序章
生まれて初めて書く小説です。
仕事の合間に書いてるので更新は遅いです。
気長に待っていただけるとありがたいです。
悪役令嬢
その言葉に首をかしげるライリアーナ。
ライリアーナ・シャロン・カルカイザ公爵令嬢。
マテルシア王国の三大公爵家のひとつカルカイザ公爵家は、財力も権力も王国内でトップクラスの由緒ある家柄である。
そのカルカイザ家の長女ライリアーナは現在16歳。王立マテルシア学園の3年生だ。
いまライリアーナは学園の庭園内通路で、婚約者であるマテルシア王国・王太子カイラス・トーティス・マテルシアとサリシア・アンバー・バルギス男爵令嬢と対峙するような形になっている。
庭園のバラが咲き誇る中、優しい風がライリアーナの美しいプラチナブロンドを揺らしている。
舞い散る花びらがライリアーナの美しさをさらに引き立てている。
ブルーサファイアのような深く煌めく瞳が力強い意思を表し、凛とした印象を与え、ふっくらとしたピンクの艶やかな唇が大人びた印象を与える。
社交界の高嶺の花と呼ばれ、教養高く、誰に対しても忌憚なく意見し、気に入らなければ率直にものを言う。
その不遜さと誰にも媚びぬ態度で損をしているため、皆に愛されるわけではない。
だか悪役とまで言われるほどの性悪でもない。
「なんですの?なんておっしゃいました?」
「貴女は悪役令嬢そのものだ。市井で流行りの娯楽小説の中に出てくる嫌われ者。今の貴女そのものではないか。」
王太子カイラスの不躾な言葉に繊細で美しいまゆをひそめるライリアーナ。
悪役令嬢という汚名を着せられたライリアーナは、幼い頃から見慣れたカイラスの美しい顔立ちが不機嫌そうにゆがむのを見つめる。
「たまたま上位貴族として生まれただけの貴女が、なぜ彼女を見下せるのだ?」
(不思議なことを仰るのね。わたくしが彼女に劣ると仰るのかしら?彼女の今の立場では殿下には分不相応だと言っただけ。なにも間違ってないわ)
と、ちらりとサリシアを見るライリアーナ。
その視線に気がつきライリアーナに勝ち誇ったように口の端をつり上げるサリシア。
さらに眉をひそめるライリアーナ。
王太子の影に隠れ、自らはライリアーナに何も言わず、王太子にすべて投げライリアーナを貶めようとする。
サリシア・アンバー・バルギス男爵令嬢。
あどけなさを残しつつ、可憐な印象で美女というより美少女といったどこか不完全な美しさを持った令嬢だ。
カイラスの背後に隠れ、ライリアーナだけに分かるように挑発的に微笑う。
扇子で口元を隠し吐き気を押し隠すライリアーナ。
どちらが悪役令嬢なのか。
男爵令嬢にすっかりかどわかされた王太子に呆れて何も反論する気にもなれなかった。
「それでカイラス殿下はそのお上品な令嬢を、学園主催の舞踏会にエスコートしたいと仰るのですね?」
不機嫌そうにサリシアを睨みつけるライリアーナ。
王立マテルシア学園
それは上流階級が集う貴族学校である。
貴族や富裕層の出会いの場として、王国内でも重要な学舎。
そこで行われる舞踏会は年に二回、大切な社交の場であり、そこでの振る舞いは家格にかかわるとも言われている。
ライリアーナの言葉を聞いてカイラスの影に隠れたサリシアの口角がさらに上がる。
(これは…何を言っても無駄でしょうね…ほんとに頭の痛いこと…たしかにこの学園は身分隔たりなく人脈を作るための学舎…)
(とはいえ、ご自身の男爵家の不祥事を使ってよもや王族であるカイラス様に取り入るとは。)
(けれどカイラス様も…もう15歳になられるというのに…今バルギス家に関わっては、他の貴族達の反感をかうことになる…頭が痛いことだわ…)
深いため息をつくライリアーナ。
サリシアは自身の男爵家の不安定な立場を使い、王太子であるカイラスに泣きつき事あるごとに相談していた。
その無節操な振る舞いは学園中の女生徒のひんしゅくをかっている。
(しかし…バルギス家はただでさえ立場が危ういのに…この振る舞い…)
(いいえ、もうそこまで追い詰められているのね…)
バルギス家は半年前、領地内で長雨による大洪水が起こり、王国に税が払えず復興もままならない状態だった。
あまりの惨状に見かねた王国が国費からの緊急の補助金を支給。
だがその大事な補助金をバルギス家の当主が詐欺にあい、半分ほど騙し取られるというとんでもない事態に陥ったのである。
無論、王国側は追加の補助金は出したくても出せなくなった。
バルギス家は完全に信用を失ったのである。
結果バルギス家の領地の所有権は別の貴族に預けるという話が出ているのだ。
そしてその領地の仮の主人にと名前があがったのがカルカイザ公爵家である。
ライリアーナとサリシアはまさに因縁の相手だった。
(バルギス家はもはや没落したも同然…サリシア嬢は殿下にすがる事でなんとかなると思っているようですけど…)
(そんな生ぬるい状態ではないわ)
はぁ…と再びため息が漏れる。
「舞踏会でしたら殿下のお好きなようになさって結構ですわ」
ライリアーナの言葉に満足げな顔をするカイラス。
「ですが」
言葉と同時にパシンと、扇子を閉じる。
「このことは父である公爵に報告させていただきます」
「その意味を重々お考えくださいませ」
ライリアーナの言葉にサリシアが不安げな表情を浮かべる。
そんなサリシアの手にそっとカイラスが手を添える。
「図に乗るな。私は王太子だぞ。公爵家ごときが偉そうに」
敵意を剥き出しにライリアーナを睨みつける。
カイラスと目を合わせても動じず、ライリアーナはにっこりと微笑む。
「殿下のお言葉、しっかりとお伺いいたしましたわ」
「それではごきげんよう」とさっそうと立ち去るライリアーナ。
踵を返して歩き出したライリアーナの瞳には厳しい光が灯っていた。