観光(3)
「それじゃあここにしましょう。案内よろしくね」
「おう!任せとけって!」
「レンだと少し心配ですから、一応ボクも地図を見てますよ」
「酷くねぇー。少しくらい俺を信頼してくれてもいいんじゃねぇの!?」
「信頼して欲しいなら、それ相応の成果を上げねばな」
「ユリアクの言う通りですよ」
「ちぇー!」
「それじゃあ行くわよ!」
どうやら行き先が決まったらしい。
今度はレンが先頭に立ち、俺たちを引っ張っていく。
「それで、どこいくんだよ」
俺はレンの隣に移動し、どこへ向かうのか聞いた。
「えー内緒に決まってんだろぉ!」
「教えてくれたっていいだろ」
「ダメなもんはダメなんだよ!」
頑なにレンは口を割らなかった。
「じゃあ、ダニエル教えてくれよ」
「教えるわけないじゃないですか。レンが言わなくてボクが言ったら、ボクの方がバカってことになるじゃないですか」
「酷い言いようだな」
ダニエルも教えてくれる気配すら無かった。
仕方ない。大人しく付いていこう。
「ラバル、少しいいかしら?」
渋々定位置に戻ってきた俺にアリアが近付いてきた。
何か聞きたそうだな。まぁ答えにくいこともないだろうし、いいだろ。
ラバルは分かったと頷く。
「さっきはごめんなさい。私の感情だけで、ラバルのことを考えてなかった。本当にごめんなさい」
どうやらアリアはファミレスでの一件について謝りたいようだ。
「別に俺は気にしてねぇよ。むしろ、みんなに言えなくて申し訳ねぇくらいだ」
「どうしても言えないの」
「ああ」
「……」
「そう……」
アリアは悔しそうにしながら俺から離れていった。
「ラバルくん」
今度はサラが俺に近付いてきた。
「どうしたサラ?」
「……顔色、悪いですよ」
サラは言うべきか悩んだ末に、そう俺に言った。
俺は立ち止まり、整然と並んだウィンドウで自分の顔を確認した。
「そう……だな」
俺の顔は青ざめ、強ばっていた。
「大丈夫ですか?」
心配そうにサラが俺の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。ちょっと嫌なことを思い出しただけだ」
あの日の出来事を思い出して気分が悪くなったのだろう。
サラを心配させるわけにはいかない。平静を装おう。
それにすぐ良くなるはずだ。
「そうですか。ならいいのですが」
サラはまだ何か言いたげだったが、俺の気持ちを察してか何も言わずにみんなの後を追いかけた。
「着いたぞ」
レンに連れられやってきたのは、8階建てのレンガ造りのビルだった。
「ここは?」
「ここは百貨店だ」
「百貨店!?」
百貨店って、松坂屋とか三越とか伊勢丹とかのことだよな。
こんなところ高校生が行くところじゃねぇだろ。
「ここでよく買い物するのか?」
「俺はしねぇけど、母さんはよく行くな」
「私はよく来るわよ。ミシェルと一緒に来たり、学園の友達と来たり、家族で来たりするわね」
流石は貴族。百貨店とか当たり前に行くんだな。
「ボクが行くわけないだろ」
「俺もないな。だが、一度来てみたかったんだ」
高級店やらブランド物には縁遠い一般男子高校生には無縁の世界だな。
「一応聞くが、エースは?」
「俺が行くわけねぇだろ!」
ですよねぇー。
「じゃあサラはどうなの?」
「私も来たことはありません」
「へーそうなんだ。以外だな」
ドレビュールのお嬢様だから来たことあるのかと思っていたが、そんなこともないらしい。
「ならよく来ている私が中を案内するわね!」
嬉々としてアリアがそう宣言する。
「俺にも多少案内させてくれよ」
「仕方ないわね。少しだけよ」
俺たちは荘厳な建物の中へとアリアに先導されて入る。
「こりゃ凄いな!」
初めて入る夢の世界にユリアクが珍しく感嘆の声を上げる。
「本当だな!」
中は外観通りクラッシックな造りだった。
大理石で出来た床、石の柱、赤いカーペットの敷かれた階段。豪華絢爛なシャンデリア。
「て、いうかここに何しに来たんだ?」
ふと考えてみると、俺たちは何をしにここに来たんだ?
俺のような庶民に買えるような物がここにあるとは思えないし。
それに、観光で来るような場所かここ?
デパ地下ならまぁまだ分かるが。
でもさっき昼飯食ったばっかだしなぁ。
「それはな!それは……えーっと、何でだっけか」
「はぁー。アンタがここに来ようって言ったんでしょうが!」
「そうだけどよぉ!」
どうやらレンはノリで決めたらしい。
相変わらずの天然っぷりだな。
結局俺たちはしばらく百貨店を巡った後、百貨店を後にした。
「で、次はどこに連れてってくれるんだ?」
日もだいぶ傾き始めた午後4時。
そろそろ最後にしないと寮の門限に間に合わない。
「そうですね。あそことかどうですか?ちょうど今の時間ならぴったりじゃないですか?」
「おぉそうだな!そこで間違いないな!」
「そこでいいんじゃね!」
「そうね。私もそう思うわ」
「勝手にしろ」
再び開かれた作戦会議の結果、『あそこ』に行くらしい。
「いや、どこだよ!」
俺のツッコミも虚しくスルーされ、みんな『あそこ』に向かって歩き出した。
「少しくらい反応してくれたっていいじゃん……」
幼馴染たちの反応にちょっぴり悲しくなった。
俺を慰めてくれるのはカラスぐらいだ。




