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悪魔勇者 学園都市編  作者: 響 翔哉
入学狂騒編
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授業 (3)

 何やかんやでフローラ姉さんのしごきは少し緩くなった。

 とはいえそれでもまだキツイ部類ではあるが。

 ちなみにランの最下位は常にリアだった。

 最後のランが終わったところで授業終了のチャイムが鳴った。


「今日はここまでだ!次回はもっとキツイからな!今日は首席様に感謝しとけよ!それじゃあ解散ッ!」


 フローラ姉さんが修練場から出ていくと、生徒達の大半は地面に座り込んだ。


「かなりハードなメニューだったな」

「そうだな」

「あの野郎、俺たちをスーパーマンとでも思ってんのか?」

「これはさすがの僕でもキツかったよ」

「もう無理……うち死んでまう」

「あーし死ぬかも」

「こんなことで疲れてしまうなんて……」


 みんな思い思いにそう呟く。


 まぁ初日からこんなハードなメニュー、俺たちみたいな慣れている奴にしか無理だろうな。

 てか、これもうパワハラ認定されるんじゃってレベルだからなぁ、この訓練メニュー。


「なぁラバル。お前はやっぱりすげぇーよ!姉さんに意見できるとかマジ勇者じゃん」


 まぁ俺、一応勇者だしな。


「それにしても、フローラ先生なんか変じゃなかった?」


 アリアはフローラ姉さんの行動に首を傾げながら考え込んでいた。


「アイツはいつも変だろ」


 そんなアリアに切れ味鋭いツッコミを炸裂させるエース。

 毒舌キャラなのか、ただただ失礼なキャラなのか悩ましいところではあるが、まぁこれがエースの個性だということにしている。


「エース。友だちのお姉さんの悪口言わない方が良いですよ」

「オレにダチなんかいねぇよ」

「そんな悲しいこと言うものではない。俺がいるだろ」

「ボクだっていますよ」

「るせェ!」


 エースはなんだかんだ言ってダニエルやユリアクとは仲良しだ。


 当人は否定しているが。


「まぁそんなことより、早く着替えようぜ」


 汗でベッタリとした練習着を一刻も早く着替えたい。

 出来ることならシャワーも浴びたい。


「そうね。行きましょうか」


 次の授業まで時間があるとはいえゆっくりしている暇はない。


「少し君たちに聞きたいことがある」


 修練場から立ち去ろうとする俺たちをヘンルーダたちが引き止めた。


「なんだ?」

「学園長先生のあの訓練に慣れているようだったので、思わず声をかけてしまったんだが、君たちはあの訓練を受けていたのか?」


 ヘンルーダはやけに手慣れている俺たちに疑問を持ったようだ。


「そうだな。俺たちと学園長は同じ道場の先輩弟子だったんだよ。俺たちが小さい頃からあの訓練をやらされていたからな」

「何歳の時からだ」

「9歳だったかな」


 自信が無かったが、みんな首を縦に振っているから合っていたらしい。よかった。


「そんな前から……」

「なるほどね」


 ヘンルーダたちが俺の返答になぜか落ち込んでいる。


「俺たちは行くな。ヘンルーダたちも早く着替えた方がいいぞ」

「ああ。そうだな。そうするよ」


 俺たちはヘンルーダたちを置いて修練場を後にした。

 そしてしれっとサラも付いてくる。




 次の授業は教室で何やら説明会があるらしい。


「はーいみなさーん、席に着いてくださいねー!」


 相変わらず元気なメリア先生が教室に入ってきた。


「それじゃあ今から資料を配りますね」


 メリア先生が配った資料を見ると、そこには『七聖剣武祭予選について』と書かれていた。


 七聖剣武祭。通称夏の競技会。

 学生大会の第一戦で、6月から7月にかけて行われる学園都市最大の大会だ。そして、最も権威と名誉のあるタイトルでもある。


「みなさんには、この4月から一週間に一度予選を戦ってもらいます」


 この大会の予選は全ての生徒が参加する。

 それは俺たち1年生も例外ではない。


「そして5月最終週までの成績上位者が最終予選に進みます。そして、二週間かけて学園の代表を選出するんです。ちなみにこれは学年ごとではなく、完全に成績順なので、1年生が誰も出ないということもあるんですよ」


