開戦前
俺たちが入り口を通過すると、会場は暗転した。
「お待たせしました!選手の入場です!」
俺たちはほのかに光る止まってくださいと書かれたところで立ち止まった。
どうやら選手の呼び出しがあるまで待てということらしい。
「赤コーナー!チームサイキック!」
会場は赤色のライトで彩られ、おそらく不良集団サイキックのメンバーと思われる生徒から歓声が上がった。
そして、ライトに照らされた入り口から今回の対戦相手が現れた。
「ブー!!」
入場と同時に歓声を大いに凌ぐほどのブーイングが会場に響く。
不良集団サイキックは相当嫌われているらしい。
「続きまして、青コーナー!」
会場は続いて青色の光に包まれた。
「新入生首席ラバル・エラァアアアト!アァーンド、サラ・ドレビューーーール!!」
何故俺の肩書きを強調する?
それに無駄に巻舌やめろし。
「ふぉぉーー!!!!」
「あんな奴らなんかぶっ飛ばしちまえ!」
「やってやれ!」
余程サイキックというチームは嫌われているらしい。
私怨のこもった声援ばかりだ。
多少応援してくれてもいいんじゃないかな?
「行きましょう」
サラは俺が泣きたい気持ちになっているなんてどうでもいいと言いたげに、滑走路の誘導灯のように光る一本の道の上に立って俺を待っていた。
「ごめん。今行くよ!」
サラは俺が隣に来るのを待ってから歩き出した。
彼女なりに俺を認めてくれているらしい。
「それじゃあ行きますか」
俺とサラの姿が登場門から出てくると、割れんばかりの歓声が会場を揺らした。
「それでは両者中央へ!」
決闘のリングの真ん中に、リュー先輩が立っていた。
「リュー先輩?」
「ラバル殿、私が今回の決闘の立会人兼、審判だ」
「そうなんですね」
「おうおうなんだテメェら!?審判様と首席様は通じてんのかぁ!?」
「俺たちを不利にしようとしてんじゃねぇよなぁ!」
「黙れ」
リュー先輩は噛み付く不良たちを一蹴した。
「それ以上言うならこの決闘は無効だ」
リュー先輩のドスの効いたその一言に不良たちは黙り込んだ。
「それでは、ルールをもう一度確認する。勝敗は水人形が全て壊れた方を負けとし、反則は急所を必要以上に攻撃することと試合終了後に攻撃をすること。そして、開始より前に契約神や契約精霊を呼び出すこと、開始より前に攻撃をすること。それ以外は全て許されている」
リュー先輩に改めてルールを説明してもらったが、相変わらずぶっ飛んでるな。
まぁ元々命を掛けた戦いだからそうなるのも仕方ないかもしれないが。
「それでは両者、所定の位置へ」
そう言うとリュー先輩は淡く光ったラインを指さした。
闘技場の中央からおよそ5メートル、お互いに10メートル離れた場所から決闘が始まる。
一方、審判であるリューは審判席と呼ばれる会場中央1階席に設けられた場所へと歩き出した。
リューがその場所のある壁に近づくと、壁が下に下がり階段が現れた。
審判席へと繋がる階段を登ると、先程ラバルとサラが自身の血を付けた水人形と相手の水人形が置かれていた。
「サラ、さっき話した作戦で行くけど、相手の動きが変わったら直ぐに俺と変わって」
「分かりました」
俺とサラ、不良たちが所定の位置へ行くと会場は暗転した。
すると、アイドルのコンサートさながらの歓声が上がった。
いよいよ始まるらしい。
「己の誇りを以て大願を成せ――」
審判のリュー先輩にスポットライトが当てられ、何やら唱え始めた。
あれだけ盛り上がっていた会場もリュー先輩を見つめて黙り込む。
「汝の願いその刀身に宿りたり――」
「これって何?」
「これはこれから行われる決闘への祈りです」
「ほぇー」
呪文かと思ったが、どちらかというと宣誓や祝詞に近いのか。
「でも、これなんのためにやってるの?」
「さぁ、私も分かりません。でも、噂で言われているのは、決闘をする生徒たちへの激励と安全を願ってしているらしいですよ。昔は水人形なんてありませんでしたから」
「ふーん」
前時代の遺物というわけか。
でも、昔の決闘では当然ながら死者が出ていただろうし、それを無くすために水人形が造られた。
でも、それがない時代はきっと神様に祈って保護を求めていたんだろうな。
それが今でも受けるがれている。
「なんだか壮大な話だな」
「そうですか?」
俺の呟きにサラは心底不思議がった顔をした。
「時は来た!さぁ始めようではないか!槍を持て!剣を掲げよ!矢を構えよ!戦いの時だ!」
リュー先輩の熱の篭った祈りになんだか体の底から力が漲ってくる気がする。
「戦士達よ死を恐れるな!逃げるは恥、戦わぬ者は愚かなり!血と魂を以て戦え!いざ、尋常に!」
リュー先輩の祈りが終わると会場に光が戻り、大歓声と拍手がそれを迎えた。
「両者、武器を持て!」
リュー先輩の声にもう一度会場は静まる。
俺たちは契約神や契約精霊を呼び出す。
「来い!聖なる炎『フェニックス』!」
大火を撒き散らしながら、俺の相棒が剣となって俺の前に現れた。
「おいで、守護女神『アテナ』」
俺のド派手な登場とは打って変わって、特に何も無く白銀に輝く剣となったアテナがサラの前に見参した。
「それでは、決闘始めっ!!」
俺たちと不良たちが武器を持ったのを確認すると、リュー先輩は開始の合図をした。
会場は壊れてしまうのではないかと思うほどの大歓声が湧き上がった。