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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第二十章 第二皇子の帰還
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第五百三十話 アレクたちの披露宴

 ルイーゼの実の両親が現れるという事件の後、夕刻からアレク達の披露宴が開催される。


 前回開催されたジークの披露宴は、皇帝ラインハルトの隣に座る皇太子ジークに、参集者した者達が挨拶をしに来るという形式であり、帝国の皇族の結婚式の伝統に則った形式であった。


 会場の席順は、皇帝ラインハルト夫妻に近い席から、帝国の上級貴族、友好国の王族、友好国の公使、貴族や大使、それから帝国内外の招待客たちであった。


 ジークは「主役はアレクですから」と言って、ラインハルトの隣で妃達と静かに会食していた。


 披露宴はアレク自身の希望により、アレクと妃達が参集者達に挨拶して回るという形式であった。


 ジークの時は帝国の伝統に則り、厳粛に行われていた披露宴であったが、今回は様相が違い、静かに会食している帝国の上級貴族達の席以外は、街の酒場での宴会のように派手に盛り上がり、騒いでいた。


 一番盛り上がりが目立っていたのは、友好国ゴズフレズ王国のハロルド王御一行であった。


 アレク達が上級貴族たちへの挨拶が終わる頃には、ハロルド王は既に酔いが回って出来上がっており、挨拶をしに来たアレクに対し、ビールの入ったジョッキを片手に大声で絶賛し褒めちぎる。


「は~っはっはっは! いやぁ~実にめでたい! まさか、余が勲章を授けた少年が第二皇子殿下であったとは! あの動乱での殿下の見事な武勇と活躍ぶり、北方諸国に殿下の勇名は轟きましたぞ! しかし、余は、カリンの結婚式で実の息子である殿下を、父親である皇帝陛下に紹介してしまったという訳だ! いやぁ、皇帝陛下もお人が悪い! 親子だと教えてくれれば良いものを! むはははは!!」


 アレクは苦笑いする。


「あの時は、色々と事情がありましたので。……心苦しい次第です」


 ハロルド王は、酔いが回った真っ赤な顔で、熊髭を揺らしながら豪快に笑う。


「いやぁ、気にする事など無いぞ。殿下! 余にカリンの他に、もう一人娘がいたら、殿下の妃に輿入れさせたいくらいだ! ふはははは!!」


 ハロルド王の言葉にアレクは苦笑いする。





 ハロルド王の次は、グレース王国一行のシャーロットであった。


 普段は女王として白のドレスを着ているシャーロットであったが、結婚式で白のドレスは花嫁と被るため、今日は白藍(しらあい)色のドレスを着ていた。


 酒の入ったシャーロットは、グラスを片手にほんのりと頬を染めた満面の笑みでアレク達に声を掛けてくる。


「アレク様、結婚おめでとう!」


「ありがとうございます」


 アレクがシャーロットに一礼して答えると、酔いが回っているシャーロットは上機嫌で続ける。


「アレク様、新婚旅行(ハネムーン)はグレースに来ると良い! グレースにも迎賓館を作ったんだ! 帝国の物には及ばないが、温泉付きだ! 帝都はこれから夏だから、避暑にも最適だろう?」


 アレクは、シャーロットからの誘いに御礼を述べる。


「お誘い、ありがとうございます」


 シャーロットは、アレクの耳元に顔を近づけると、ヒソヒソと囁き始める。


「迎賓館の浴場は大きいぞ。浴槽も広く作ってあるから、ルイーゼと二人で入ると良い。いや、妃全員と六人で一緒に入っても大丈夫だ。喧騒を離れて、じっくりと子作りに励めるようにしてあるからな!」


 そこまで囁くと、シャーロットは再びアレクに満面の笑みを見せる。


「か、考えておきます」


 アレクが苦笑いしながら答えると、次にシャーロットはルイーゼの手を取って告げる。


「結婚おめでとう! 恋が実ったな!」


「ありがとうございます。女王陛下」


 シャーロットからの祝いの言葉に、ルイーゼは一礼してお礼を述べる。


「ルイーゼは、私の義理の妹になったんだ。陛下ではなく、名前で呼んでくれ」


「判りました。シャーロット様」


「それで良い!」


 シャーロットは笑顔を見せると、今度はルイーゼの耳元に顔を近づけて囁く。


「私の見立てによると、アレク様はルイーゼにベタ惚れだ。帝室の男は、()()()()は激しいからな! 抱き潰されないように、他の妃を上手く使え。子作りに励むのは良いが、身体は壊さないように!」 


 シャーロットは、ルイーゼに助言を伝え終えると、満面の笑みを見せる。


 ルイーゼは、僅かに頬を染めながらシャーロットの助言にお礼を言う。


「え、ええ。ありがとうございます。そのように致します」



 

