告白(?)
「私の話を聞いて貰ってもいいですか?」
サラの真剣な眼差しに自然とこちらも緊張する。
「お、おう……」
一体、何を言うつもりなのだろうか。
「昨日、先輩たちに校舎の隅で囲まれてとても怖かったんです」
あれで怖がってたんだ。
多分得能ポーカーフェイス付いてるよ。
「でも、そこにラバルくんが颯爽と現れたんです」
そこまで颯爽と現れた気は無かったんだけどなぁ。
「まるでピンチのお姫様を助ける王子様みたいで、とってもかっこよかったです」
「あ、ありがとう」
なんだか気恥しいな。
白馬に乗った王子様だなんて。
てか、サラって意外とメルヘンチックなこと言うんだな。
「私は不幸を呼ぶ呪いの子なんです」
先程まで笑顔だったサラの顔が一気に曇った。
「また、そんなことをいっ――」
「本当なんです!」
反論しようとする俺の言葉を遮るように、今にも泣き出しそうな顔をしながら、サラはそう絶叫した。
その顔を見るまで、俺は冗談半分にそのことについて聞いていた。
だが、それがどれだけ愚かで浅はかな考えだったか、今になってようやく理解した。
どうしてサラが、まるでこのクラスにいないように扱われ、誰からも見向きもされなかったのか。
フローラ姉さんが異様にサラのことを気遣うのか。
昨日の決闘、俺が参加すると聞いて泣きそうになっていたのか。
どうして誰もサラを助けようとしないのか。
そして、俺とサラが同じ部屋に住むようになったきっかけはなんだったか。
こうして思い返してみると、俺がどれだけ愚かだったのかよく分かる。
「私は不幸を呼ぶ忌み子。だから私の周りは不幸でいっぱいなんです!」
そして、今どんな思いでサラが俺にそのことを話しているのか。
「だからっ――!!」
俺はもっと考えるべきだった。
サラの気持ちを、思いを。
「それ以上言うな!」
そんなこと言わせてなるものか!
俺は勇者だ!英雄だ!
相手が不幸を呼ぶ呪いの忌み子だからなんだ!
目の前で泣いている女の子がいて、何もしないバカじゃない!
そんなの、ヒーローなんかじゃねぇ!
「俺はお前が不幸を呼ぶ呪いを持っていようが、忌み子だろうが、そんなこと関係ないんだよ!呪いだ?不幸だ?ンなもんどうでもいいわ!そんなもん、俺が全部斬り捨ててやるよ!不幸ドンと来い!」
「ありがとう、ございます!」
サラは顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いた。
せっかくの可愛らしい顔が台無しになってしまうほど泣いていた。
「な、泣くほど嬉しかったのか?」
「は“い“!!」
「そ、そうか」
ひとしきり泣いたサラは疲れたのか、椅子に座った。
「んッ――!?」
しかしその瞬間椅子の脚が折れた。
折れた方へとサラの体が倒れていく。
「危ないッ!」
俺は反射的にサラの右腕を掴んだ。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい」
これが不幸を呼ぶ呪いの力。
凄まじいな。俺のA評価のLuck値でも防げない不幸。
「あのー離してください」
「ご、ごめん!!痛くなかったか?」
驚きのあまりサラの手をずっと掴んだままだった。
「だ、大丈夫です!」
「そ、そうか。よかった……」
俺たちの間には変な空気が流れた。
「えーっと、なんだったっけか?」
「そ、そうですね……。えーっと……」
何を言うべきか探りあっている二人は結果、黙り込んでしまった。
「か、帰るか」
沈黙に耐えられずラバルは逃げることを選択した。
「は、はい!」
結局何も言わずに二人は帰ることにした。
「……」
沈黙が辛い。
でも、何を話せばいい?
冷静になってみると、あれって完全に告白だもんな。
サラが何か伝えようとしてたのを遮って告ったみたいなもんだもんなぁー。
あぁーくっそーやっちまったぁー!
今更さっきのはそういうことじゃないとか言えんし。
「ラバルくんは、これから予定があるんじゃないんですか?」
「えっ?あ、おう、そうだな。でも時間はまだまだ余裕だし、それに1回寮に帰りたいし」
着替えて集合と言った手前、着替えてこないのはダメだろ。
それにサラを部屋に送らないといけないしな。
「それにサラが帰れないだろ?」
「そういえばそうでした。すいません私のせいで」
「良いって良いって。仕方ないことだったし」
それは今朝のことだった。
サラが寮の鍵をへし折ってしまったのだ。
寮の鍵は一人一つ貰えるのだが、カードタイプで入口や玄関だけでなく、全ての部屋に使えるもので、自分たちの部屋に入るのにも必要になる。
だが、それをあろうことかサラは落として踏んでしまったらしい。
一応寮の管理人さんや先生には伝えてあるらしい。
だが、新しい鍵が届くには最低でも2週間かかるらしく、同じ部屋に住まう俺でなければ開けられないということだ。
つまり今日から下校は一緒にしないとサラは家に帰れないということになる。
それがより一層この状況をややこしくしてくる。
ただでさえ同じ部屋なのに登下校も一緒で、告白紛いのことまでしてしまった。
俺はこれからどうするのが正解なんだ。
「ラバルくん、少しご相談なのですが……私も連れて行ってくれませんか?」
「アイツらと一緒に街を回るのにか?」
「はい……。ダメでしょうか……」
昇降口を抜け、桜並木にさしかかろうとした頃、サラが申し訳なさそうにそう聞いてきた。
「いいけど。アイツらと一緒でも大丈夫か?結構面倒いぞ」
「だ、大丈夫です!」
「そうか。ならいいんじゃね?アイツらも俺から言えば何も言わないと思うしな」
「あ、ありがとうございます!」
よほど嬉しかったのか、サラは上機嫌にステップを踏みながら俺の前を歩く。
俺の前でなら不幸は少し陰るのかもしれないな。
それだけ俺のLuck値が強いということにしておこう。




