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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第四章 トラキア連邦
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第五十四話 戒厳令と総動員令、海賊の嗜み

--トラキア連邦 議長府


 シグマが去った議長府の会議室に、しばし沈黙の時が流れる。


 すがるような目でフェリシアが口を開く。


「外務委員。どこか、連邦と一緒に帝国と戦ってくれる国はありませんか? 列強でなくても構いません。どこかと同盟を・・・」


 外務委員が答える。


「議長。アスカニア大陸の主な国々は、交易公路や海上貿易を独占して富を集積するバレンシュテット帝国を苦々しく思っているでしょう。しかし、『強大な軍事力を誇る帝国に睨まれたくない』というのが本音でしょうな。まして、一緒に戦ってくれる国など、無いでしょう」


 フェリシアは俯いて答える。


「・・・そうですか」


 外務委員が続ける。


「先の革命戦役の際、帝国と戦ったメオス王国の事は御存じですか? 帝国の一個兵団と戦ったメオス王国は、国土の半分が焦土と化し、国軍の八割を失ったとの事です」


「そんなに・・・」

 

 帝国と戦ったメオス王国の惨状を聞いて、フェリシアは力無く議長席の椅子にへたり込む。


 軍事委員が口を開く。


「彼我の戦力差は、質も量も絶望的です。・・・帝国は、百万の軍勢を動員して港湾自治都市群を制圧。中核都市の自治権をはく奪して皇帝直轄都市にしたとの事。『列強』と呼ばれるカスパニア王国十万の軍勢でさえ、帝国軍を見て逃げ出したと伝え聞いております。・・・恐らくアスカニアの列強諸国が束になっても、帝国には勝てないでしょう」 


 フェリシアは議長席で俯きながら、額に右手を当てて考え込む。


 軍事委員が続ける。


「帝国は、古代(エンシェント)竜王(ドラゴンロード)魔神(デーモン)不死王(リッチー)といった強力な化物を従えているとも聞きます。・・・とても連邦に勝ち目はありません」


 意を決したようにフェリシアは、顔を上げて口を開く。


「内務委員。連邦全土に『戒厳令』を布告します。続いて『総動員令』を。戦える者全てに武器を取らせて下さい」


 内務委員が答える。


「議長。しかし、まだ臨時総会での結論は出ておりませんぞ? それに連邦常備軍の大半は、連邦領内で鼠人(スケーブン)の討伐と、蔓延する黒死病(ペスト)の患者の救済に当たっております」


「構いません。動員した兵力で連邦内の主要な道路を封鎖し、主な都市の防衛に当たらせて下さい」


「判りました」


 フェリシアは散会を告げ、委員達はそれぞれ議長府を後にする。






--深夜。


 フェリシアは一人、礼拝堂に居た。


 薄暗い礼拝堂の祭壇に蝋燭を灯し、一人で跪いて胸の前で両手を握り、神々に祈りを捧げる。


 職業(クラス)が『巫女』であるフェリシアにとって、今は、祈ることしかできなかった。


「アスカニアの神々よ。闇の眷属であるダークエルフと取引した我等をお赦し下さい。専制と隷属から我等をお守り下さい。疫病と戦火に苦しむ我等を・・・トラキアを御救い下さい」


 フェリシアが祈りを捧げるアスカニアの神々が、その祈りに答える事は無かった。






--時を少し戻した バレンシュテット帝国 辺境派遣軍 飛行空母 内


 バレンシュテット帝国から皇帝ラインハルトの名前でトラキア連邦に出された通達の回答期限は、残り二日。


 トラキア連邦に動きがない限り、バレンシュテット帝国 辺境派遣軍は、休暇に近い状態であった。


 アレク達ユニコーン小隊の面々は、暇な時間を思い思いに過ごしていた。


 アルが格納庫で飛空艇に積み込んである装備品を点検していると、ナタリーがやってくる。


「アル。何しているの?」


「暇だから、今のうちに飛空艇に積んである装備を点検しておこうと思って」


「そうなんだ」


 アルは、父であるジカイラの口癖を真似する。


「ま、()()()()()ってやつだな」


 アルの言葉にナタリーは怪訝な顔をする。


「海賊?」


 アルは笑顔でナタリーに答える。


「そうさ。オレの父さんは軍隊に入る前、海賊だったんだ。『装備は日頃から点検しておけ。()()()()()だ』って、よく言ってた」


「ふ~ん」


 ナタリーはアルの傍らに座ると、アルが鞘からナイフを抜いて錆びていないか確認したり、ランタンに燃料は入っているか、非常食はあるか確認したりしている様子を眺める。


 アルは、突然、思い出したようにナタリーを見て、口を開く。 


「そういえば、ナタリーのお父さんが部屋に来た時、オレの事をナタリーの『彼氏』って言ってたけど・・・」


 アルの言葉にナタリーは赤くなって答える。


「ごめんなさい。・・・家族への手紙にアルのことを勝手に『彼氏』って書いたの」


 アルも赤くなっておどけながら笑顔で答える。


「いや・・・オレは嬉しかった。オレ、ナタリーの事が好きだから」


「アル・・・」


 おどけるアルにナタリーはキスする。


 ナタリーの琥珀色の瞳がアルを見詰める。


「・・・アル。ありがとう。優しいのね」


 アルは、照れながらナタリーに答える。


「ナタリーがキスしてくれたから、オレは晴れてナタリーの『彼氏』って事でいいんだな!」


 ナタリーは口元に手を当てて微笑む。 


「もぅ・・・何度も言わせないで。恥ずかしいから」




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