第五百十三話 迎賓館での戦い(一)
ー迎賓館
ジークは、モニカに避難するように言いつけ息子を託すと、他の妃達と共に迎賓館一階のホールへ行く。
迎賓館の一階は、広大なダンスホールのような造りになっており、成人式などの祭事ではダンス会場になるなど、かなりの広さであった。
ジーク達が一階に着くと、入口の両開きのドアを何度も殴り付ける音が響く。
ジークは呟く。
「来たか」
ソフィア、ジーク、アストリッドの順に階段を降りた登り口に、フェリシアとカリンは階段を少し登った位置に陣取る。
ほどなく両開きのドアが破壊されてこじ開けられ、一体の食人鬼が屋内へ押し入り、続いてダークエルフの軍勢が侵入してくる。
ホールに押し入った軍勢は左右に別れると、その中央から軍勢を率いるシグマとダークエルフの三人の従者が現れる。
シグマは、ホール中央の階段を降りたところに立つジーク達を見つけると、大げさな身振り手振りをしながら芝居がかった口調で語り掛ける。
「これは! これは! 皇太子殿下、御自ら、我らを出迎えて頂けるとは! 恐れ多く、痛み入る!」
ジークは、シグマに向けて皮肉を込めて返答する。
「帝国は、講和会議に卿らを招待した覚えは無いのだが」
シグマは、ジークから皮肉を言われ、歪んだ笑みを浮かべながら皮肉を込めてジークに告げる。
「女王陛下が統べる、我らが魔導王国エスペランサを講和会議に招待しないとは! 無礼の極みだろう?」
ジークは、更に皮肉を込めてシグマに答える。
「『招かれざる客』だな! お引き取り願おう!」
「貴様と妃達だけで勝てると思うか!? 武器を捨てて投降しろ!」
「断る!」
「抜かせ!」
シグマは、ジークに斬り掛かる。
ジークは、シグマが放ったレイピアの一撃をサーベルで受け流し、斬り返す。
シグマは軽く後ろにステップを踏んでジークの斬り返しを躱す。
従者の一人がジークに斬り掛かるが、ジークはサーベルで受け止める。
シグマは口を開く。
「上級騎士相手だ。悪く思うな!」
「チッ!」
ジークは短く舌打ちすると、シグマと従者の一人を相手に剣戟を始める。
ソフィアに食人鬼が迫る。
ソフィアは、ジークの隣で竜騎士槍『竜王の牙』を構えると、右手に持つ自分の竜騎士槍に向けて左手をかざし竜語の魔法を唱える。
「Клыки Короля Драконов.」
(竜王の牙よ)
「Основываясь на этом благословении」
(その加護に基づき)
「Дай мне изначальное пламя!!」
(我に始原の炎を貸し与えたまえ!!)
ソフィアの持つ竜騎士槍『竜王の牙』は、主の呼び掛けに応じるように、槍全体が淡く青白い光を帯び、槍の穂先が白く光り出す。
食人鬼は、右手に持つ棍棒を大きく振り上げると、ソフィアに向けて振り下ろす。
ソフィアは、軽く左側に飛び退いて棍棒の一撃を避けると、竜騎士槍の鋭い突きを放つ。
「ハアァァッ!」
ソフィアの竜騎士槍の一撃が食人鬼の下あごを貫く。
同時に『始原の炎』の力を宿す竜騎士槍が食人鬼の頭部を消し飛ばし、絶命した食人鬼の頭の無い巨体は後ろへと倒れる。
一撃で食人鬼を倒したソフィアは、ホール中に響き渡る凛とした口調で名乗りを上げる。
「我は、バレンシュテット帝国、皇太子正妃 ソフィア・ゲキックス・フォン・バレンシュテット! 『大陸最強の竜騎士』アキックス・ゲキックスの孫! 『竜王の愛娘』とは、私の事だ! 進みたければ、我が屍を越えていけ!」
ソフィアに続いて、アストリッドもジークを挟んだ反対側で名刀『カシナートの長剣』を抜剣してダークエルフの従者の一人と剣戟を始める。
フェリシアは、ジーク達に支援魔法を掛ける。
「筋力強化! 装甲強化!」
カリンもジーク達に防御魔法を掛ける。
「魔力魔法盾!」
ジークと妃達は、迎賓館に攻め込んできたダークエルフの軍勢と戦闘を始める。
ー迎賓館近くの道路。
アレク達は、迎賓館に向かって急いでいた。
空から大烏が舞い降り、迎賓館の敷地内に三体の食人鬼や小鬼などの妖魔、ダークエルフ達を降ろしている姿がアレク達に見えてくる。
アレクは叫ぶ。
「マズい! あいつら、空から直接、迎賓館の敷地内に降下している!」
アルも叫びながら答える。
「ああ、ヤバいぜ! 警備兵じゃ食人鬼なんて、止められない!」
突然、空から迎賓館の敷地内に降下してきたダークエルフの軍勢に、入口の門を守っていた警備兵たちは、慌てて侵入してきたダークエルフの軍勢に立ち向かう。
しかし、警備兵たちでは、小鬼などの妖魔ならともかく、食人鬼には、歯が立たなかった。
三体の食人鬼は棍棒を振るって警備兵たちを蹴散らすと、迎賓館の入口の扉を叩き始める。
アレク達は、迎賓館の敷地の正門に到着すると、敷地内の警備兵の一人に話し掛ける。
「中央軍教導大隊のアレキサンダー・ヘーゲル大尉だ! 支援に来たぞ!」
「大尉殿、助かりました!」
警備兵はそう答えると、かんぬきを外して正門を開け、アレク達を敷地に招き入れる。
アレク達が敷地の中に入ると、一体の食人鬼は迎賓館の入口の扉を破壊して、建物の中に押し入っていくところが目に映る。
アレクは口を開く。
「クソッ! 食人鬼が迎賓館の中に!」
「急ごう!」