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アスカニア大陸戦記 皇子二人【R-15】  作者: StarFox
第四章 トラキア連邦
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第五十二話 トラキア連邦

 バレンシュテット帝国の東、トラキア連邦は、数多くの小国が集まって連邦を構成してできた国家である。


 トラキア連邦に所属するそれぞれの小国は、連邦議会に王族や貴族の代議員を送り、連邦議会の議長が首長を務めていた。


 国土の多くを原野が占め、原生林が点在しているだけで、主な産業は農業と牧畜であった。


 中世の文明と技術しか持たないこのトラキア連邦は、今、まさに滅亡の危機に瀕していた。






--トラキア連邦 連邦議会 会議場


 トラキア連邦の首都ツァンダレイにある連邦議会では、臨時総会が開催されていた。


『我がバレンシュテット帝国は、トラキア連邦領内に本拠地がある鼠人(スケーブン)達により被害を受けている。よって、帝国はこれを排除するため、越境して武力を行使する。トラキア連邦は、帝国に協力するか否か、72時間以内に回答せよ』


 バレンシュテット帝国皇帝ラインハルトの名前で書かれたその通達は、トラキア連邦にとって『死刑宣告』を意味していた。


 帝国からの通達に対して『トラキア連邦として、どの様に対処するのか』を決めるために急遽、開催された臨時総会は、帝国と協力しようという『協力派』、帝国に徹底抗戦しようという『主戦派』、帝国に降伏しようという『降伏派』の三派に別れて紛糾を極めた。




 会議場の議員達は、それぞれ持論を展開する。


「帝国からの通達は、まさに神の助けだ! 帝国と力を合わせて鼠人(スケーブン)を倒すべきだ!」


「何を馬鹿なことを! 先人達は帝国に対抗するために集ってトラキア連邦を作ったのだ! 帝国による主権の侵害である越境、武力行使には断固として撤退抗戦するべきだ!」


鼠人(スケーブン)は、作物や家畜だけでなく人間まで食べてしまう。鼠人(スケーブン)と奴らが撒き散らす疫病だけでも手に余っているのに、常備軍五万の連邦が百万の軍を動員する帝国に勝てるものか! 人民のため潔く帝国に降伏しよう!」


「降伏など論外だ! 大体、あの鼠人(スケーブン)はどこから来たのだ? 大陸の鼠人(スケーブン)は絶滅したはずだ! 何故、突然、我が連邦領に湧いてきたのだ?」






 鼠人(スケーブン)は、本拠地を構えたトラキア連邦で暴れ回った挙げ句、疫病を撒き散らしていた。


黒死病(ペスト)』である。


 バレンシュテット帝国で黒死病(ペスト)が蔓延しなかったのは、文明化によって上下水道が整備されていたからであった。


 しかし、中世の文明しか持たず、上下水道設備の無いトラキア連邦では、黒死病(ペスト)は猛威を奮い、多くの人命が失われていた。





 鼠人(スケーブン)の侵略、黒死病(ペスト)の蔓延、バレンシュテット帝国による越境武力行使。


 トラキア連邦は、まさに内憂外患、滅亡寸前であった。




 臨時総会は、通達を受けた早朝から開催していたが、夕刻になっても混乱して収拾がつかないほど紛糾し続ける。


 トラキア連邦議長であるフェリシア・アーゴットは、一時休会を宣言する。


「皆さん、時間です! 本日の臨時総会はここまで! また明日に同じ時間から始めましょう!」


 一時休会になった議場から議員達が退出していく。


 フェリシアは、疲れきった顔で連邦議会の会議場を後にし、側近と共に議長府に向かう。






--トラキア連邦 議長府


 連邦政府は連邦議長を元首とし、トラキア連邦に属する小国の王たちが外務委員、軍事委員、内務委員など各種の委員を務める委員会制を執っており、議長府の会議室に連邦政府の首脳が集まる。


 その会議室に、連邦政府の人間ではない者が一人だけいた。




 褐色の肌に尖った耳。意匠を凝らしたミスリルの鎧を身に付け、レイピアを腰から下げている。


 ダークエルフの魔法騎士、シグマ・アイゼナハトであった。




 フェリシアは、シグマを睨みながら詰め寄り、激しく詰問する。


「シグマ! どういう事ですか!?   貴方は父に『霊樹の森が帝国を牽制する』と言いました! 約束しました! しかし、その霊樹の森から現れたのは鼠人(スケーブン)です! そして、帝国は我が連邦への武力行使に踏み切りました! ・・・おかげで我が連邦は滅亡寸前です! どう説明するつもりですか! 私は、連邦諸侯や民になんと申し開きをしたら良いのですか!」


 シグマは、嫌味を交えて答える。


「その剣幕では、美しい御顔が台無しですよ?」




 フェリシアは、黒目黒髪で目元にほくろのある美人であった。


 先代の連邦議長を務めた父王が鼠人(スケーブン)との戦いで戦死したため、娘であったフェリシアが父王から王位と議長職を引き継いだものの、その統治は困難を極めていた。


 先代の父王は、強大なバレンシュテット帝国を恐れるあまり、仲介した奴隷商人の甘言に乗って他の連邦諸侯に内密でダークエルフと取引し、トラキア連邦領内に『霊樹の森』の移設を認めた。


 それが全ての国難の元凶であった。


 霊樹の森を住処とする鼠人(スケーブン)達は、食糧を求めて森から周囲に溢れ出し、トラキア連邦領内をところかまわず食べ尽くして暴れ回っていた。




 露骨にシグマに小馬鹿にされたフェリシアは、更に強く叫ぶ。


「誤魔化さずに答えなさい! あと二日で帝国は宣戦布告してくるのです!」


 呆れたようにシグマが答える。


「皇帝からの通達を良く読め。『帝国は鼠人(スケーブン)によって被害を受けた』と。確かにそう書いてあるだろう? 霊樹の森の鼠人(スケーブン)は、帝国に被害を与え、牽制していた。そういう事だ」


 フェリシアは、シグマの言葉に絶句する。


 シグマは歪んだ笑みを浮かべながら続ける。


「単に鼠人(スケーブン)の住む霊樹の森が、帝国にも、お前たちにも害のある『諸刃の剣』だっただけだ。ハハハハ」


 高笑いしながらシグマは立ち去ろうとする。


「待ちなさい!」


 シグマは振り向くと、自分を咎めるフェリシアを侮蔑した目線で見下す。


「ほう? 鼠人(スケーブン)黒死病(ペスト)、バレンシュテット帝国。・・・トラキア連邦は、この上、我らダークエルフとも戦いたいのか?」


「くっ・・・」


 シグマからの侮辱に、何も言い返す事が出来ないフェリシアは、拳を握り締めながらシグマを睨み付ける。


 シグマはフェリシアに背を向けると、あざ笑う。


「お前達、人間が愚かなだけだ。ハハハハ」


 そう言うと、シグマは高笑いしながら議長府から去って行った。



 

 シグマたちダークエルフは、魔神たちによって『下僕のまとめ役』として生み出された自分達を『支配民族(マスター・レース)』と位置付け、他の種族を侮蔑して見下しており、弱い種族を奴隷として使役していた。


 ダークエルフは、創世記の時代から高い魔力と優れた身体能力を持ち、高度な魔法文明を築いている強力な種族であるが、反面、繁殖力に乏しく、人口が少ないために世界を支配することができずにいた。


 彼らは、人口を増やして世界中のいたるところに生活圏を拡大していく人間や亜人たちを苦々しく思っており、人間や亜人たちの国家や社会を破壊するべく、様々な謀略を巡らせ、破壊工作をおこなっていた。


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