援歌なの」
ゲームで言えば、攻撃力やら会心率やらを上げてくれるサポートキャラのバフ効果。それが彼女の歌というわけだな。
「これは私の勝手な予想なんだけど、彼女の歌声はきっとスキルか神装の効果だと思うのよね。闘うことができなくても、闘う人を支えるって凄いことだと思うわ!」
「そうだな。彼女にとって歌は、俺たちの剣や槍、弓と変わらないものだと俺も思う。だからこそ俺たちはこうも心を揺り動かされているだろうな」
この世界の住人だからか、高校生だった前世とは全く違う感情がある。
戦いに飢え、闘いを愛し、好敵手や強敵、強者との出会いに沸き立ち、一歩も譲らない戦いに心酔し、強者と強者との戦いに胸を熱くする。
現代では野蛮であり、狂気とも言えるこの感情。
きっと彼女の歌には強者の殺気のような熱気を感じているのだろう。
それを勝手に脳みそがバフ効果を与えてくれていると勘違いしているだけのことかもしれない。
「妾は大変満足なのじゃ!」
この騒ぎに居ても立ってもいられないといった様子で、フェニックスがラバルの影から飛び出した。
「おい!フェイ何やってんだよ!」
ラバルはフェニックスの行動に血相を変えて影に押し戻そうと相棒と格闘を始める。
「止めるのじゃ!妾の髪乱れるであろうが!」
フェニックスも久しぶりの外(2日ぶり)をもっと楽しみたいとラバルの腕を振りほどこうと格闘する。
「よいのか?よいのか⁉女子の髪は幾万もの価値があるのじゃぞ!セットするのにも時間がかかるのじゃぞ!」
「ンなこと関係ねぇよ!」
「ナンジャと!お主がこんなDV男だったとは思わなかったぞ!」
「お前が出てくる方がマズイんだよ!俺を犯罪者にする気か?」
「何を言っておる⁉もうすでに犯罪者じゃ愚か者が!!」
子どものような喧嘩をする二人をアリアは呆れたように見つめる。
一方サラは公衆の面前で喧嘩を始めた二人にあっち行ったりこっち行ったり慌てふためいていた。
「はぁー。アンタたち、いい加減やめなさいよ、みっともない」
アリアはやれやれといった様子で二人を止めに入った。
「それで、あなたは一体何者なのかしら?」
「む?妾か?妾はフェニックス。此奴の契約神じゃよ。お主の思うとるような者ではないぞ。ハハハはは!」
フェニックスはアリアの心の内を見透かしたのか、彼女をおちょくるようにそう笑みを浮かべる。
「っ――⁉そ、そんなこと思ってないわよ!って、あっ――」
「ぬハハハは!お主面白いではないか!」
アリアはフェニックスの挑発に乗ってしまい、顔を赤らめながら否定するが、時すでに遅かった。
「フェ、フェニックスさん。そんなことより、許可なく勝手に契約神を召喚してはいけないってルールがあるの知りませんか?」
アリアは開き直ったのか、澄ました顔を取り繕って話題を変えた。
「そうじゃったのう。じゃが、そんなことを言っている場合ではないがのう」
「は?何を言ってるんだフェイ」
「はぁ~。お主はそれでもSランク冒険者じゃったのか?」
フェニックスは主の平和ボケっぷりに汚物を見るような軽蔑の眼差しを向ける。
なぜお前にそんな目を向けられねばならんのだ。
俺はお前に何をしたってんだよ。
「仕方ないのう。ほれ、あそこを見ておれ」
フェニックスはライブ会場とは反対側の入口付近を指差す。
「なんだ。何も起こらないじゃないか」
「誰が今すぐに起こると言ったのじゃ?」
「じゃあ何が起こるっていうのよ」
「まぁそんな急ぐな。生き急いでもいいことなど何もないぞよ」
何やら金言を頂いた気がするが、フェイがわざわざ出てくるようなことだ。何か嫌な予感がする。
「ほれ来たぞ」
「は?何言って――」
俺が意味不明なことを言うフェニックスにいよいよ堪忍袋の緒が切れそうになったその瞬間、爆発音と共に悲鳴が至る所から聞こえてきた。
さらに、銃撃音が2階、3階からも聞こえてきた。
それに驚いた観客や客が我先にと逃げ出そうとしてショッピングモールは大パニックに陥った。
何だこれは……。一体何が起こって――まさか!
「ようやく気付いたか。ほれ、早うせねば全て手遅れになるぞ」
「分かってるよ!」
俺は頭をフル回転させ、この場をどうすれば最小限の被害で抑えることが出来るか考える。
だが、どうやっても最適解は見つからなかった。
情報が少なすぎてどうするのが正解か分からない。
それにこの人数を2階、3階からも迫りくるテロリストから守るのは不可能だ。
「おいおい、俺たちも逃げないとヤバいんじゃねぇのか?」
「逃げるにしても、混乱が酷くて逃げ道も無さそうですけどね」
「ンなもん強引にこじ開けりゃあいいだろうがよ!」
「バカなこと言わないで欲しいかしら。私の名前に傷が付いてしまうじゃないの」
「まぁ、俺たちならどうにかなるだろう」
「ユリの言う通りよ。私たちに出来ないことなんてないわ」
「……あぁ……また私のせいで……」
このメンバーならどうにかなるかもな。
「ようやくやる気になったようじゃのう。妾の力存分に使うとよい!」
「言われんでもそのつもりだ」
ラバルはこの場にいる7人を集めた。そして、今から行う作戦を話し始めた。
次回、ラバルはこの状況を打破する作戦はあるのか⁉そして、この危機的状況を打破することは出来るのか⁉
次回、『テロリスト襲来 その2』乞うご期待!




