第五百十七話 帝国軍、反撃開始
ー帝都 上空。
黒と銀の二色に塗装され曲面を多用した流線形の飛空艇は、単機で飛行していた。
その機首には、以前、ルードシュタット家の紋章が描かれていたが、現在は帝室の紋章に描き変えられていた。
「まったくもって、遅い! 何をしているのだ!?」
操縦席でぼやくパーシヴァルにヤマタンは答える。
「パーシヴァル様。そこで文句を言っても、どうにもなりませんよ。陛下達は、きっと無事ですよ。帝国軍に任せて皇宮に帰りましょう」
パーシヴァルは、ヤマタンを叱り飛ばす。
「馬鹿者! この帝国の一大事に皇宮でノンビリしていられるか!」
パーシヴァルとヤマタンの二人が飛空艇でやり取りしていると、帝都周囲の飛行場から離陸してきた帝国軍の飛空艇の大編隊がやって来る。
「やっと来たな」
パーシヴァルは、口元を綻ばせる。
飛来した帝国軍の飛空艇の大編隊は、帝都の防空を担当する『帝国中央軍 帝都防空群』の航空部隊であった。
大編隊の先頭の編隊の分隊長は、単機で帝都上空を飛行しているパーシヴァルたちを発見して訝しむ。
「なんだ? あの飛空艇は? ……後席、あの飛空艇の所属を確認しろ!」
「了解!」
分隊長機からパーシヴァルたちへ所属確認が行われ、分隊長は驚く。
「皇宮の執事だと!? 皇宮の執事がなぜ、飛空艇に乗っているんだ?」
パーシヴァルは、帝都防空群から所属確認を受け、ヤマタンに告げる。
「ヤマタン! あいつらに伝えろ!」
「判りました」
「帝都防空群の諸君! 私は皇宮執事長パーシヴァルである! 若い諸君は知らないかもしれないが、『闘将パーシヴァル』の名は聞いた事があるだろう!」
パーシヴァルは操縦席で演説し始め、ヤマタンは帝都防空群へ手旗信号でその内容を伝える。
帝都防空群のパイロットたちは、パーシヴァルの演説内容をヤマタンの手旗信号で知り、驚く。
「『闘将パーシヴァル』だって!?」
「まさか!?」
「『暴力革命』と『革命戦役』の二つの大戦を戦い抜いた伝説のエースパイロット。元・帝国中央軍 帝都防空群司令パーシヴァル中将。本人なのか!?」
帝都防空群の航空部隊が突然のパーシヴァルの登場に驚いていると、飛行場から出撃してきた帝国竜騎兵団が上昇して来て、パーシヴァルたちや帝都防空群と並んで飛行する。
パーシヴァルは演説を続ける。
「諸君! 帝国竜騎兵団も来て、役者が揃ったようだ。……帝国の危機に際し、ここにいる航空部隊は臨時に、この私が指揮を執る! 無論、責任はこの私が取る! 帝国竜騎兵団は、敵の航空部隊である大烏を叩け! 帝都防空群は、この私について来い!」
パーシヴァルからの指示を受けて、飛竜に乗っている帝国竜騎兵団は、大烏が群がる帝国軍の飛行戦艦の艦隊へ針路を向けた。
程なくパーシヴァルたちと帝都防空群の航空部隊は、迎賓館の上空に到達する。
パーシヴァルは指示を出す。
「諸君! 我々は敵の拠点である浮遊城を叩くぞ!」
ヤマタンは、パーシヴァルからの命令を手旗信号で帝都防空群に伝えると、先頭の分隊長機は、飛空艇の翼を振って答える。
パーシヴァルは口を開く。
「ヤマタン! 戦闘拡張翼、展開!」
「戦闘拡張翼、展開!」
ヤマタンは復唱すると、副操縦席のレバーを倒す。
パーシヴァルとヤマタンの乗る試製迎撃飛空艇『戦闘隼』は、機械音を上げながら機体の拡張翼が開き、翼がX字の形に開く。
試製迎撃飛空艇「戦闘隼」
魔導発動機 四機搭載
複座式 X翼機
主砲 カロネード砲 四門搭載
戦闘隼は、帝都防空のため『一撃離脱』という設計思想で開発された試作迎撃飛空艇である。
翼にX翼を採用しているため高い機動性を誇るが、そのトリッキーな飛行性能のため、パーシヴァル以外に乗りこなせるパイロットがおらず、一機だけ試作された迎撃用飛空艇である。
機首に装備された四門のカロネード砲は、それぞれ一発だけ炸裂弾を装填しており、並の飛空艇や飛行船ならば一斉射で撃沈できるほどの火力を持っていた。
パーシヴァルが帝国軍を定年で退役した時に、帝国軍から記念に贈られた機体であった。
パーシヴァルは、飛空艇からダークエルフ達の飛行要塞『静寂の要塞』を見下ろして鼻で笑う。
「フッ。帝国に仇なす愚者ども。母屋がガラ空きだぞ」
パーシヴァルはそう呟くと、不敵な笑みを浮かべる。
「……行くぞ、ヒヨッコども! 私の尻について来い! 全機、突撃!!」
パーシヴァルの号令でヤマタンが緑の信号弾を打ち上げると、戦闘隼は静寂の要塞を目掛けて急降下を始め、帝都防空軍の航空部隊も戦闘隼に続いて急降下を始めていった。
一方、地上では、蒸気戦車と随伴歩兵からなる帝国機甲兵団が迎賓館付属の飛行場から迎賓館と国際会議場へ向けて展開を始める。
戦闘開始から二時間ほど経過後、帝国軍は反撃を開始した。