第五百十八話 迎賓館敷地での戦い
ー迎賓館 敷地。
アレク達は、ユニコーン小隊、グリフォン小隊、フェンリル小隊、セイレーン小隊の順で迎賓館の敷地に入る。
アレク達が迎賓館の敷地内に入ると、食人鬼の一体は破壊した入口から妖魔達と共に迎賓館の中に押し入るが、食人鬼の二体は振り向いてアレク達の方へ向かってくる。
アレクは、迫り来る食人鬼の一体に対して、愛用の長剣ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを低く構えると仲間達に向けて叫ぶ。
「食人鬼が来るぞ! 総員、戦闘態勢!」
「おう!」
アレクの号令で、小隊の仲間は戦闘態勢を取る。
ドミトリーは、アレク達に支援魔法を掛ける。
「筋力強化! 装甲強化!」
「ゴァアアアア!」
迫って来た食人鬼は、雄叫びを上げながら右手に持つ棍棒で横殴りにアレクに殴り掛る。
「ウォオオオ!」
アレクは姿勢を低くしながら走り、食人鬼の横殴りの棍棒を潜り抜けると、雄叫びを上げながらながらゾーリンゲン・ツヴァイハンダーで食人鬼の右脇腹を斬り付ける。
魔力を帯びているゾーリンゲン・ツヴァイハンダーは、食人鬼の分厚い筋肉を切り裂いていく。
「やったか!?」
アレクは、駆け抜けた先で振り返り、食人鬼を倒したか確認するが、食人鬼は異常に体力と生命力が高いタフな妖魔であり、右脇腹を切り裂いたくらいでは倒せなかった。
頭の弱い食人鬼は、自分の脇を通り抜けながら右脇腹を斬ったアレクの方を向く。
(今だ! 一の旋!)
アルは、渾身の力を込めた斧槍の一撃を剛腕から放ち、食人鬼の左脇腹に斧槍の刃先が食い込む。
しかし、それでも食人鬼は倒れず、左手で自分の左脇腹に刃先が食い込んだ斧槍を掴み、斧槍の柄でアルを払おうとする。
「おおっと!? やべぇ!」
アルは、食人鬼に掴まれた斧槍を手放して後ろへ飛び退き、振るわれた斧槍の柄を避けると、海賊剣を抜いて構える。
「ウォオオオ!」
トゥルムは、雄叫びを上げながらアルの隣を駆け抜け、三叉槍で食人鬼に向けて必殺の突きを放つ。
食人鬼は左手で握っていたアルの斧槍を手離すと、左の二の腕でトゥルムの槍の突きを受け、右手に持つ棍棒を振るう。
「ゴァアアアア!」
トゥルムは、後ろに飛び退いて食人鬼の棍棒の一撃を避け三叉槍を構えると、傍らのアルに話し掛ける。
「さすがに食人鬼はタフだな」
「ああ」
「真打登場よ! 二人とも、見てなさい! おりゃああああ!」
そう叫ぶと、エルザはトゥルムの隣を駆け抜けて食人鬼に向かっていき、食人鬼の喉を狙って両手剣で突きを放つ。
食人鬼は、左手を広げてエルザの両手剣の突きを受け止める。両手剣の剣先が貫通した食人鬼の左手の甲から飛び出るが、そのまま、左手でエルザを捕まえようとする。
「うそぉ!?」
エルザは、食人鬼が自分の左手で突きを防いだことに驚くが、とっさの判断で両手剣を引き抜いて後ろへ下がり、食人鬼の左手から逃れる。
小隊の前衛四人による攻撃の後、後衛のルイーゼが食人鬼に駆け寄って行く。
ルイーゼは、食人鬼の懐に入り込むと飛び跳ね、右手の手甲の鉤爪で食人鬼の下あごを貫く。
鉤爪の四本の爪先が貫通した食人鬼の頭頂部から現れ、絶命した食人鬼は白目を剥いて後ろに崩れるように倒れていく。
