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悪魔勇者 学園都市編  作者: 響 翔哉
入学狂騒編
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初めての決闘 その4

「紳士淑女の皆様お待たせしました!本年度初の決闘は、なんと新入生首席ラバル・エラートだァ!」


 超満員の会場に響き渡る実況の声に観衆は熱狂する。

 本来このような決闘にここまで観衆が入ることはあまりない。

 しかし、今年度初の決闘が始業初日であること、歴代最高の新入生と言われるラバルが決闘を行うこと。

 血気盛んな学園都市の生徒にとってこれほど美味い肴はない。熱い戦いを愛し、熱狂する彼らがこれを逃す手はないのだ。

 ラバルの戦いを見たいという好奇心に集められた観衆たちは今か今かと待っている。


 もちろんそれはラバルの幼馴染たちも例外ではなかった。


「久しぶりね、ラバルが闘うのを見るの」

「そうだな!」

「アイツ、弱くなってたら許さねぇからな」

「そんなことないと思うけどなぁ。だって史上最高得点で首席だろ?」

「しかし、絶対はない」

「ボクはそんなことないと思いますよ。彼はラバルですよ。ボク達のリーダーじゃないですか」


 幼馴染たちは戦いが始まるのを待ちきれないといった様子だ。


 しかしそれは1年A組の面々も同じだった。


「まさかこんな形でミスターラバルの戦いを見れるなんてね」


 ヘンルーダは腕を組みながら仲間と共に開始を待っていた。


「そうだね。ラバルくんの戦いは気になっていたんだ。なんせ君から首席の座を奪った逸材だからね」

「相変わらず嫌味ったらしい奴だなお前は」

「そういう君だって負けず嫌いの頑固者じゃないか」

「それとこれとは別の話だろ」

「うるせぇお前ら!少しは黙れ!」

「うるさいのは君の方だよレオ」

「あァ!?ンだとテメェ!?」

「やめないか二人とも。君たちが今日の主役ではない。少し自重しろ」

「分かったよ」

「ちっ!」


 猛獣を手懐けるが如く、ヘンルーダは二人の喧嘩を止めた。


「実況はわたくし実況部部長キーラン・ドストエフスキー、解説フローラ・ユン学園長先生でお送りします」


「よろしく」


「いやーそれにしても今シーズン初の決闘が今日、入学式の日になるとは思っても見ませんでしたね。しかも、新入生首席のラバル・エラートくんが戦うんですからね。物凄い盛り上がりですね!」


 実況部とは、決闘や学生大会での実況を担当する部活である。

 彼らの仕事は、会場を盛り上げるDJや選手の呼び出しを行なうリングアナウンサー、各地で生配信されている中継映像に実況を付けることなど多岐にわたる。


「そうだな。今注目の新入生首席の戦いに注目が集まるのは必然かもな」

「そうですね。それではまずこの決闘の情報を整理しましょう」


 闘技場の上から吊るされた巨大なモニターと観客席前方のホログラムに今回の決闘の詳細が画像と共に映し出された。


「この決闘は、校内でも有名な不良集団サイキックのメンバー4名とラバル&サラのチームによる試合で、試合形式はペアとチーム戦を融合させたデュオという形式で行われますが、フローラ先生デュオとは一体どういったものなのでしょうか?」


「デュオとは最大6名までのパーティを組むんだが、人数の決まりはない。1人以上6人以下ならなんでも良いという方式だ」


「へぇーそうなんですね」


 いかにもそう思っていない「へぇー」だな。


 俺たちは決闘場へと続く廊下を進み、入口の手前で決闘委員会の生徒に止められていた。


「ではまず、この水人形に血を付けてください」


「これは?」


 水人形と呼ばれた、人の形を模した氷のように透き通り、寒天のように柔らかい謎の物体を押し付けられ、しかもいきなり血を付けろだと?


「そうでしたね。ラバルくんは知らないんでしたね」


 係の生徒がそうだったと言いながら説明を始めた。


「まず、決闘すると言っても死なせたり怪我したりするのはダメなので、皆さんの制服には特殊な術式が織り込まれていて、決闘時にダメージを受けないようになっています」


 なるほど、この謎の付与魔法はそのためか。


「ですが、それでは決闘の意味がありません。勝ち負けの基準なければ決闘という学園の取り決めた制度の意味がありませんから」


 確かにそうだ。せっかく決闘というプライドを掛けた闘いがあるのに、それでは決まらないでは全く意味が無い。

 私闘が増えて治安が悪くなり、最悪の場合死者が出る。


「それで開発されたのがこの『ダメージ集蓄積術式内蔵汎用型人形』通称、水人形です」


 これが受けたダメージを肩代わりしてくれるということか。


「そして、これを使うには、使用者の血を術式に読み込ませて、皆さんが着ている制服の術式とリンクさせ、使用者の情報を読み取ることによって初めて効果を発揮します」


「なるほど。だが、ひとつ質問がある。使用者の情報を読み取るのは分かったが、それを使ってどうやってダメージを肩代わりするんだ?それに、人それぞれ防御力や体力は違うだろ?」


