第八十四話 地下神殿
神殿の敷地内に侵入したアレクとルイーゼは、神殿の中に忍び込める所を探す。
二人が探索すると、神殿の建物には換気のための窓が多数あったが、窓に窓ガラスは無く、中に忍び込むのは容易に思えた。
二人は、ガラスの無い窓から神殿の中に入る。
アレクが中の部屋を見回すと、一対の粗末な机と椅子のある、控え室のような部屋であった。
ルイーゼが扉の方を向いてアレクに告げる。
「シッ! 誰か来る!」
ルイーゼは、ショートソードを抜いて扉の開く側に、アレクも剣を抜いて扉の影の側に息を殺して潜む。
ルイーゼの顔が、いつもの愛らしい表情から戦士の顔付きに変わる。
部屋の扉が開かれ、鼠人が部屋の中に入って来る。
部屋に入って来た鼠人は、丸眼鏡のゴーグルのような物を付けてローブを羽織った、魔術師とも科学者とも取れる格好であった。
ルイーゼは、鼠人が部屋の中に入ってきた瞬間、顎下からショートソードを突き上げる。
ショートソードは、鼠人の顎下から頭部を貫き、頭頂部から剣先が突き出る。
鼠人が一言も発せずに絶命する、見事な暗殺者の早業であった。
アレクは扉の影から出て、鼠人の死体を部屋の奥に引っ張り込む。
アレクは扉の影から出て、鼠人の死体を部屋の奥に引っ張り込みながら口を開く。
「コイツ、ヘンテコな格好してるけど、魔術師か? それとも科学者?」
ルイーゼは、ショートソードに付いた鼠人の血のりをぬぐいながら答える。
「判らない。その両方かも……」
二人は部屋から廊下の様子を窺う。
大勢の鼠人の声が壁越しに聞こえてくる。
ルイーゼは、そっとアレクに耳打ちする。
「この壁の向こう……大勢の鼠人がいるわ」
アレクが小声で答える。
「神殿で集会でもやってるのかな?」
「たぶんね」
二人は、部屋を出て廊下の奥の曲がり角まで小走りで進むと、角から先の様子を窺う。
曲がり角の先は、神殿の祭壇に繋がる舞台袖になっていた。
神殿内は、大勢の鼠人たちがいる『前室』とローブを着た三体の鼠人が居る『祭壇』という構造になっており、アレクたちは、祭壇を正面から見た時、祭壇右側の舞台袖の辺りに居た。
アレクたちが様子を窺っていると、何やら『儀式』が始まるようであった。
武装した鼠人たちが、鎖に繋がれた鼠人たちを祭壇に連れてくる。
鎖に繋がれた鼠人は、十体ほど。
武装した鼠人は、鎖に繋がれた鼠人たちを祭壇中央まで連れてくると、祭壇の中央にある杭に鎖を繋ぎ止める。
鎖に繋がれた鼠人たちは、悲鳴のような鳴き声を上げていた。
ローブを着た三体の鼠人は、一定の間隔を開けて鎖で繋がれた鼠人を取り囲むように並ぶと、魔法とも祈りとも思える動作を始めた。
祭壇を取り囲むようにそびえる六本の大きな水晶柱が青白く輝きだし、祭壇の上に巨大な魔法陣が浮かび上がり、青白い光を放ち始める。
魔法陣の中で鎖に繋がれた鼠人たちは、悲鳴を上げて泣き叫んでいた。
やがて魔法陣の放つ光は目が眩むほど強くなり、爆発したかのように発光すると、直ぐに元の魔法陣に戻る。
魔法陣の中央に居た鼠人たちは、一つの大きな肉塊に姿を変え、モゾモゾと蠢く。
やがて肉塊は、鼠合成獣へと姿を変えていく。
それは、鼠の頭を三つ持ち、四本の前足と二本の後足、太く長い鼠の尻尾を持つ、河馬ほど大きさの化物であった。
その様子を見ていたアレクがルイーゼに耳打ちする。
「……あいつら、仲間を犠牲にして化物に変えても、何とも思っていないんだな……」
ルイーゼが答える。
「……どおりで街の人通りが少ないはずだわ。同族を犠牲にしてあんな化物を作っていたら、確かに人口は減るわね」
帝国軍との戦いで軍勢の主力を失った鼠人たちは、その戦力を立て直すため、同族を犠牲にして鼠合成獣を錬成している最中であった。
アレクが呟く。
「あの魔法陣、初めて見る文様だ……」
ルイーゼが答える。
「人間の……この大陸の魔法では無さそうね」
そう答えると、ルイーゼは羊皮紙を小物入れから取り出し、魔法陣の文様を羊皮紙に書き写す。
ルイーゼが魔法陣を書き写している間も、鼠合成獣を錬成する儀式は繰り返されていた。
書き写し終えたルイーゼがアレクに告げる。
「魔法陣の写しは終えたわ。引き揚げましょう」
「そうだな」
二人は、来た道を戻り始める。
二人は、再び木片を使って木塀を乗り越え、神殿の敷地から通りへ出る。
路地裏を小走りで進んでいると、建物から悲鳴のような鳴き声が聞こえてくる。
アレクがルイーゼに問い掛ける。
「何の叫び声だろう?」
「この建物からね……」
二人は声がした建物の窓から中を探る。
建物はやや大きさがあり、神殿と同じように窓には窓ガラスなど無かった。
二人がそっと建物の中の部屋を覗くと、六体の鼠人が鎖で壁に繋がれていた。
二体の武装した鼠人がやってきて、鎖で繋がれている鼠人を犯し始める。
アレクとルイーゼに聞こえてきたのは、犯されている鼠人の悲鳴であった。
鼠人にとって、女(雌)は性欲の捌け口であり、子供を産ませるための道具でしかなかった。
アレクがルイーゼに耳打ちする。
「酷いな……」
「……行きましょう」
二人は声がした建物を後にする。




