第五百二十七話 帝国第二皇子の帰還(二)
アレクとルイーゼ、そしてナナイ。
三人による感動的な場面にアレクの仲間たちも感無量であった。
アルとナタリーの二人は、涙ぐみながら三人を見守っていた。
トゥルムとドミトリーは無言で大きく頷く。
穏やかではなかったのは、この二人。
ナディアとエルザは、しゃがんだままアレクの足元に行くと、アレクの制服のズボンの裾を引っ張りながら小声で話し掛ける。
ナディアが口を開く。
「アレク! アレク! 私は!?」
続いて、エルザも口を開く。
「エルザちゃん! エルザちゃんも!」
アレクは足元にいる二人の手を取って立たせると、ラインハルトに告げる。
「父上。他にも紹介したい人がおります。ナディア・フロレスクとエルザです」
そしてアレクは、仲間たちの最後尾で跪く二人を開いた右手で指し示しながら続ける。
「それに、カルラとエステルです」
アレクがら紹介されたカルラとエステルは、その場で立ち上がり、ラインハルトに向けて一礼する。
ラインハルトは、アレクに尋ねる。
「アレク。その者たちも妃にしたいのか?」
「はい」
「一度に五人を妃にするのか? ふっ……良いだろう」
「やったぁ!!」
ラインハルトの返事を聞いたナディアとエルザは、歓喜する。
ナディアは、目を閉じてガッツポーズをしたまま、天を仰ぐように背を反らして喜びを噛み締め、エルザはその場で飛び跳ねて大喜びしていた。
二人の様子を見たドミトリーは呆れる。
「まったく。お前たちときたら・・・」
ナディアは、ムキになってドミトリーに反論する。
「私、結婚するのよ!? ご両親に挨拶するのは、当然じゃない!」
エルザもナディアに続いてドミトリーに反論する。
「そうよ! そうよ! 結婚するのよ! 嬉しいに決まってるじゃない!」
トゥルムは、二人がはしゃぐ姿を見かねて注意する。
「二人とも! 皇帝陛下の御前だぞ!」
注意された二人は、ギクリとした表情を顔に浮かべると、慌てて直ぐにアレクの隣に並び、畏まってラインハルトに頭を下げる。
ラインハルトは、アレクの仲間たちが自分の目の前で繰り広げる寸劇のようなやり取りを見て、少し俯き加減で顔を伏せると、握った左手の拳を口元に当てて必死に笑い出すのを堪えていた。
ラインハルトは、笑いを堪えながらアレク達に右手をかざして告げる。
「くっくっくっ……かまわぬ。皆、立ち上がって楽にすると良い」
アレク達は、ラインハルトの言葉に従い、最敬礼を取っていた者たちは、その場で立ち上がる。
ラインハルトは、微笑みながらアレクに語り掛ける。
「アレク。立派になったな。それに、良い仲間を持った」
アレクは、笑顔でラインハルトに答える。
「ありがとうございます。毎日、楽しいですよ」
「そうだろうな。ジカイラから、卒業後はルードシュタット勤務を希望していると聞いたが」
「ええ。そのつもりです」
「なら、結婚式が終わったら、ルードシュタット侯の屋敷に住むと良い。侯爵は、お前の母方の祖父に当たる。孫のお前が行くとなれば、侯爵も喜ぶだろう」
「そう致します」
「ふむ。こちらで、ある程度、結婚式の段取りはしてある。細かいところは、お前達の好きにすると良い。他の者達も、結婚式まで皇宮で過ごすと良い」
「ありがとうございます」
ラインハルトは、アレクが士官学校を卒業した後は、アレク自身の希望通りにさせるつもりでいた。
ラインハルトに士官学校の卒業を報告し、妃候補を紹介したアレクは、やっと、厳格な父ラインハルトから認められ、判り合えた気がしたのであった。
こうしてアレク達の結婚式は、一ヶ月後と決まった。