 そう、この大会のヤバいところが、各学年ごとのカテゴライズが無いということだ。

 つまり、強ければ出れるということだ。


 さすが実力至上主義を掲げるだけのことはある。


「来週の水曜日に予選の第一戦があります。みなさん、それまで怪我しないようにしてくださいね!」


 今日は金曜日。あと5日で、予選が始まる。

 入学から一週間で授業もそこそこに大会の予選がある辺り、学園都市の闇が垣間見える。


「あっ、そうでした!みなさん、質問はありませんか?」


「あの〜先生~、この予選って〜絶対参加なんですか〜?」


 語尾が『~』な、ゆるふわガールのマリアさんが気だるげにそう質問する。


「そうですよ!みなさん参加ですよ!」


「え〜」


 面倒くさがりガールのマリアさんはメリア先生の答えに机の上で溶けてしまった。


 マイペースだなぁ。


「詳しいことは今配った資料に載っているので見ておいてください」


 もしかしてメリア先生って面倒くさがりなのか。


 それにしても優等生たちは真面目だな。しっかり読んでる。

 まるで俺が優等生じゃないみたいじゃないか。


「他に質問はないですか?」


 みんな真剣に読んでいるせいか、メリア先生の質問に誰も反応しない。


「質問はなし……っと」


 心做しかメリア先生の表情が暗くなった気がする。


「それじゃあ、みなさんの初戦の相手を発表しまーす!」


 もう決まっているのか。


「対戦相手の情報をみなさんの端末に送りますね」


 こういう所はペーパーレスなんだな。

 俺としてはこの資料を電子化する方が嬉しいんだけど。


「これをこうして、こうすれば……。これでみんなに行ったかな?」


 メリア先生はそういうものには疎いらしい。えーっと、と言いながら画面を触っている。


 なんだか小動物みたいで可愛い。


「メリア先生。大丈夫ですか?手伝いましょうか?」


 うんうんと唸っている担任教師に助け舟を出すのも学級委員長の仕事だろう。


「ありがとうラバルくん!私の送ったメッセージ届きましたか?」


 俺の助け舟がよほど嬉しかったのか、メリア先生の顔がぱあーっと輝く。


「そうですね……。届いてますね」

「良かったぁー!」

「あ、でも中身がちゃんと送られてるか確認した方がいいかもしれないです」

「そうですね」


 届いたことに安堵していた顔が一転、神妙な面持ちに変わったメリア先生が俺の顔をまじまじと見つめる。


 そんな見つめられると緊張するんですけど。


「一応こんな感じなんですけど、合ってますか?」


 俺は席から立ち上がり、メリア先生に画面を見せた。


「OKそうですね。ありがとうございますラバルくん」

「いえいえどういたしまして」


 俺は席に着いて今送られてきたメリア先生からのメッセージを読み始めた。

 そこには対戦相手とその対戦場所そして、対戦相手の詳しい情報が記載されていた。


「みなさん!今、メッセージに対戦相手についての情報を載せておきました!ちゃんと見ておいてくださいね!」


 ここで授業の終わりを示すチャイムが鳴った。


「それじゃあ終わりまーす!ありがとうございました!」


 先程の不安そうなメリア先生は別人かと思うほど元気な挨拶をして教室を出ていった。



 授業も終わり、先生が出ていってすぐにレンが俺に近付いてきた。


「ラバル、授業も終わったしどっか遊びに行かね?」


 これが陽キャのなせる技、授業後即遊びのお誘い。


「いいね。俺、あんまりこの街のこと知らないし、ついでに案内してくれよ」


「だってよアリア!」


「うるさいわね!言われなくても聞こえてるわよ!」


「エースも行くだろ!」

「行くわけねぇだろ」


 レンは荷物をまとめ帰ろうとするエースを呼び止める。


