歌姫の絶唱 その2
「本当にそんなことが……起こるって言うの……?」
ラバルの話を聞いたアリアは唖然とした。
その凄惨さと最悪のシナリオに悪寒が走り、気分が悪くなった。
「まぁ、これは俺の仮定の内、最悪の最悪がこれってだけで、絶対起こるってわけじゃない。でも可能性がゼロってわけでもない」
「もし仮にそれが起こったとして、どうして私に話したの?それにお父様に話してはならないのはどうしてよ」
アリアの父は学園都市理事会に顔利きが出来る程の大貴族だ。
でもこれを理事会が知ったら、この最悪のシナリオは現実になる可能性の方が高い。
確実にやられるより先にやるのがアイツらのやり口だ。
そうなれば、この世界に再び戦火の大炎が巻き上がるだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
これは俺の責務でもある。
だから俺はまだこのことを理事会には明かさない。俺の正体も、アイツらのことも。
そして俺が人魔大戦は終わらせる。
この悲劇はこの世代で終わらせる。
「もし話せばどうなると思う?親父さんはきっと理事会にこのことを報告する。そうなれば、理事会はここぞとばかりに大魔王に戦線布告するだろうな。そうなれば、人魔大戦の始まりだ。これがどういう意味かアリアなら分かるよな」
アリアは自分の行動が引き起こす未来に戦慄した。
そしてその先の凄惨な悲劇を想像し、言葉が出なくなった。
「だ、だったら、どうして私なんかに話したのよ!」
アリアはこの重大なことをなぜ自分に話したのか理解できなかった。
こんなことわざわざ話す必要なんてないじゃない。
私をおちょくってる……ってわけでも無さそうだし。
なら一体何が目的なの?
でも、ラバルってこんな感じだったかしら?
なんか怖いって言うか、恐ろしい……?
「今話したのは、最悪のシナリオであって、人魔大戦は必ず起こる。数年で必ず再開する。だから――」
「ちょっと待ちなさい!それはどういうことよ!アンタは今、理事会がそれは知れば人魔大戦が再開するって言ったじゃない!なのに人魔大戦が始まるのが確定ってどういうことなのよ!」
アリアは変なことを言ったら承知しないぞと言いたげにラバルに詰め寄る。
「お前たちはこの街にいて何も感じないのか?人類も着々と戦争の準備をしているじゃないか。それは理事会が遅かれ早かれ戦争を再開するためだ」
「じゃ、じゃあ、戦争は避けられないの?」
「そうだな。このままだとな」
「ヘ?」
ラバルは不敵な笑みを浮かべた。
悪巧みをする少年のような無邪気な笑みを浮かべた悪魔はこう言った。
「この世界は実力史上主義だ。なら、理事会より俺が力を持てばいいだけの話だ」
ラバルは何を言っているの?
アリアはラバルの発言の意味が分からなかった。
だが無性に恐ろしくなった。背筋が凍るような深い恐怖がアリアを襲った。
「そこで、みんなにはもっと力をつけてほしい。人魔大戦が始まろうと始まらないとしても、もっと強くなってほしい。俺を助けてほしいからな」
「わ、分かったわ……。善処するわ……」
「それじゃあ行こうか。みんな心配してるかもしれないしな」
私は一体誰と話しているの?
ラバル、アンタは一体何に成ってしまったの?
私は、アンタを信じていいの?




