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第四十九話 御前会議

 貴賓室の一角にできた転移門(ゲート)から現れたのは、アレクとジークの父であるバレンシュテット帝国皇帝ラインハルトであった。


 皇帝であるラインハルトに対して、ジークとアレクを除いた者達がラインハルトに対して最敬礼を取る。


 ジークとアレクは、ラインハルトに対して起立して一礼する。


 ラインハルトに続いて、皇妃のナナイ、帝国魔法科学省長官のハリッシュ、続いて帝国四魔将のアキックス伯爵、エリシス伯爵、ナナシ伯爵が転移門(ゲート)から現れる。


 バレンシュテット帝国首脳が飛行空母の貴賓室で一同に会する。


 ジークとアレクを見てラインハルトが口を開く。


「ほう? 驚いたな。お前達二人が顔を合わせても喧嘩しないとは」


 久しぶりにラインハルトの目に映ったアレクは、皇宮に居た頃より、目の前に居る現在のほうが、顔が引き締まって大人びた印象を受けた。


(・・・少しは大人になったようだな) 


 ラインハルトの傍らでナナイは、アレクとルイーゼを見て微笑む。


 ナナイは、並んで座る二人を見て、全てを察したようであった。


 ハリッシュが口を開く。


「皆さん、お久しぶりです!」


 ジカイラが答える。


「・・・変わらないな。お前は」


「いやいや。白髪が増えましたよ」


 転移門(ゲート)から現れたアキックス伯爵を見て、ソフィアが驚く。


「御爺様!」


「久しぶりだな。ソフィア。少し見ない間に、すっかり女らしくなって。殿下に『女にして貰った』ようだな」


 ソフィアは、赤くなって答える。


「まぁ、御爺様ったら。恥ずかしいわ」


 アキックスは、ヒマジンやジカイラを見て安堵する。


「皆も変わりないようだな」


 貴賓室に集まった一同がソファーに座る。


 ラインハルトが口を開く。


「さて、我が帝国の主要な者達が集まったな。『トラキア連邦領内にある鼠人(スケーブン)達の本拠地を叩く必要がある』との事だ。・・・結論から言おう。私は帝国に対する如何なる脅威も、その存在を許すつもりは無い。実力を持って排除する」


 ジークが尋ねる。


「では、『越境作戦』を行っても良いと?」


 ラインハルトが続ける。


「そうだ。ただし、事前にこちら側からトラキア連邦政府に通達を出す。『我がバレンシュテット帝国は、トラキア連邦領内に本拠地がある鼠人(スケーブン)達によって被害を受けている。よって、帝国は実力を持って、これを排除する』とな」


 ハリッシュが頷く。


「なるほど。あらかじめ、こちら側から事前通告する訳ですね」

 

 ラインハルトが答える。


「そうだ。筋は通しておく」


 ジカイラが口を開く。


「お前らしいな」


 ラインハルトが続ける。


「まぁな」


 ハリッシュが口を開く。


「・・・トラキア連邦政府の回答次第では、戦争になるかもしれませんね」


 ラインハルトが答える。


「それは構わない。トラキア連邦の総兵力は五万程度。東部方面軍二十五万の半分以下だ。兵力百万を誇る我が帝国の軍事力は、トラキア連邦を圧倒している。その時は、トラキア連邦ごと鼠人(スケーブン)を叩き潰す」


 ラインハルトは、御前会議に列席している者達に尋ねる。


「・・・帝国四魔将の意見は?」


 アキックスが答える。


「陛下と同意見です。帝国の安全保障上の脅威は、取り除かねばならない。帝国北部方面軍と帝国竜騎兵団は待機しています。必要ならば、何時でも」


 ヒマジンが答える。


「オレも同じです。先陣は、我々、帝国東部方面軍と帝国機甲兵団が務めさせて頂く。我らだけで、トラキア連邦ごと鼠人(スケーブン)を粉砕して見せますよ」


 エリシスが答える。


「私も越境作戦に賛成。数段格下のトラキア連邦ごときが相手でも、筋を通すところが陛下らしいわね。帝国南部方面軍と帝国不死兵団は待機しているわ。出る時は何時でも」


 ナナシが答える。


「私も異論は無い。むしろ積極的に介入するべきだろう。合成獣(キメラ)を錬成できる魔法技術がトラキア連邦にあるとは思えん。・・・出どころを突き止める必要がある。帝国西部方面軍と帝国魔界兵団は待機している。必要とあらば、何時でも」


 ラインハルトが続ける。


「教導大隊の意見は?」


 ジカイラが答える。


「問題無い。学生達にとっても、今度の遠征は、色んな意味で良い経験になっているだろう」


 ヒナが答える。


「私も異論ありません」


 ラインハルトが続ける。


「最後になったが、皇妃。君の意見を聞かせて欲しい」


 ナナイが微笑みながら答える。


「陛下の御意志のままに」


 ラインハルトが締め括る。


「御前会議は満場一致だな。・・・皇太子ジークフリートに命ずる。トラキア連邦ごと鼠人(スケーブン)を叩き潰せ」


 ジークは、一礼して返事をする。


「承知致しました」


 ラインハルトは口を開く。


「ナナイ。久しぶりにアレク達と少し話していくと良い。ハリッシュもナタリーに会っていくと良い。・・・私は皇宮に先に帰っているよ。エリシス、転移門(ゲート)を」


「承知しました」


 ラインハルトは、エリシスが作った転移門(ゲート)を通って、皇宮へ帰って行った。


 アレクとルイーゼ、ナナイの三人は、アレク達の部屋へ、ハリッシュはナタリーの部屋に、それぞれ向かう。


 貴賓室でアキックスはソフィアと、ヒマジンはアストリッドと談笑する。







 アキックスは、懐から小物を取り出すと、ソフィアの手にそれを握らせる。


「御爺様! これは!?」


「ソフィア。困った時には、これを使いなさい」


 それは、一際豪華な造りの『竜笛』であった。







 アキックス達から、離れた貴賓室の片隅でエリシスがナナシに話し掛ける。


「・・・家族の語らいね。私には縁が無いわ」


 ナナシはエリシスに答える。


「お前は、それを承知で禁忌を犯して不死王(リッチー)に転生し、不老不死になったのだろう?」


 エリシスは、寂しげにナナシに微笑む。


「そうね。七百年も振り返れば、あっという間だわ」


「どうだ? 何百年経っても『人の営み』は変わらないだろう?」


「変わらないわね。人は産まれ育ち、老いて死ぬ。戦や病で死ぬ者もいるけど。・・・時と共に世代は代わっても、血を受け継ぎ、命は受け継がれていく・・・」


「人は産まれる場所は選べないが、どう生きるかは選択できる。意義のある人生を送る事が肝要だ」


「そうね」


 親子、家族の語らいを眺めながら、真紅のイブニングドレスに身を包んだ妖艶な美女エリシス伯爵と漆黒のローブを纏いフードの中の顔は誰も見た事が無いナナシ伯爵は、貴賓室の片隅で互いの哲学を語り合っていた。


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