ー少し時間を戻した 迎賓館敷地内。
もう一体の食人鬼は、ルドルフ達の方へ迫っていく。
ルドルフは叫ぶ。
「食人鬼だ! 来るぞ! 全員、戦闘態勢を取れ!」
ルドルフとブルクハルトの二人は斬り込んでいく。
「オォオオオ!」
「オラァアアア!」
ルドルフは、サーベルで食人鬼の身体を袈裟斬りに斬り付けると、返す刀で二太刀目の斬撃を決める。
魔力を帯びたサーベルが食人鬼の筋肉を切り裂く。
ブルクハルトは、食人鬼の胸板に戦斧の一撃を叩きこむ。
戦斧の刃は食人鬼の筋肉に食い込むが、筋肉が分厚いため致命傷にはならなかった。
「ゴァアアア!」
食人鬼は、吠えながら二人に向けて横殴りに棍棒を振るう。
ルドルフは後ろへ飛び退いて避けたが、ブルクハルトは棍棒の一撃を受けてしまう。
「グハァ!」
ブルクハルトは左腕で棍棒を防ぐも、怪力である食人鬼の一撃は、ブルクハルトの巨体を五メートルほど弾き飛ばし、地面の上を転がる。
「治癒!」
口の悪い女僧侶は、ブルクハルトに回復魔法を掛けて駆け寄ってくる。
「ったく! 兄弟にやられてんじゃないよ!」
ブルクハルトは、戦斧を杖代わりにして起き上がりながら反論する。
「グゥウウ・・・オレは、食人鬼の兄弟じゃねぇぞ!」
筋肉質の女戦士は、ブルクハルトの腕を取って立ち上がるのを介助しながら告げる。
「おらっ、しっかりしろ!・・・お前、食人鬼の『筋肉兄弟』だろ!」
「ひでぇな。オレは三枚目だが、あそこまで不細工じゃない」
ルドルフは、一人で食人鬼を引き付けていた。
ルドルフは食人鬼をサーベルで二度斬り付けると、食人鬼からの反撃を避けて再び攻撃を行い、これを繰り返して自分の方へ引き付けていた。
(怪力だが動きは鈍い)
(攻撃は当たらなければ、なんてことはない)
(・・・しかし、なかなか倒れない。異様にタフだ)
アンナは、『飛行』の魔法を使ってルドルフの後方上空に浮いていた。
食人鬼の棍棒の一撃でブルクハルトが殴り飛ばされ、ルドルフが食人鬼を自分の方へ引き付けていた。
アンナは食人鬼に向けて手をかざして魔法を唱える。
「貫通雷撃!」
アンナがかざした手の先に三つの魔法陣が現れ、雷撃が食人鬼に向かって伸びていく。
アンナの雷撃は食人鬼の腹を貫通するが、食人鬼は倒れなかった。
アンナは口を開く。
「倒れない!? さすがにタフね! それじゃ、第六位階の雷撃光球で・・・」
ルドルフは、第六位階魔法を詠唱しようとしたアンナに告げる。
「ダメだ! その魔法だと、アレク達まで巻き込む!」
「ええっ!?」
ルドルフとアンナが会話していた次の瞬間、ルドルフ達の後ろから両刃の戦斧が飛んできて、食人鬼の眉間に突き刺さる。
「ポアッ!?」
食人鬼は、間の抜けた声を上げると、白目を剥いて絶命し後ろへと倒れる。
戦斧を投げたのは、フェンリル小隊の小隊長、フレデリクであった。
フレデリクは叫ぶ。
「アレク! ルドルフ! ここはフェンリルとセイレーンが受け持つ! お前達は迎賓館へ急げ! 中にはまだ皇太子一家がいるはずだ! 行けぇ!」
アレクは答える。
「判った!」
ルドルフも答える。
「任せたぞ!」
アレク達のユニコーン小隊と、ルドルフ達のグリフォン小隊は、迎賓館の中へと向かう。