「そうですね。でも、皆さんが受けた入試を覚えていますか?」


「ああ」


 この学園の入試は変わっていた。


 初日が学力、数学・国語・社会・理科はもちろん、魔法学・薬草学などより専門的なことを1問2点の50門100点満点のテストがまずある。


 二日目に攻撃魔法と防御魔法、回復魔法などの初歩的なことをやった。

 その後選ばれた生徒だけで上位魔法の試験をした。


 三日目は体力測定、武器による攻撃能力の測定、ロボット数百台と戦うという実戦的な試験などを行なった。


「その三日目の試験で契約神などを使って十数台のロボットと戦う試験があったと思うんですが、そこで皆さんのデータを取っていたんです」


「そうだったんですね」


 なるほど、だから俺はあんなに戦わされたわけか。

 より正確な俺のデータを取るために。


「そのデータは皆さんの制服を通して学園のデータベースに検索がかけられ、見つかったデータを元に水人形がダメージを肩代わりしてくれるという仕組みになっています」


「凄いですね」


 まさかそんな凄い術式がこの制服にあるとは思わんかったなぁ。


「つまり、防御力や体力によって水人形が肩代わりしてくれるダメージが異なるということですね」


「そうです!」


「では、どうやって勝負を決めるのですか?」


 ここで新たな疑問が生じる。

 水人形がダメージを肩代わりしてくれるのなら、俺たちは怪我をしない。


 だが、その水人形には個人差あれど限界がある。


 なら水人形が耐えきれないほどのダメージを受けてしまったらどうなるんだ?


「勝負のルールは簡単ですよ。相手の水人形が壊れたら負け。複数いるのなら相手の水人形全てを破壊した方が勝ちとなります」


 単純明快だな。


「教えて下さってありがとうございます」


 つまり、水人形は俺たちの分身体でその分身体が死なないようにするということか。


「いえいえ。これが私の仕事ですから」


 その女子生徒は柔和な笑顔を浮かべながら、「分からないことがあったら聞いてくださいね」と言いながら針を手渡してきた。


 これで皮膚に穴を開けて血を付けろということだろう。


「血を付けたらくださいね」


 そう言うとその女子生徒は事務所らしき部屋に入っていった。


「学園都市ってやっぱ凄いんだな」


「私は怖いですよ。実験施設みたいで」


 俺の独り言にサラが吐き捨てるようにそう言った。


「すいません。今のは忘れてください」


 サラは自分が何を言っているんだろうと驚いた顔をしながら、俺の顔を覗き込んだ。


「ああ。分かった」


 何が分かったというんだというツッコミはさておき、今はこれしか言えない雰囲気だったんだ。

 有無を言わせない圧を彼女から感じた。これしか言ってはいけないと言わんばかりの物凄い圧を。

 それと、負の感情の鎖が彼女に巻きついているような感じがした。


「出来ましたか?」


 そうこうしているうちに係の生徒が事務所から出てきてしまった。

 まずいまずい。早くしなくては!


「はい。どうぞ」


 俺が針を刺すのを急いでいる間にサラは自らの血の付いた水人形を渡していた。

 いつの間に終わっとったんや!?


「すいませんちょっと待ってってください」


 俺は謝りながら親指に針を刺した。

 すると血が傷口からプクっと溢れ出てきた。

 そしてそれを水人形に押し付けた。


「すいません」


「ありがとうございます」


 係の生徒が快く受け取ると再び事務所らしき部屋に入っていった。


「いよいよだな」

「そうですね」


 サラはこういう時でも落ち着いているなぁ。

 普通こういう時って、興奮するか緊張するか怖がるかするだろ。


「緊張してる?」

「ええ。まぁ」


 顔色ひとつ変えずサラはそう言った。

 ポーカーフェイス過ぎるだろ。

 もはや表情筋喪失してるレベルだぞ。


「すいませんお待たせしました。今、扉をお開けしますね」


 係の生徒は鍵を持って目の前の扉の鍵を開けた。

 そして扉を開いた。


「ここから先は戦場です。ご武運を」


 彼女の開けた扉の先には明るい大きな空間が広がっていた。

 そこが決闘の場だと一瞬で分かった。


「それじゃあ行きますか」

「そうですね」


 紅い鬼の勇者と白銀のポーカーフェイスの妖精が戦場へと一歩踏み出す。


 さぁ久しぶりの実戦と行きますか!

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