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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第四章 トラキア連邦
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第六十七話 帝国の皇太子vs亡国の女王

--日没。


 トラキア連邦の首都ツァンダレイを巡る戦いは、バレンシュテット帝国軍の圧倒的な勝利に終わり、首都ツァンダレイとその近郊を制圧し、占領する。


 トラキア連邦軍の敗残兵は、トラキア第二の都市カルロフカを目指して敗走していく。


 帝国軍は、黒死病(ペスト)の伝染を警戒し、警戒部隊を除いて首都ツァンダレイ上空へ軍主力を移動させる。


 




 飛行空母の倉庫区画の一角に臨時に作られた取調室でフェリシアは聴取を受けていた。


 フェリシアは、手枷を付けられたまま椅子に座らされ、テーブル越しに聴取官と向き合う。


 聴取に当たっている担当官は、事務的に確認する。


「・・・名前はフェリシア・アーゴット。トラキア連邦の議長で、バラクレア王国の女王。間違いないか?」


「・・・はい」


 ノックをする音の後、取調室のドアが開けられる。 


 取調室に現れたのは、ジークと二人の女、ソフィアとアストリッドであった。


「で、殿下!?」


 取調官は慌てて席を立つと、直立不動の姿勢を取る。


 ジークは、穏やかに取調官に告げる。


「下がれ」


「はっ!?」


 ジークは、取調官を一瞥する。


「下がれと言っている。・・・彼女はトラキアの王族だ。帝国側も私が相手をするべきだろう」


「ははっ!」


 取調官はジークに深々と一礼すると、そそくさと取調室を後にする。


 ジークは、二人の妃にも同じように告げる。


「お前達も下がれ」


「・・・ですが! ジーク様!」


 ソフィアが反論を言い掛けると、ジークは右手をかざしてソフィアを制する。


「下がれと言っている」


「・・・はい」


 ソフィアとアストリッドもジークに一礼して取調室を後にする。


 ジークは取調官が座っていた席に座ると、フェリシアの手枷を外す。


「戦時下である故、色々と不都合があるかもしれないが、何卒、御容赦願いたい。ここは軍艦でしてね。・・・あと、どちらでお呼びしたらよろしいかな? 『議長閣下』? それとも『女王陛下』?」


 フェリシアは、手枷が付けられていた手首を摩りながら尋ねる。


「フェリシアで結構です。・・・貴方は?」


 ジークは、畏まってフェリシアに自己紹介する。


「これは失礼。申し遅れました。私は、バレンシュテット帝国皇太子にして辺境派遣軍総司令ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテットと申します」


 ジークは自己紹介すると、フェリシアの手を取り手の甲にキスする。


 ジークの自己紹介を聞いたフェリシアは絶句する。


「帝国の・・・皇太子・・・」




 フェリシアは、改めてジークを観察する。


 帝国軍の高級将校用の軍服に身を包んだ、自分と同じくらいの年齢の騎士。


 流れるような金髪、神が作り上げたであろう端麗な容姿。


 自分を見詰める澄んだ美しいエメラルドの瞳は、『敵』を見るように冷たく凍てついた目線を向ける。


 言葉を選んで話し、虜囚の身である自分にも礼を尽くす謙虚さ。


 悪人ではない。


 大声で命令して相手を威嚇する必要も無く、従える必要も無い。


 周囲に穏やかに話していたのは、それだけ自身の権威と権力が絶対的であるから。


 取調官や二人の女達の態度からも明らかであった。


『皇帝から帝国を引き継ぐ絶対的支配者、凍てついた氷のように冷たく恐ろしい人』


 それがフェリシアがジークを見て(いだ)いた第一印象であった。





 フェリシアは、ジークに対して精一杯の虚勢を張る。


 内心は怖くて恐ろしくて仕方が無かった。


「帝国の皇太子殿下が、虜囚の私にどのような御用件ですか?」


 ジークは率直に答える。


「トラキア連邦の国家元首が、どのような人物か会いに来た。お目に掛かれて光栄だ」


 フェリシアは、一番聞きたいことをジークに尋ねる。


「・・・私をどうするつもりですか?」


 ジークは、悪びれた素振りも見せず答える。


「さて。・・・それは考え中だ」


「潔く死なせて下さい」


 ジークは、フェリシアに微笑み掛けながら話す。


「王族にそんな身勝手が許されるとでも? それはダメだな。・・・トラキアの民を『帝国の臣民』とするか、『奴隷』とするかは、貴女次第だ」


 無論、バレンシュテット帝国に奴隷制度など無い。フェリシアを死なせないためのジークの方便であった。


 フェリシアはジークを睨みながら尋ねる。


「・・・トラキアの民を人質に取るような真似など、卑怯だと思いませんか?」


 フェリシアからの問いにジークは、凍てついた目をフェリシアに向けて語る。


「思わない。トラキアの民は帝国の臣民ではない。何千人、何万人死んでも、私の良心は全く痛まない」


 フェリシアは、ジークの態度や口調からその言葉は本気だと察し、観念する。


「・・・それで、私に何をしろとおっしゃるのですか?」


 再びジークは、凍てついた目をフェリシアに向け、右手の人差し指で机を叩きながら、穏やかだが威圧する命令口調で話す。


「トラキア連邦政府を代表して降伏しろ。我々の目的は『鼠人(スケーブン)の討伐』だ。トラキアの民の殺戮では無い」


 フェリシアは、俯きながら答える。


「・・・判りました」


 降伏することを承諾したフェリシアに、ジークは態度と口調を一変させ、優しく告げる。


「・・・今日はここまでにしましょう。貴女には鼠人(スケーブン)の事など、お尋ねしたい事がたくさんある。女性用の物など、必要な物があれば遠慮なく申し出て欲しい。可能な限り用意させる」


 フェリシアは、驚いてジークの顔を見上げる。


 取調官の席を立つジークが、フェリシアに微笑み掛ける。


「またお会いしましょう。では、失礼」


 そう告げると、ジークはフェリシアが居る取調室を後にした。


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