第八十六話 帝国飛行艦隊vs霊樹の森
--飛行空母 艦橋
艦橋にいるジークの元に伝令兵が駆け込んで来る。
「殿下! 一大事です!」
「何事だ?」
「地上にて大規模な地震を観測! 多数の大木が空に浮かび上がり、直下から本艦隊に迫っているとの事です!」
「何だと!?」
ジークは立ち上がると、艦橋の窓の近くへ行き、窓から地上を見下ろす。
「向こうから仕掛けて来たか!」
ジークの目に、空に浮かぶ巨大な大木の群れが、どんどん高度を上げて上昇してくる様子が見える。
ジークが呟く。
「霊樹の森・・・これが・・・」
艦橋の空気が一気に張り詰めたものになる。
ジークは、矢継ぎ早に指示を出す。
「『赤の信号弾』を上げろ! 全艦、防御円陣! 大型輸送飛空挺を帝国本土に退避させろ!」
「飛行空母、緊急上昇! 飛行戦艦は飛行空母の下に入り空母の艦底を守れ!」
「飛空艇、全機発進! 艦隊を直接援護! 敵を近づけさせるな!」
「地上に展開している教導大隊の撤収を急がせろ!」
艦橋に居る航空士官や運航士官、航法士官などがジークからの指示を復唱しながら、わらわらと任務に取り掛かる。
ジークは、傍らのヒマジン伯爵に話し掛ける。
「伯爵、防御戦の指揮をお願いする!」
「判りました!」
ヒマジンが伝令に指示を出す。
「飛行戦艦に伝達! 各艦、個別照準にて霊樹の森を攻撃しろ! 木に体当たりしてでも空母を守れ!」
ジークの傍らに控えていたソフィアがジークの前に来る。
「ジーク様、私も飛竜で出て、航空部隊の指揮を執ります!」
「判った。ソフィアに任せる!」
ジークの了承を得たソフィアは飛行甲板へ向かう。
--少し時間を戻した 霊樹の森
木の上に築かれている城の尖塔の一室にダークエルフのシグマは居た。
城全体に大きな衝撃と振動が起こる。
シグマが傍らの従者に尋ねる。
「・・・どうした?」
「確認して参ります」
従者は、部屋を出ると、一時の後、部屋に戻ってシグマに報告する。
「・・・帝国軍からの攻撃のようです」
「ほう・・・?」
シグマは尖塔の窓から外を眺める。
遠目に、帝国軍の四隻の飛行空母と四隻の飛行戦艦、それを取り巻くように飛び回る多数の飛空艇と、艦隊の真下から突き上げるように高度を上げていく霊樹の森の姿が見える。
飛行戦艦と飛空艇は、主砲や副砲で霊樹の森を攻撃していた。
シグマが呟く。
「あれが帝国軍の飛行艦隊か・・・」
窓から帝国軍の飛行艦隊を眺めるシグマが不敵な笑みを浮かべ、傍らの従者に命令する。
「フッ・・・面白い。霊樹の森を帝国軍の飛行艦隊に接舷させろ! 鼠人に帝国軍の艦隊に乗り込んで戦うように伝えろ。我々、ダークエルフも出るぞ」
従者はシグマに一礼して答える。
「判りました」
--国境付近の森の中
地上に出たアレク達は、帰還する時に指定された地点を目指して歩いていた。
ルイーゼは六分儀で現在位置を確認する。
霊樹の森が空に浮かび上がったため、アレク達の周囲の森は、所々、地面に大穴が空いており、草木が生い茂る森の中であったが、大木があった場所は、ぽっかりと穴が空いたように空を見上げることができた。
アルは空を指差して口を開く。
「アレク、あれを見ろよ!」
アルが指を指す先では、帝国軍の飛行艦隊が空に浮かび上がった霊樹の森を攻撃していた。
アレクもアルが指差す先を見て口を開く。
「帝国軍が! 戦っているのか!」
飛行戦艦の主砲による砲撃を受けて爆発と共に燃え上がる大木。
浮かび上がった大木が飛行戦艦の艦底にぶつかり、艦底に擦れて緑の葉を散らしてその枝を折りながら、その浮上する向きを変えていく。
大木とはいえ、飛行戦艦の鋼鉄の装甲板を衝突したくらいでは破る事は出来ないようであった。
艦隊の周りを飛び交う無数の飛空艇も主砲で空に浮かぶ大木を攻撃していた。
飛行戦艦の大口径の主砲は、命中すると霊樹の森の大木をも破壊し、炎上させることができた。
しかし、空に浮かぶ無数の霊樹の森の大木全てを撃破することはできずにいるようであった。
飛空艇の二門の主砲では火力が小さ過ぎ、霊樹の森の大木にダメージを与えているようであったが、完全には撃破できないようであった。
ルイーゼも空を見上げて目を凝らす。
一体の飛竜が火炎息で空に浮かぶ霊樹の森の大木を炎上させていた。
(あれは・・・ソフィア様!)
しかし、飛竜の火炎息では、霊樹の森の大木の一つに火をつけるだけであった。
ナタリーも空を見上げて呟く。
「帝国軍が・・・苦戦してるみたい」
トゥルムも口を開く。
「うむ。空に浮かぶ霊樹の森の木の数が多すぎる。流石に多勢に無勢だろう」
ナディアが口を開く
「・・・早く飛行空母に戻りましょう!」
エルザも口を開く。
「ルイーゼ! 帰還地点まで、あと、どれくらい?」
地図を見ながらルイーゼが答える。
「もう少し! 近いはずよ!」
アレク達は、帰還地点までの歩みを急ぐ。
--飛行空母 艦橋
艦橋にいるジークの元に伝令兵が駆け込んで来る。
「報告します! 接近した霊樹の森の大木から、甲板に敵兵が乗り込んできました!」
ジークが口を開く。
「隔壁を閉鎖しろ! 総員、白兵戦用意!」
命令を発したジークがヒマジンに告げる。
「ヒマジン伯爵、ここを頼む。・・・アストリッド! 我々も甲板へ向かうぞ!」
ジークの傍らのアストリッドが答える。
「はい!」
ジークとアストリッドの二人は、艦橋を後にして飛行甲板へ向かう。