Let's shopping!
遅めの朝食を食べ終えた俺たちは早速買い物へと乗り出した。
「それじゃあ男子組と女子組に別れて買い物しようか。ただし、ラバルっちはサラちゃんの服を買うために女子組で参加でーす!」
「いいぇーい!!」
なんでコイツらはこんなに上機嫌なんだよ。
「それじゃあなラバル。がんばれよ!」
「サラさんの服、ちゃんと選ぶんですよ!」
「女子の服は分からぬが、サラ殿が喜ぶものを選ぶんだぞ」
「ちっ」
サラの服を買うって話が、選んでプレゼントするって話に変わってきてないか?
俺の責任重大じゃねぇか?
俺、女の子の服とか全然分かんねぇんだけど。
「それじゃあ私たちも行きますか。それで、アンタはどこに行くか決めたの?」
「それも俺が決めるのか?」
「当たり前でしょうが」
「いやでも、俺、女の子の服のことなんか知らないし。俺よりアリアの方が適任なんじゃ?」
「まぁ確かにそうかもしれないけど、アンタだってお姉さんがいるんだから、それくらい分かってなさいよ!」
アリアは何にキレたのか、いきなり声を荒らげる。
「そんなこといきなり言われたって、知らんもんは無理なんだよ!」
同じようにラバルも声を荒らげる。
「それでもアンタは漢なの!?女の子に服のひとつも選べないなんて!」
「それとこれとは話が違うだろ!」
「同じよ!」
遂に二人は言い合いとなった。
今にも互いの胸ぐらを掴む勢いで両者は睨み合う。
「ちょ、ちょっとお姉様……それくらいにしてくださいまし。皆様が見ておられます」
子供のように取っ組み合いの喧嘩を始めようとする二人をミシェルが戒める。
「――ッ!!??」
妹の指摘にアリアは顔を真っ赤にして離れる。
「まったく、お姉様は。こんなに恥ずかしがるなら、初めからそんなことしなければよろしいのに」
「だって仕方ないじゃない。ついカッとなっちゃっただけだから」
アリアは妹の指摘に苦し紛れの言い訳を述べる。
「はーまったく、お姉様というお方は」
姉の恥態にミシェルは頭を抱える。
「そ、そんなことより、早く行きましょう!ね、サラちゃん」
これ以上の言及を避けるためか、それとも、いち早くこの場から立ち去りたいからなのか、アリアは強引にサラの腕を引っ張った。
「お姉様!手を繋ぐならわたくしとお願いしますわ!」
「えっ!?ちょっとアンタ何やって――!?」
相変わらず騒がしい姉妹だ。
仲が良いというか、なんというか。
はぁー。大変だなー。
そりゃあ父親もコイツらの言うこと聞くわけだ。
お転婆娘のコイツらの世話はさぞかし大変だったろうに。
オヤジさんがいつも疲れたのはコイツらのせいだったんだな。
俺もこの歳になってようやく分かったぜ。
コイツらの面倒見るとか無理ゲーだぞ。罰ゲームかよって。
「まずはこの店から行きましょうか」
最初に訪れたのはいかにも高級店という装いをした店だった。
さすがは貴族。チョイスがえげつない。
「お、お姉様……ここはまずいのでは?」
ミシェルは姉の選んだ店を見て青ざめる。そしてしきりにラバルとアリアの顔を覗く。
ミシェルの方が世間知らずかと思っていたが、まさかアリアの方だったとは。
もしかしてみんながついて来なかったのはこれが原因か?
「すまねえなラバルっち。俺たちはただの学生なんだよ。お嬢様の買い物に付き合うのは荷が重いぜ」
ラバルたちと別れた男子組一行は、買い物を楽しむラバルたちを遠目から眺めていた。
「そうですね。アリアの買い物に付き合ったら最後。ボクたちの財産は消し飛びますよ……」
「まだミシェルはいい。だが、アリアだけはダメだ。アレは悪魔か何かの類だ――」
アリアの被害にあった二人はあの日のことを思い出して、顔が青ざめる。
「ラバルは大丈夫ですかね」
「さぁな。元Sランク冒険者なんだから、たっぷり貯えはあるだろ」
「ラバルくん、本当にいいんですか?」
サラは値札を見て、本当に大丈夫かラバルに尋ねる。
「お、おうよ。男に二言はない!」
ラバルもここまで来て引き下がるわけにもいかず、血の気の引いた顔を縦に振る。
「サラちゃん!こっちもいいんじゃないかしら!」
両手いっぱいに可愛らしい服を持ったアリアが楽しそうに走ってきた。
ヤバい。アリアの笑顔が悪魔に見えてきた。
オエッ!吐き気がしてきた。
「ご、ごめん俺ちょっとトイレ行ってくる」
法外な値段のする服たちに遂にラバルは吐き気を催した。
その場から逃げるようにラバルは店を飛び出した。
「ラバル様、大丈夫ですか?」
店を出たラバルを追うようにミシェルも店を出た。
そして顔から血の気の引いたラバルの隣に来ると、心配そうにそう尋ねた。
「大丈夫じゃない……」
「すいません。私の姉が暴走してしまって」
姉とは違い、一般的な教養のあるミシェルが姉の暴走を謝る。
「ミシェルが謝ることじゃないよ。でも、いつになったらアリアは自分の感覚がズレてるって理解してくれるんだろうな……」
「……。永久に無理かもしれませんわね……」
ミシェルは姉の感覚やセンスが壊滅的であるのを思い出し、姉の擁護するのを諦めた。
「俺はトイレに行ってくるよ。ついでに銀行口座も確認してくるよ……」
ラバルはトボトボとふらつきながらトイレへと向かった。
それを心配そうにミシェルは見送った。




