第八十四話 焼き討ち
アレクとルイーゼは、仲間の待つ地下道の出入り口まで戻る。
二人の帰りを待っていたアルが尋ねる。
「良かった。二人とも、無事だったか。・・・それで、どうだった? 捕まった人達は居たのか?」
アレクが答える。
「・・・いや。捕まった人達は、既に殺されて食糧にされていたよ」
アレクの言葉を聞いたアルが、呟くように答える。
「・・・そうか」
アレクの脳裏に鼠人に襲撃され、蹂躙された男爵領の開拓村の光景が浮かび上がる。
鼠人に捕まって惨殺され、解体されて食糧にされていく開拓村の人々の姿。
アレクは視線を落として俯くと、重苦しく口を開く。
「こいつらは・・・。鼠人は、この大陸に居てはいけない連中だ」
アレクの言葉を聞いたルイーゼが驚いて呟く。
「・・・アレク」
トゥルムがアレクに尋ねる。
「それで、隊長。どうするんだ?」
アレクが決断を口にする。
「鼠人の地下都市を焼き討ちしよう!」
アルは明るく振る舞い、アレクと肩を組むと軽口を叩く。
「よっしゃ! やっちまおう!」
エルザとナディアも追従する。
「そう来なきゃね!」
「火蜥蜴を召還するわ!」
アレクはナタリーに指示する。
「ナタリー。一番強力な魔法を地下都市に叩き込め!」
ナタリーは笑顔で答える。
「任せて!」
ナタリーは杖を高く掲げると、魔法の詠唱を始めた。
「Manna,omul tuturor lucrurilor.」
(万物の素なるマナよ)
ナタリーの足元の地面に一枚、ナタリーの頭上に等間隔で直径十メートルほどの光る大きな魔法陣が六枚、描かれ浮かび上がる。
ナタリーは詠唱を続ける。
「Bazat pe Legă mântul Baikalt.」
(バイカルトの盟約に基づき)
「Vreau ca focul lumii interlope să trăiascăcu prezentul.」
(冥界の業火を常世に現さんと欲す)
地下都市の中央、神殿の上空、建物のやや上の位置に大気中から無数の光が集まり、小さな紫色の球体を形作った。
その紫色の球体は瞬く間に大きく巨大になる。
ナタリーは更に魔法の詠唱を続ける。
「Acum vino aici cu puterea manei și a lunii !」
(今、此処にマナと月の力によって現出せよ!)
「Distrugeți-midușmanii! !」
(我が敵を滅ぼせ!!)
「地獄業火爆裂!!」
ナタリーが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって大気中に砕け散る。
神殿上空の紫色の球体は、巨大な炎の塊に姿を変え気化爆弾のように大爆発を起こした。
鼠人の地下都市は爆炎に包まれ、神殿をはじめ多くの建物が燃え上がる。
ナタリーの魔法の爆風の余波は、アレク達のところまで届く。
エルザは呟く。
「・・・凄い」
ドミトリーも呟く。
「第六位階魔法・・・」
アルは悪態を突く。
「・・・開拓村の礼だよ。鼠共」
アレクとルイーゼは、二人並んで立ったまま、無言で地下都市が爆炎に包まれていく様子を見詰めていた。
ナディアは、火蜥蜴を三体召還すると、地下都市を攻撃するように命令する。
三体の火蜥蜴達は、地下都市を目指して歩いて行き、建物にたどり着くと火炎息で炎上させていく。
ナディアはアレク達に告げる。
「後は、あの子たちがやるわ! 行きましょう!」
アレクが脱出を指示する。
「皆、脱出だ! 行くぞ!」
ユニコーン小隊の面々は地下道に入り、地上を目指して走り出した。
アレク達が地下道を進んでいると、大きな地鳴りがし始める。
アルが口を開く。
「おいおいおいおい! まさか、崩れるんじゃないだろうな!?」
ナディアも不安を口にする。
「何だか、ヤバい感じね」
エルザも口を開く。
「急いだほうが良さそうね!」
アレクは叫ぶ。
「皆、急ごう!」
アレク達は、地上への道を急ぐ。




