第六十一話 軍法会議
アレク達ユニコーン小隊とルドルフのグリフォン小隊は、飛行空母に帰投した。
偵察に出ていた各小隊の飛空艇が、次々と四隻の飛行空母に帰投、着艦していた。
任務を終えたアレク達は、乗ってきた飛空艇と共にエレベーターで飛行甲板から格納庫に降りると、自分達を出迎えるジカイラとヒナに偵察の結果を報告する。
アレクは、トラキアでは黒死病が流行している事、飛行空母の航路上にある村が救護を必要としている事など報告し、ルドルフは、トラキア連邦軍は鼠人と交戦している事、キャスパー達バジリスク小隊から砲撃された事などを報告した。
ジカイラは、二人からの報告を聞き、少し考えると口を開く。
「一緒に殿下のところに行くぞ。お前達の口から直接、殿下に伝えたほうが良いだろう」
アレクとルイーゼ、ルドルフの三人は、ジカイラとヒナに連れられてジークの元へ向かった。
ジカイラとアレク達はノックして貴賓室に入る。
「失礼します」
ジークはソファーに座り、護衛であるソフィアとアストリッドと共に貴賓室に居た。
傍らにはヒマジン伯爵が立っている。
ジークが部屋を訪れた五人に尋ねる。
「・・・どうした?」
ジカイラが口を開く。
「殿下。強行偵察の結果報告です。二人から直接、殿下に報告したほうが良いと思いまして」
アレクとルドルフは、ジカイラにした報告と同じ話をジークにも話した。
報告を受けたジークの表情は深刻なものになり、傍らに立つヒマジンと顔を見合わせる。
ジークが口を開く。
「・・・トラキア連邦領内では黒死病が流行しているとは。それに、トラキア連邦軍と鼠人が交戦しているなら、奴らが組んでいる可能性は低そうだな」
ヒマジンも口を開く。
「『前線のトラキア連邦軍部隊は、帝国とトラキア連邦の開戦を知らなかった』とルドルフ中尉の報告にあったが、トラキア連邦政府も連邦軍も、黒死病と鼠人で、相当、混乱しているようだな」
アレクはヒマジンに追従する。
「黒死病と鼠人で手一杯で、トラキア連邦は帝国に構っている余裕は無いといった感じでした」
ジークが答える。
「・・・なら、好都合だ。混乱に乗じて、我が軍は一気に敵首都を叩く。それでトラキア連邦との決着は着くだろう」
ヒマジンが口を開く。
「トラキアも、鼠人も、我ら帝国軍とは格が違う。敵ではなかったな。・・・それよりも『味方から撃たれる』事のほうが、深刻だ」
ジカイラが口を開く。
「敵の指揮官と隊長が話すこと自体は、問題無いでしょう?」
ジークが答える。
「問題無い。その戦域だけで一時休戦しても、相手の投降を受け入れても、構わない」
ヒマジンが尋ねる。
「殿下。バジリスク小隊とキャスパーの件は、いかがなさいますか?」
ジークが答える。
「『故意』であれ、『過失』であれ、自軍に重傷者二名、軽症者六名の被害を出したのだ。・・・軍法会議で、それなりの処罰をするしかない」
アレクが口を開く。
「殿下」
ジークはアレクの兄だが、アレクは時と場所を考え、この場はジークを敬称で呼ぶ。
ジークが答える。
「ん?」
「人間同士が争っている場合では、無いのでは?」
ルドルフは、傍らでアレクが自分と同じ考えであることに驚く。
ジークはアレクに自分の考えを述べる。
「それは私も同感だ。だが、トラキア連邦は、陛下からの、帝国からの通達を無視した。・・・帝国の臣民に鼠人による被害が出ている以上、座視する訳に行くまい?」
「ですが・・・」
「原始的な鼠人より、組織的に抵抗する人間のほうが厄介なのだ」
「はい」
「それに、『トラキア連邦との開戦』は陛下からの勅命だ。お前が気に病む事はない。首都を押さえれば直ぐに片付くだろう。戦火は、最低限に留めるつもりだ」
「判りました」
「中尉、ご苦労だった。二人共、下がって良い」
アレクとルイーゼ、ルドルフは、貴賓室を後にする。
--夜。
キャスパーの軍法会議が開かれた。
キャスパーは『捕虜になった仲間を助けた』と主張したが、『飛空艇に乗り、空を飛行できるグリフォン小隊が、装備や錬度に劣るトラキア連邦の地上部隊の捕虜になる訳が無い』と軍法会議はキャスパーの主張を一蹴。
帝国辺境派遣軍総司令官 皇太子ジークフリートの名前でバジリスク小隊の処分が決められた。
バジリスク小隊 隊長 キャスパー・ヨーイチ男爵 中尉相当官 営倉入り 二週間
他隊員 謹慎
となった。