第六十八話 作戦会議、再び
--夜。飛行空母内 ラウンジ
アレク達ユニコーン小隊のメンバーは、夕食を終え、食後の時間をラウンジで寛いでいた。
「皆さん、お疲れ様でした。デザートはいかがですか?」
カルラが食後のデザートを勧めにアレク達の席にやってくる。
カルラは、以前、アレク達が鼠人から助けた姉妹の姉の女の子であった。
エルザがカルラに微笑み掛ける。
「カルラ、元気そうね!」
カルラは、笑顔で答える。
「はい!」
ナディアがカルラに尋ねる。
「今日のデザートは何?」
「フルーツポンチです」
「頂くわ」
「はい! どうぞ!」
カルラは、デザートカップにフルーツポンチを取り分けると、ナディアに渡す。
「ありがとう」
ナディアは、受け取ったデザートカップからフォークで果物を一切れ刺して食べる。
「美味しい。ルイーゼ、ナタリーもどう? 美味しいわよ」
ナディアに勧められて、ルイーゼとナタリーもフルーツポンチをカルラに頼む。
「私も貰おうかな」
「私も~」
ルイーゼとナタリーも、カルラからフルーツポンチを受け取って食べ始める。
エルザは、カルラに話し掛ける。
「ねぇ、カルラ。男の人に精力を付けるものは無いの?」
「え!?」
エルザの言葉にカルラだけでなく、周囲のユニコーン小隊の者達も驚く。
ルイーゼがエルザに尋ねる。
「ちょっと! エルザ! カルラに何を頼んでるのよ!?」
エルザは、悪びれた素振りも見せず続ける。
「アレクに精力をつけてあげないとね~」
アルが口を開く。
「おいおい、エルザ。カルラには、まだ、その手の話は、早過ぎるんじゃないのか?」
カルラは、頬を赤らめながら答える。
「私、知ってます! ニンニクとか・・・、ですよね!?」
ナディアは、口元に手を当ててクスリと微笑む。
「女の子は『おませさん』だから・・・」
エルザは、ニンマリとした笑顔でカルラに答える。
「そうそう! 一晩中、男の人がギンギンになるやつね。何せ、アレクには、奥さんが三人も居るから!」
カルラが驚く。
「ええっ!? そうなんですか?」
エルザが続ける。
「そうよ! まず、ルイーゼでしょ? 二人目がナディアでしょ? それと、私で三人目」
エルザの言葉に周囲は、苦笑いする。
エルザの言葉を聞いたカルラは口を開く。
「それじゃ、私を隊長さんの四人目の奥さんにして下さい!」
「ええっ!?」
その場に居る全員が驚く。
アルは隣の席のアレクの肩に手を置くと、しみじみと語り掛ける。
「なぁ、アレク。オレ達、親友だろう? ルイーゼとお前の事は、皆が知ってる。オレも二人は『お似合いのカップル』だと思う。ナディアとエルザは悪い冗談としてもだ。・・・お前、つい、さっきまで『美人の年上お姉さん』の事であれこれ悩んでいただろう? 親友のオレにも内緒で、一体、いつの間にカルラみたいなロリっ娘まで口説いていたんだ?」
アレクは、焦ってしどろもどろにアルに答える。
「いや、ちょっと待て! 悩んでいたとか、口説いたなんて・・・」
ナタリーも頬を赤らめてアレクに話し掛ける。
「アレクって、年上の女性も、年下のロリっ娘も、好みのタイプだったの!?」
ルイーゼ、ナディア、エルザ、カルラの四人は集まると、ひそひそと話し始める。
エルザの声が聞こえる。
「・・・いいこと? このお姉ちゃんが一番で、こっちのエルフのお姉ちゃんが二番。私が三番で、カルラは四番よ! 判った?」
「・・・うん!」
一夫多妻制のアスカニア大陸では、その家庭に妻が何人いても問題にはならないが、その家庭における妻の序列は重要であった。
アレクが密談中の女の子四人に向かって口を開く。
「・・・頼むから、勝手に順番を決めないでくれ!」
トゥルムは、感心したように口を開く。
「隊長は異性からモテるんだな。蜥蜴人の部族でも、身体が大きく強い者は異性からモテるぞ!」
アレクと女の子達のやり取りを見ていたドミトリーが呟く。
「・・・煩悩だ。まさに煩悩だ。悟りの道は遠いな」
ジカイラがラウンジにやってきてアレク達に話し掛ける。
「・・・お前ら楽しそうだな。何を話しているんだ?」
エルザは、ジカイラに答える。
「中佐! 今、アレクの四人目の奥さんが決まったんですよ!」
ジカイラは、苦笑いしながら答える。
「・・・そうか。色々と大変そうだが・・・仲良くな」
続けてジカイラは、アレクに話し掛ける。
「ところで、アレク。食事は終わったか?」
「はい」
「アレク、ルイーゼ。皇太子殿下がトラキア連邦の議長を捕えたお前達から直接、話を聞きたいらしい」
「判りました」
アレクとルイーゼは、ジカイラに連れられて皇太子である兄ジークの元へ向かった。
ジカイラとアレク達はノックして貴賓室に入る。
「失礼します」
皇太子である兄ジークはソファーに座り、護衛である二人の美女ソフィアとアストリッドと共に貴賓室に居た。
