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悪魔勇者 学園都市編  作者: 響 翔哉
入学狂騒編
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入学式

 ――アーレフ学園生徒会室――

「そう言えば、今年の新入りに面白い奴はいるのか?」

「そうそう!それ、リリーちゃんも気になってたんだー!」


 彼らは今、生徒会室に設けられた円卓に座り会議をしていた。

 もう話し合いも終わり、解散というところで一人の男子生徒がそう聞いた。

 すると、すぐ隣に座っていた小柄で快活な少女が身を乗り出してそれに同調した。


「それなら、この資料をご覧になられてはいかがですか?」


 そんな彼らを見かねた、いかにもお嬢様といった女子生徒が束になった資料を彼らの前に差し出した。


「おー!気が利くねぇエリカちゃん!」

「すまないな」


 差し出された分厚い資料を彼らは読み始めた。


「へぇー。この、ラバルって子、外部生なんだねぇ」


 自らを“リリーちゃん”と名乗る少女はひょこっとその男子生徒の持つ資料を覗き込む。


「それなのに、入試1位とはな。しかも会長の過去最高記録を超えてくるとはな……」


 まず一番に載っていたのは今年の首席合格者であるラバル·エラートだった。

 そんな彼の来歴を見たその男子生徒は驚いたような顔をしながらそう心中をこぼした。


「ほぉー。なんだそんな面白い奴がいるのか。是非とも風紀委員に欲しい人材だな」


 そんな彼の言葉に男勝りな女子生徒が食らいついた。


「リューはいつも風紀委員のことしか考えとらんのか」

「そんなことは無いぞ……。私だって、多少は女の子らしいところだって……。いや、何でもない!私は風紀委員長として将来有望な人材を求めているだけであってだな……」


 男子生徒からの指摘に彼女は口ごもりながらそう答える。


「そんな見え透いた嘘を」


 ジト目でその男子生徒は彼女を見つめる。


「嘘などではない!私はただ――」


 そんな目で見られた彼女は慌てて隠すように口を開いたが、それを遮るように――


「許せませんわ」


 あの資料を渡した少女がドス黒いオーラを纏いながら言った。


「許せませんわ」

「な、何が?」


 いきなり豹変した少女に資料を見ていた男子生徒が恐る恐るツッコミを入れる。


「わたくしの心から敬愛する会長を超えるだなんて!許せませんわ!!」

「そ、そうですか……」


 その女子生徒の意味不明な言い分に男子生徒は引き攣った笑顔でそう言った。


 そして、心の中でそっとしておこうとそう誓ったのだった。


「ねぇねぇ、このヘンルーダって子もすごいよ!」


 そんな二人のことなど眼中にも無い元気な少女は次のページに書かれていた生徒のデータを見て驚きの声を上げた。


「どれどれ、私にも見せてみろ」


 凛とした男勝りな女子生徒が快活な少女の持つ大きな資料を背後から覗き込んだ。


「ああ。コイツは確か中等部で『ゼロ』って、呼ばれてる奴か」


 覗き込み、名前と顔写真を見ると彼女はそう言った。


「知ってるの!?」


 そんな彼女の言葉に少女が目を輝かせる。


「ああ。コイツも中等部で風紀委員だったからな」

「へぇー!」


 口ではこう言ってはいるが、もう既にこの少女の興味は別に移っていた。


「ねぇねぇじゃあ、この子は知ってる?」

「え?どれどれ」


 その少女は次々とその女子生徒に質問を繰り返した。

 そんな少女のマイペースさに彼女はたじろぐ。

 だが、好奇心に満ち溢れた瞳を見ると、年の離れた妹の面倒を見ているような気分になり自然と悪い気はしなかった。


「まぁその辺にしておこうか」


 そんな彼女たちを見かねた一人の男子が話をやめるよう注意を促した。


「そうだな会長」

「仕方ないなぁー。ランくんの願いなら仕方ないぁ」

「そう言って貰えて嬉しいよ。それにエリカもジョンを困らせるな。それにジョン。いつも迷惑をかけてしまって申し訳ないな。それに下級生のみんなも」


 会長と呼ばれた男子生徒は最初に資料を受け取った男子生徒と、どうしたらいいのかと戸惑う下級生達に謝罪をした。


「いいえそんなことは――!」

「会長が謝られることではないかと」

「僕は別に」

「そうか?ならより一層上級生にはしっかりしてもらわなくてはな」


 そう言うと自由に暴れる上級生たちに圧をかけた。

 そして、無言の圧をかけられた生徒たちは背筋に冷たい何かが走った。


「みんな座ってくれ」


 会長と呼ばれた男子生徒の有無を言わせぬ圧のこもった言葉に全員の背筋が伸びる。

 そして、言われた通り席に着いた。


「それじゃあこの会議も終わりにしよう。それじゃあみんな今日の入学式を成功させよう!」


「「「「「「はい!」」」」」」


 会長の掛け声に生徒会役員たちの返事が生徒会室にこだまする。


「それじゃあそれぞれ持ち場に移ろうか」


 その男子生徒の言葉に彼以外の生徒は部屋から出ていった。



「ふぅー」


 誰もいなくなった生徒会室に一人座る男子生徒。

 先程までとは打って変わって、静寂に包まれた部屋に彼の溜息が静かに響く。

 会議や準備などで疲れたのか、彼は椅子に深く腰掛け、背もたれに体重を預けた。

 そして、椅子を学園全体を見渡せる大きな窓の方へと回転させた。

 この生徒会室は学園の端にあり、尚且つ最上階にあるため、学園全体を見渡すことが出来る。

 眼下には、大勢の生徒達が続々と登校してきていた。

 友人と共にふざけ合う生徒、仲良く隣同士で話しながら歩いている生徒、一人寂しく道の端を歩く生徒……。

 今日もいつもと変わらない。


「平和だな」


 机に置いてあったコーヒーを口に運びながらそう、彼は独り言ちた。

 残り一口だったコーヒーも無くなり、そろそろ入学式が始まる時刻が近づいてきた。

 彼は物寂しそうに席を立った。

 しかし、先程話題に上がっていたあの資料が目に入った。

 すると、体が勝手に反応したようにあの資料を手に取る。

 そして、表紙をめくり、旧知の存在を愛でるように顔写真に触れると彼は笑った。


「まさか、君が来るなんてな。久しぶりだなラバル」


 興奮。

 高揚。

 そんな言葉が当てはまるような笑みを彼は浮かべていた。


「君とまた(やりあ)えるなんて嬉しいよ」


 ハハハと乾いた笑い声がその部屋に響き渡った。


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