表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第四章 トラキア連邦
77/543

第七十二話 皇帝と皇太子、身の振り方

--夜。


 ジークは、一人で自分の部屋に居た。


 ソファーに座り、今後の事を色々考える。


 ジークの私室に転移門(ゲート)が開き、中からラインハルトとエリシスが現れる。


 ジークは立ち上がると、父であり皇帝であるラインハルトに一礼する。


 ラインハルトとエリシスは、並んでソファーに座り、二人の向かいにジークが座る。


 ラインハルトが口を開く。


「フクロウ便の手紙は読んだ。お前から相談とは珍しい。・・・それで、私に相談したい事とは?」


 ジークが口を開く。


「まず、報告事項から順に。・・・一連の鼠人(スケーブン)絡みの案件ですが、裏でダークエルフが動いていたようです」


 ダークエルフという単語を聞いたラインハルトの眼光が鋭くなる。


 傍らで話を聞いていたエリシスの表情も固いものになる。


 ジークは、ラインハルトとエリシスに、アレクがフェリシアから聴取した内容を報告する。


 ジークから報告を聞き終えたラインハルトは苦々しく口を開く。


「・・・革命政府のヴォギノがまだ生きていたのか。・・・それに裏でダークエルフが暗躍していた訳だ。合成獣(キメラ)を錬成した魔法技術も、ダークエルフのものだろう」


 エリシスも苦々しく口を開く。


「革命政府のヴォギノなんて、『アスカニアの癌』そのものよ。見つけ次第、殺すべきだわ」


 ジークは続ける。


鼠人(スケーブン)の本拠地とダークエルフの拠点は、『霊樹の森』というものらしく、帝国と連邦の国境北部付近にあるらしいとの事で、トラキア連邦領内の鼠人(スケーブン)と残存する連邦の抵抗勢力を排除しつつ、『霊樹の森』の正確な位置を捜索して割り出すつもりです」


 ラインハルトが答える。


「・・・鼠人(スケーブン)や連邦の抵抗勢力は、恐れることは無い。辺境派遣軍で十分、対処できるだろう。・・・だが、ダークエルフは危険だ。奴らは手強い。帝国の全軍をもって討伐に当たる必要がある」


 ジークが驚く。


「帝国の全軍を動員するのですか!?」


 ラインハルトが答える。


「そうだ。慎重に捜索して『霊樹の森』の正確な位置を割り出せ。帝国の全軍を投入して一気に叩く! ・・・決して功を焦って辺境派遣軍だけで戦おうとするな。闇の眷属であるダークエルフの魔法体系や魔法技術は我々のものとは異なる。その戦力は未知数だ」


 ジークは答える。


「・・・判りました」


 ラインハルトは尋ねる。


「・・・それで、相談とは?」


 ジークは口を開く。


「はい。トラキアの議長の女についてですが、このままだと、帝国の法に則り、彼女は戦争犯罪人として処刑されるでしょう?」


「・・・そういう事になるな」


 ジークは真剣な顔でラインハルトに伺いを立てる。


「そこで父上にご相談なのですが、トラキア戦争の『戦利品』として彼女を父上に献上致しますので、彼女を囲って頂き、父上のお力で彼女を助命して頂けないかと」


 ラインハルトは焦りながら答える。


「待て、ジーク。息子から若い女など献上されては困る。『皇帝は、若い女欲しさに隣国に攻め込んだ』との誹りを受けかねん」


 ジークは続ける。


「黒目黒髪の美人で、なかなか良い身体をしてますよ? 古今東西、歴史的に征服者が被征服民の女を妃や愛妾にする事など、珍しくは無いでしょう?」


 ラインハルトは渋る顔をして話す。


「・・・それはそうだが、お前もナナイの性格は良く知っているだろう?」


 ジークは怪訝な顔をする。


「母上ですか?」


 ラインハルトは、重苦しく静かに口を開く。


「・・・皇太子である、お前だから話す。他言無用だ。・・・昔、私は、やむを得ず、一度だけ他の女と肉体関係を持って、お前の母を泣かせた事がある。それ以来、私は二度とお前の母を裏切らないと誓ったのだよ」