 アレク達が来賓である獣人(ビーストマン)たちの席に回ると、アナスタシアたちがアレク達を出迎える。


 アナスタシアが口を開く。


「アレク殿下、おめでとうございます!」


「おめでとう!」


 バルドゥイン、シャイニング、パンタロウがアナスタシアに続く。


 アレクはアナスタシアに尋ねる。


「みんな、元気にしているのか?」


「ええ。皇太子殿下から開拓農場を頂きまして、皆で元気に暮らしています。皇太子殿下とアレク殿下、皆さんのお陰です。ありがとうございます!」


 そう答えると、アナスタシアは頭を下げる。


 ルイーゼが話し掛ける。


「みんな、元気なようで良かった」


 アナスタシアは、ルイーゼたちに答える。


「ええ……ルイーゼさんも、皆さんも、とてもお綺麗です」


 シャイニングは、アナスタシアを冷やかす。


「アナスタシアも、ルイーゼさんたちの列に入りたかったんじゃないのか?」


 それは、「アレクの妃になりたかったんじゃないのか?」という意味であった。


「え!?」  


 淡い恋心を言い当てられたアナスタシアは、ドキッと驚いたように反射的にアレクに目を向けると、アレクと目が合ってしまう。


 みるみるうちにアナスタシアの頬は赤く染まり、アナスタシアは恥じらいから両手で顔を隠してしまう。


「恥ずかしい。見ないで下さい」


 アナスタシアの純朴さが垣間見える仕草に、その場に居る者達が微笑む。




 

 続いて、アレク達が教導大隊の席に挨拶に回ると、士官学校の仲間たちがアレク達を祝福する。


 一番最初は、アルであった。


「アレク! 結婚おめでとう! タダ者じゃないのは判っていたけど、まさか第二皇子だったとはな!」


 アレクは、素性を隠さざるを得なかった事をアルや仲間達に素直に謝る。


「すまない。父上から禁じられていて、そう名乗ることはできなかったんだ」


 アルは、笑顔で答える。


「良いって事よ! なぁ、アレク。皇子に戻っても、オレ達、親友だよな!」


 アルはそう告げると、アレクの前に右手を差し出す。


「ああ!」


 アレクはアルにそう答えると、勢い良くアルが差し出した右手を握る。


 二人の手は乾いた音を立て、固く握手する。


 ナタリーは、ルイーゼ達に告げる。


「みんな、凄く綺麗!」


 ルイーゼは、照れたようにナタリーに答える。


「ありがとう。次はナタリーの番よ!」


 ナディアがルイーゼに続く。


「エルフの美人召喚師ナディアお姉さんの晴れ姿ですもの!」


 二人にエルザが続く。


「ユニコーンの獣耳(けもみみ)アイドル・エルザちゃん、一世一代の見せ場だからね!気合い満点よ!」


 カルラとエステルは、前の二人を見て、穏やかに微笑んでいた。


 握手するアレクとアルの二人を見たドミトリーは、大きく頷くと口を開く。


「うむ! やはり、拙僧の見立てのとおり、隊長は高貴の生まれであった。……しかし、上流貴族どころか、帝国第二皇子だったとは!」


 トゥルムがドミトリーに続く。


「私も、ドミトリーから話を聞いたときは、隊長とルイーゼの二人で実家から士官学校に駆け落ちしてきた上級貴族なのではないかと思ったぞ。だが、今は皇子として結婚したのだ。めでたいではないか。はっはっは」


 アレクは、小隊の仲間たちからの祝福に御礼を言う。


「みんな、ありがとう!」




 仲間たちの次は、ジカイラとヒナであった。


 二人は、席に座って目を細めて穏やかな笑みを浮かべながらアレク達を出迎える。


 アレクは口を開く。


「大佐……」


 そこまで口にすると、アレクの胸の中で士官学校で過ごした二年間の、ジカイラとの思い出が溢れ出る。




 入学初日の乱闘事件、陣形を組んだ歩兵戦闘の練習。


 上級騎士(パラディン)を目指すアレクに対して、その剣技の手解きをしたのもジカイラであった。


 その甲斐あって、アレクは念願の上級騎士(パラディン)になることができた。


 父ラインハルトや兄ジークから冷たく突き放されていたアレクにとって、ジカイラは革命戦役を戦い抜いた英雄であり、信頼できる指揮官であり、尊敬できる上官であり、世話になった恩師であった。


  


「大佐、ありがとうございました」


 アレクは、いつ、いかなる時も、自分の味方でいてくれ、様々な事柄を教えてくれたジカイラに心の底から感謝していた。


 アレクは目に涙を浮かべながら、ジカイラとヒナに深々と頭を下げる。


 涙ぐんで頭を下げるアレクに対して、ジカイラは苦笑いしながら答える。


「おいおい。めでたい祝いの席だぞ? 泣くんじゃねぇよ。男だろう? 大袈裟だな」


 傍らのヒナも胸が一杯になったようで、ハンカチで目元を拭っていた。


 ジカイラが口を開く。


「お前が上級騎士(パラディン)になれたのは、お前自身の才能と努力さ。オレは手解きしただけだ」


「はい」




 アレクは、士官学校で仲間たちや恩師とめぐり逢い、彼らと共に過ごした士官学校の二年間は、アレクの人生にとって、掛け替えの無い思い出であり、宝物であった。


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