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サリシアの章 その2

名誉がなくなったとはいえ、屋敷や財産が無くなったわけではない。

サリシアに学園に通い続けるよう、父である男爵は言う。

「こんなことになって学園に通うのは辛いだろうが…今までどおり通った方がいい。学園に在籍していれば何とかなる」

「学園を卒業すれば経歴として認められ、王城で働くこともできる」

「せめてお前だけでも幸せになってくれ…」

父の懇願をサリシアは虚な瞳で聞いていた


悪い噂もいずれは飽きて忘れられる。

貴族社会での立場はもうほとんど平民と変わらない。

もはや舞踏会にもお茶会にも呼ばれることはないだろう。



バルギス家は没落した。




サリシアは学園でひとりぼっちになった。

今まではバルギス家の躍進にそのおこぼれをもらおうと擦り寄る令嬢たちがいた。

だがいまや彼女の周りには誰も近寄ろうとしなくなったのだ。

(現金なものね…元々好きな人たちじゃなかったからいいのだけど)

サリシアの様子を見ながらクスクスと嗤う令嬢達。

以前のサリシアなら真っ向から向かっていっただろう。

大した正義もなく、ただ人を見下すしかできない卑怯者。

そうキッパリ言っていたはずだった。


だがもう今はどうでも良かった。

(ばかばかしくて構う気力もないわ)


すると不思議なことにひとりぼっちになったサリシアを気遣い、声をかけてくる男子生徒が何人か出始めた。

今まで挨拶しかしたことのない男子だ。


ある男子はしばらく学園を休んでいたサリシアにその間の歴史の授業のノートを貸した。

ある男子はサリシアの体調を気遣い、馬車でサリシアの邸宅まで送ろうとした。

ある男子はサリシアが図書室で探していた本を見つけてくれた。


ある男子はサリシアをずっと想っていたのだと告白した。


サリシアは彼らの好意にはじめて気がついた。

(私のことを好きな方がこんなにいたの?)


サリシアは自分が美しいということは何となく知っていた。

だが男爵の失脚を機に高嶺の花だったサリシアが没落貴族になった。


ならば今こそサリシアに想いを伝え、そして助けになり、彼女の笑顔を取り戻してこの恋を成就したいと願う男子たちが、ここぞとばかりに我先にとアピールし始めたのだ。

それを物珍しそうに一歩引いた自分がいることをサリシアは自覚していた。

(それって本当に恋なのかしら?)

(だって好きならどんな相手でもそばにいるために努力するものじゃないの?)

(なんだか嘘臭い。

 どうして私が没落してから声をかけてくるのよ?

 私が下の立場じゃないと好きじゃないの?

  結局私を飾りものにしたいんじゃないの?

   自分を着飾って人に見せびらかせて、こんなに可哀想な私を助けてやった優しい男だって

     言って知らしめたいんだわ)


(あの人たちは私を好きなんじゃない

  私を好きな自分を好きなのよ)


誰かに想われ、恋に胸を躍らせるにはサリシアは純粋な心を失ってしまっていた。

15歳の少女は世の中の悪意に晒されて、誰の心も受け入れなくなっていた。



放課後、サリシアが学舎の廊下を歩いていると令嬢達の会話が聞こえた。

「王太子よ

お隣は公爵令嬢だわ」

「ライリアーナ様…ほんと美しい方」

「素敵ね」

令嬢達ははしゃぎながら見惚れる。

サリシアはただぼんやりとカイラスとライリアーナの2人を見ていた。

(……何だか微妙によそよそしい……)

ほんのわずかな違和感だった。

サリシアは自身の父と母が相思相愛なため、二人の仲の良さとその距離をしっていた。

カイラスとライリアーナはほんの僅かだが距離がある。

(あの2人…あまりうまくいってないのかしら)

サリシアの瞳は暗く鈍い光を放つ。

氷のような冷たい視線をライリアーナに向けていた。

視線の先

ライリアーナが王太子カイラスと何か言葉を交わしている。

穏やかに微笑むライリアーナ。

サリシアの眉が苛立ちのため、ピクリと動く。


(どうして…?

 貴女は何も知らない顔をして

  綺麗なままでいられるの…?)


サリシアの瞳から光が消える。

ふつふつと怒りの炎がサリシアの腹の奥から燃え上がるように全身に広がっていく。


(どうして…!

  どうして…!

   貴女だけ幸せだなんて許さない…!)


サリシアはライリアーナをこの時はじめて憎いと思った。


「貴族の頂点に立ち、あらゆる力を手に入れて、その欲望を満たすことなく私達から奪い取った…

絶対許さないわ…カルカイザ…‼︎」


「権力とお金でのうのうと甘やかされて生きてきたんでしょう?

見てなさい…貴女にこの世がどんなものか教えてあげるわ!」


その行為の結果など、どうでも良かった。

ただ恨んでいる時間だけは自分が生きていると実感できたのだ。




王都の空が雷雨に覆われる。

激しく叩きつける雨が窓に降り注ぐ。

「降ってきたな」

王太子カイラスが窓の外を眺めている。

傍にいたライリアーナはざわざわと心がざわつくの感じた。

「あまりひどくならないと良いのですけど」


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