第五十三話 愛欲と至福
--早朝。
ジークはアストリッドを抱く。
交わりを終えたアストリッドは、ジークに抱かれた腕の中で恍惚とした表情でジークを見詰める。
アストリッドは想い人の腕の中で愛欲と至福に満たされていた。
二人はキスする。
ジークが起き上がって、アストリッドから離れようとすると、アストリッドがジークの首に腕を回し、それを咎める。
「嫌ッ!」
ジークの驚いた顔を見たアストリッドが言葉を言い直す。
「・・・もう少し、このままで。・・・ジーク様を。・・・このまま貴方を感じさせて下さい」
腕の中で懇願するアストリッドにジークは微笑み、自分の身体を元の体勢に戻す。
「・・・お前は本当に可愛い。・・・アストリッド。愛してる」
「私もです」
二人は、再びキスする。
「アストリッド。今日は、一日中、ここに居ろ」
「宜しいのですか?」
「構わん。ヨーイチ男爵領内の鼠人は、ほぼ掃討し終えた。ひとまず、我が軍の勝利は確定した。トラキア連邦に大きな動きが無い限り、私は今日はここに居る。食事もここに持って越させよう」
こうして二人は、ジークの部屋で一日中、愛しあっていた。
皇帝ラインハルトの長男であり、その立場から母ナナイに甘えることができなかったジークにとって、アストリッドは母親代わりというだけでなく、秘密を共有する『特別な存在』であった。