初めての決闘
「すまないな呼び出して」
珍しくフローラ姉さんが申し訳なさそうにしているのが逆に怖い。
「別に大丈夫だよフローラ姉さん。それで、俺と彼女を呼び出して一体どんな用事だ?」
フローラ姉さんに呼び出されていたのは俺だけではなかった。
俺が来るよりも先に白銀の妖精が学園長室に来ていた。
「まぁそんな大したことじゃない」
俺と彼女が呼び出されるなんて一体何事だ?
「アンタの口から大したことないことなんて言われたことなんかないんだが?」
「まぁまぁ確かにそうかもな。でも、今回は簡単なお仕事だよ。あたしが保証する」
もしかして今朝の一件のことか?
「すいません学園長先生、どうしてラバルさんを呼んだのか分からないんですが」
鈴の音のような可愛らしい声が耳に心地良い。
「まぁ二人とも落ち着け。そう焦るな」
焦るなって言われてもなぁ。
「まずはクソガキにコイツの事情を説明しないとな」
事情?
確かリュー先輩は彼女は戦いを好まないと言っていた。
でも、俺たちと同じAクラスにいる。
それに俺や風紀委員長に気付かれずにあの場を立ち去っていた。
まぁかなりの実力者だということは分かる。
でも、俺を呼び出してまで伝えたい事情ってなんだよ。
「コイツのアダ名を聞いたか?」
「アダ名?知らねぇよ」
「そうかならいい。コイツは『災厄の魔女』と呼ばれている。彼女は不幸を呼び寄せちまうのさ。だからこう呼ばれている」
「なんじゃそりゃ」
「信じていないな」
「当たりめぇだろ。不幸体質なんてもんは存在しねぇんだよ。ただの不器用な奴なだけで不幸も不運も呼び寄せる人間なんていねぇよ」
「まぁお前は見ていないからそう言えるだろうが、コイツの周りで起こった出来事を聞けば、考えも変わるさ」
科学的にも魔術的にもそんなこと有り得ない。
それこそ呪術の類でなければ人の幸運値などという存在しないものを操れないだろうし。
それにもし仮にそんな呪術があったとして、それを扱える術師がいるとは思えない。
人ひとりの運命を変える術式はとてつもなく複雑で膨大な力が必要なはずだ。
「そうかい。だとしても俺はフローラ姉さんの話は信じられないな」
たった一人の少女を呪うにしては規模がデカすぎる。
そんな絶対不可能に決まっている。
「まぁいい。それよりもクソガキに来てもらったのはコイツの世話を頼みたくてな」
「は?世話?赤ん坊でもねぇのになんの世話がいるんだよ?」
「そういう世話じゃねぇよ。てめぇの性癖なんて知らねぇよ」
「誰がドSオヤジじゃ!」
「冗談はさておき、彼女のルームメイトがいなくてな。それで、クソガキお前に白羽の矢が立ったってわけだ」
「なんで俺なんだよ。アリアだっているしマリアもアリスもリアもエミリーだっている。俺じゃなくたっていいじゃねぇか」
「お前は首席だ。つまり、お前の部屋は最上階のバカでけぇ部屋だろ?女の子一人くらい連れ込んだってバレねぇよ」
「俺への信頼ドブにでも捨ててきたんか?」
「それで、この可愛らしい妖精ちゃんを連れ込んでほしいんだよ」
「アンタはそれでも教育者か?教育委員会とPTAに怒られろ」
「まぁ多少難アリだが好物件だぞ」
「教師がそんなセリフ言うな。しかも本人の目の前で」
「私は構いませんよ」
「構え少しは構え」
「本人もこういっていることだ、お前がひよってどうする?タマキンついてんのか?」
「もうお前は黙れ!」
「一発ヤッてもバレないからさぁ」
「バレるバレないの問題じゃねぇんだよ!」
「まぁ冗談はここまでにして、あたしはお前が信頼に足る人物だからこうして推薦しているんだよ」
「なんだ、信頼度カンストしてんじゃん」
「で、どうするんだ?」
どうって言われたって……。
俺がこんな可愛い子と一緒に暮らすとか無理だから!
非リアのど陰キャのDKが転生してきただけの俺には無理だ。
いや、これはチャンスか?モテ期到来への布石か!?
でも、待てよ。俺とサラが一緒に暮らしているというのが明るみに出たら俺は社会的に死ぬのか。
モテ期到来どころか、非リア期の到来だぞ!
白い目で見られ後ろ指をさされる。そんなの嫌だァあああ!!
いやまだ非リアならいいか。
いやいや待て!サラってあの大貴族ドレビュール家の出身だったよなぁ!?
てことは、俺は社会的に死ぬだけでなくリアルに死ぬんじゃねぇのか!?
あっぶねぇ!危うくフローラ姉さんの口車に乗せられて断頭台に登っちまうところだったじゃねぇか!
あっぶねぇあっぶねぇ!
「全くお前は本当に優柔不断だな。これぐらいスパッと決めろ。ヤリたいのかヤリたくないのか。お前それでも男か?」
「それを言うならお前は悪魔か?」
「えーっとラバルさん。私は構いませんよ。寝床があればそれでいいので」
何この子天使じゃん。
「ラバルさんには迷惑はかけませんから」
庇護欲を掻き立ててきたか。
くっ、コイツも強い!
「そういわれてもなぁ」
はぁー。これは決められん。
身寄りのない捨て猫みたいなサラを受け入れて、庇護欲を満たすか?
それとも、女子を初日から自室に連れ込んだ外様として有名になるか?
まぁアイツらがどうにかしてくれるよな。
いや、むしろしてくれないと困るんだけど!
「分かり――」
俺が心を決めて答えを言おうとしたその瞬間、放送のチャイムが鳴った。
「こちらは風紀委員会です。1年A組ラバル・エラートくん、同じくA組サラ・ドレビュールさん、至急決闘委員会室まで来てください」
なんだ?
俺と彼女を呼んでいる?
しかも風紀委員会と決闘委員会が。
一体何が起こっているんだ?
「はぁー。まぁいい後でまた来い。早く決闘委員会室まで行ってこい」
俺とサラは学園長室を飛び出した。
全くお前ら息ピッタリじゃんか。
勝手に相部屋にしておくか。
ラバルとサラの愛部屋なんつって。
おもろくないな。