傍らにはヒマジン伯爵と副官のロックス大佐、教導大隊のヒナ大尉が立っていた。
貴賓室のテーブルには、トラキア連邦領土の地図が広げてあった。
ジークが口を開く。
「ここに居る者達は、いつもの、お前達の素性を知っている者達だ。遠慮するな。座れ」
「はい」
アレクとルイーゼは、貴賓室のソファーに座り、ジカイラとヒナは二人の側に立つ。
ジークが続ける。
「早速、作戦会議を始めよう。お前達が、直接、トラキア連邦議長のあの女を捕えたと聞いたが、逮捕する時は、どうだった? 彼女は抵抗してきたのか?」
アレクが答える。
「いいえ。武器を持った二人の男に捕まっていました」
「ふむ」
「ルイーゼが二人の男を投擲で倒して、私達が彼女を保護した。・・・という状態でした」
「なるほどな・・・」
アレクから話を聞いたジークは、考える素振りを見せる。
アレクが尋ねる。
「兄上。彼女をどうするつもりですか? 手荒なことは・・・」
ジークが笑う。
「はは。お前、あの女に惚れたのか? 欲しければお前にやるぞ? なかなかの美人で気が強く、プライドの高い女だが、私に女性を痛めつける趣味は無い。トラキアの王族として遇するつもりだ。・・・彼女は、トラキア連邦政府を代表して降伏することを了承した。これで一応、帝国とトラキア連邦の戦争は終わりだ。降伏に反対する抵抗勢力は個別に叩く。やっと鼠人の討伐に掛かれる」
ジークの言葉にアレクは少し安堵する。
ジークが続ける。
「お前達が議長府を制圧する時に、何か鼠人に関する情報や資料はあったか?」
「・・・いいえ、特に見当たりませんでした」
「そうか。彼女から直接、情報を引き出すしか無さそうだな」
ジークは周囲を見渡し、少し考える素振りを見せた後、ジークの目線がアレクとルイーゼに向いて止まる。
「アレク、ルイーゼ。彼女を保護したお前達二人が聴取に当たれ。私では警戒されて彼女は何も喋らないだろう」
アレクが答える。
「判りました」
穏やかだったジークの表情が張り詰めたものに一変する。
ジークが口を開く。
「いいか。ここから先は他言無用だ。・・・捕虜達の供述を分析すると、トラキア連邦は一枚岩ではなく、連邦内で複数の派閥に分かれて互いに争っていた。そして、トラキア連邦政府の首脳達はダークエルフと関係していたらしい」
貴賓室に居る一同が驚く。
「ダークエルフ!?」
ジークが続ける。
「そうだ。トラキア連邦政府の首脳達がダークエルフと取引し、ダークエルフが鼠人の本拠地である『霊樹の森』というのを新大陸からトラキア連邦領に持ち込んだようだ」
ヒマジンがぼやく。
「・・・なんて馬鹿な事を」
ジークが続ける。
「ダークエルフ達も『霊樹の森』というのを拠点にしているとのことだ」
ダークエルフと聞いて、ジカイラとヒナの表情も強張る。
ジカイラが呟く。
「ダークエルフ。あいつらが・・・トラキアに・・・」
ジークがジカイラとヒナに尋ねる。
「そういえば、中佐と大尉は、以前、ダークエルフと戦ったことがあったな?」
ジカイラとヒナは、十七年前、勅命による港湾自治都市群の探索任務の際に、ダークエルフと戦った経験があり、因縁があった。
ジカイラが答える。
「ええ。・・・かなり手強いですよ」
ジークが続ける。
「革命戦役の英雄である中佐が『手強い』という以上、こちらも相応の戦力と態勢を用意せねばならない。まずは、トラキア連邦政府を降伏させ、抵抗勢力を排除。我が軍の行動の自由を確保する。次に、鼠人の本拠地である『霊樹の森』の場所を突き止め、これを叩く」
ヒマジンが口を開く。
「トラキア連邦政府が降伏する際には『降伏式』が必要でしょうな」
『降伏式』を知らないアレクは、怪訝な顔で呟く。
「降伏式?」
ヒマジンの言葉にジークは嫌な顔をする。
「・・・伯爵。私は、あのような前時代の式典は嫌いなのだが・・・」
ヒマジンが強い口調で答える。
「前時代の式典でも、前時代の文明しか持たないトラキア人には、効果的でしょう。帝国と皇帝陛下の顔に泥を塗った罰は受けて貰わねばなりません」
ジークは、渋々了承する。
「・・・判った。降伏式の式典の子細は、伯爵に任せる」
ジカイラが口を開く。
「殿下」
「どうした? 中佐」
「鼠人の出現にダークエルフが絡むという事を一度、皇帝陛下に報告するべきです」
「・・・ダークエルフは、辺境派遣軍の手に余ると? ・・・そこまでの強敵なのか?」
「その通りです」
「判った。中佐の進言通りにする。他に意見は無いか? ・・・無ければ、作戦会議はここまでとする」
ジークが続ける。
「アレク、ルイーゼ。お前達は良くやった。下がって良いぞ」
「はい。失礼します」
アレクとルイーゼは、立ち上がってジークに一礼すると、貴賓室を後にした。