歌姫の絶唱
俺たちが合流地点にやってくるともうすでに人で溢れかえっていた。
「にしても、どうしてこんなとこで集合なんだよ。人が多すぎて出会えるか分かんねぇぞ」
「仕方ないでしょ!私がルビー・アドラステラさんのライブを見たいからに決まってるでしょ!」
「ンじゃそりゃ!」
どうやらここが集合場所になっている理由はアリアの独断らしい。
相変わらずの我が儘っぷりだ。
「ったく。しゃーねぇな。どうせ小一時間だろうし、アリアの我が儘に付き合ってやるよ」
「何よ、嫌なら帰れば」
「冷たいこと言うなよ。俺だって久しぶりにアリアと話したいしな」
「何よそれ。ラバルのくせに私を口説いてるわけ?」
「ンなわけねぇだろ」
「じゃあ何よ。私と何を話すつもり?」
「師匠の最期についてだよ」
「――!」
アリアはその言葉に目を剝いてラバルを見つめる。
「でも、今は話せないって昨日……」
「ああ。でも、アリアとレンには話したほうがいいかと思ってね」
「それは私たちが貴族だから?」
「そうだ」
初めアリアはラバルの冗談だと思ったが、やけに真剣なその表情を見て本気なのだと悟った。
「あの日、俺たちはいつもと違ってギルドからの依頼じゃなくて、ギルドへの依頼を受けたんだ」
ミカエラは人混みから抜け出しながらあの日の出来事を話し始めた。
「その依頼はそこまで高いランクのじゃなかった。田舎町の洞窟に住み着いた魔獣の討伐だった」
あの悲劇は、すでにここから始まっていたんだな。
全てアイツに騙された俺たちの落ち度なのかもしれないが。
「その魔獣も、数は多かったが、さほど強くはなかった。でも、その洞窟にいたんだよ。この世界にいちゃいけない奴が」
「奴って?」
ラバルは誰にも聞かれまいと人のいない影へとアリアを連れ込む。
「ちょっと――何のつもりよ」
いきなり人のいない影に連れ込まれ、アリアは驚きと戸惑いの目でラバルを見る。
「大罪魔王って知ってるか?」
「はぁ!?知らないわよ!」
文句を無視された挙げ句に意味のわからないことを言われたアリアはキレ気味にそう答える。
「大罪魔王。悪魔に魂を売ったバカのことだ」
「悪魔に魂を売った……」
いまいち何を言っているか分からないアリアは可哀想な子を見るようにラバルを見つめる。
「師匠たちはそのバカに殺られた。赤子の手をひねるみてぇにあっさり殺られた」
ラバルはあの日を思い出しながら悔しそうに壁を叩く。
脳裏に蘇る仲間の亡骸。高笑いする色欲。燃え盛る町。
「それから……どうなったの?」
「俺だけで戦った。だけどあンときの俺じゃ倒せなかった。一太刀を浴びせるのが精一杯だった。だから俺はアイツを倒すために、強くなるために学園都市に来たんだ」
俺は今度こそ勝つ。師匠、フルメルさん、ユリさんの仇を取る。絶対にだ!
「そうだったんだね」
師匠が死んだのは任務中の事故だって聞いてたけど、実際はそうだったのね。
でも何で隠す必要があるのよ。
「隠すつもりは無かった。でも、Sランク冒険者が大罪魔王に負けちゃいけないんだよ。俺たちはその魔王を倒すためにいるのに。俺たちは負けちまったんだ。それをギルドが許すわけない。だから負けた事実を揉み消した」
「そんな……」
「まぁ安心しろ、そんなふざけたことしやがったギルマスはぶん殴っといてやったからよ」
「何よそれ。なんでちょっと誇らしげなのよ」
「あんなカス野郎殺さなかっただけマシだと思えっての」
「それで、それだけじゃないんでしょ?」
アリアはラバルの話の目的が、ただ死の真相を語るだけではないということに気が付いていた。
「さすがアリア。俺のことは何でもお見通しだな」
「当たり前でしょ?何年一緒にいると思ってるのよ。幼馴染舐めんなっての」
アリアはラバルの胸を軽く小突いた。
「そうだな。これからが本題だ。なるべく誰にも言わないで欲しい。親父さんにもミシェルにも話さないで欲しい」
「分かったわ。誰にも話さないわ」
ラバルはアリアにこれから起こるであろう惨状と最悪の想定を話し始めた。