「せっかくこうして再会したのですから付き合ってもいいんじゃないですか?」


「チッ。シャーねーえな。付き合ってやるよ」

「エースは口ではそう言うけど優しいよな」

「うるせ!」


 相変わらず仲良しな3人だった。


「それで、アンタはどこに行きたいのよ」

「そうだな……」


 どこと言われても何があるかもほとんど知らないのになぁ。


「近場で遊べる場所とか?」


 考えた結果、安牌になってしまった。


「そうね。レン、どこがいいと思う?」

「そうだなー。ファンタジアか、七星とかでいいんじゃねー?」

「ファンタジアで遊ぶには時間が足りないと思う。それにセブンスターレイルは別に遊び行くとこじゃないし」

「なら、セントラル動物園とか?」

「それも遠いじゃない」

「うーん。そう思うと遊ぶ所ってないんだな」

「そうね。だったらこの街を遊覧する、とか?」

「それこそ時間がかかるし、お金もかかるからダメじゃね?」

「そうよね」


 学園都市は意外とつまらない街らしい。


「なら皆さん、こういうのはどうでしょうか」

 意見のまとまらない二人に代わってダニエルが意見を述べる。


「この学園の学区を回るというのはどうでしょうか?」

「それはつまり、このでかい学区を全て見て回るということか?」

「ユリアクの言う通りです。自分たちの学区を知るのは大切ですし、一番お世話になる場所でしょうから、案内しておいて損はないと思いますよ」


 さすがは天才ダニエル。一言であんなに決まらなかった行き先を決めてしまうなんてな!


「いいわね!それでいきましょう!」

「それじゃあ、30分後に校門前で集合な!もちろん私服に着替えて集合だかんな!」


 そういうとレンは超特急で教室を後にした。


「ハァー」


 エースはブチ切れそうになるのを必死に押さえ込んでいた。


「ンじゃあ」


 鞄を乱暴に持ち上げてエースも教室を出ていった。


「それじゃあ後で。絶対遅刻するんじゃないわよ!」

「へいへい」


 アリアも上機嫌で部屋を出ていった。


「皆さん変わりませんね」

「少しは大人になったと思ったが、俺たちはまだまだ子どもだな」

「そうか?俺は大人だぜ?」

「そうですね。ラバルは昔から大人げないですからね」

「そんなことない」

「子どもっぽい大人って感じだな」


 ダニエルもユリアクも俺への評価は、子どもの心を失わない大人ということらしい。


「それじゃあまた後で」


 二人も教室から出ていった。

 教室には和気あいあいとした残響がこびりついていた。

 先程までいた生徒たちを懐かしむように。

 しかしそれも春の香りを伝える風が窓を越えて攫ってどこかへと飛んでいってしまった。

 誰だよ窓開けっ放しにした奴は。

 春の陽気を受けたカーテンが穏やかな風にたなびいてる。

 誰だよ開けっ放しのまま帰った奴はよォ!閉めて帰れよ。


「ラバルくん」


「フォわッァ!!」


 窓を閉めようと窓際へと移動をしようとしたその瞬間、背後からいきなり名前を呼ばれて変な声が出てしまった。


「さ、サラ?」


 誰もいないと思っていたがサラがいたらしい。


「ビックリした。もう帰ったのかと思ってたけどまだいたのか」

「はい。ラバルくんに相談があって」

「それで待ってたのか?」

「はい。楽しそうに話していたので、声をかけづらくて」


「そうか」


 相談か。

 一体なんだろうか。


 桜の花びらを乗せて風が吹く正午の教室。

 それが俺たちの戦いの始まりの日だった。

 ほどよい暖かい日でありながら、まだまだ冷たい風が吹く4月8日。


 俺とサラ、そして学園都市との戦いの始まりだった。


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