 ジークは驚いた表情で頷く。


「・・・そうでしたか。初めて聞きました」


 過去にラインハルトは、義妹のティナに掛けられたダークエルフの呪いを解くため、義妹のティナを抱いて肉体関係を持ったことがあった。


 エリシスは、その事件が起きた時、その現場に居たので経緯を知っていた。


(※詳細は『アスカニア大陸戦記 黒衣の剣士と氷の魔女』を参照)


 エリシスがラインハルトの顔を見ると、封印した過去を話すラインハルトの顔には、愛する妻ナナイを裏切り、愛する妹ティナの純潔を奪ったという、二重の深い苦悩が見て取れた。


 ラインハルトは口を開く。


「彼女を助命する事は簡単だ。勅命で彼女を免罪しよう。・・・ジークよ。お前、『敵の女』に惚れたのか?」


 ジークは、慌てて否定する。


「いいえ! 私ではありません! アレクがすっかり、あの女に熱を上げており、それも『困った熱の上げ方』でして・・・」


 ラインハルトは怪訝な顔をする。


「アレクが?」


 ジークは詳細を説明する。


「はい。今回のあの女の助命嘆願も、アレクからの頼みです。・・・説明や例えが難しいのですが、『舞台女優に対して心惹かれる』というか、『女教師に対する恋慕』というべきか。アレクが、その類の恋愛感情を、あの女に抱いておりまして・・・」


 説明に苦しむジークにエリシスが助け舟を出す。


「『憧れの年上女性』といったところね?」


 エリシスの言葉にジークが同意する。


「はい。あの女は神職の巫女。皇宮には居ないタイプの女でして、アレクは初めて見た『神職の巫女、憧れの年上女性』にすっかり心を射抜かれてしまったようです」


 エリシスとジークの説明を聞いたラインハルトは苦笑いする。


「・・・それは困ったものだな。彼女を助命した後、アレクの妃にする訳にもいかない。アレクが彼女の尻の下に敷かれるのが目に見えている。・・・彼女をアレクの妃にして、将来、アレクに領地を持たせたら、トラキアに帝国領土を切り取られたのと変わらなくなる。・・・かと言って、私が彼女を愛妾として囲う訳にもいかない。・・・彼女の身の振り方を考えねばなるまい」


 ジークが力無く答える。


「・・・はぁ」


 ラインハルトが口を開く。


「・・・そうだ! ジーク! 彼女を、お前の三人目の妃にしろ」


 ジークが驚く。


「は!? 私の妃にですか? 私には、既にソフィアとアストリッドという妃が居ります」


 ラインハルトが口を開く。


「ジカイラからの手紙によれば、最近、アレクに四人目の妃候補が決まったようだ。第二皇子のアレクに四人の妃が居るのだ。皇太子のお前が三人の妃を持ったところで、おかしくはあるまい?」


 ラインハルトが続ける。


「それにお前が言った通り、古今東西、歴史的に征服者が被征服民の女を妃や愛妾にする事など、珍しくは無い。征服者である皇太子のお前が、被征服地であるトラキアの女王を第三妃にする。そして、皇帝である私が皇太子の第三妃となる彼女を勅命で免罪する。将来、産まれてくるお前と彼女の子にトラキアを治めさせれば良い。・・・話の筋は通るだろう?」


 唖然としたままジークは答える。


「確かに、それはそうですが・・・」


 ラインハルトは微笑む。


「・・・不服か?」


 ラインハルトの様子から他に方法が無い事を悟ったジークは答える。


「・・・いいえ」


 ラインハルトは続ける。


「彼女は『敵の女』だが、お前なら心配無い。乗りこなして見せろ。・・・彼女はお前より年上だが、くれぐれも尻の下に敷かれるなよ? 帝国を丸ごとトラキアに乗っ取られる訳にはいかないからな」


 ジークは答える。


「それは・・・心得ております」


 ラインハルトとエリシスは畏まるジークに微笑むと、転移門(ゲート)を通って皇宮へ帰って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