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第五百二話 列強の反応と迎賓館での珍事

 国際会議場内全体に割れるような熱気をはらんだ拍手が轟く中、ラインハルトは演壇から舞台袖へと降りてゆく。


 ラインハルトの演説を聞いた列強の王たちの反応は様々であった。


 北部同盟の列強席中央に盟主スベリエ王国の席はあった。


 王太子アルムフェルトは、隣で憤怒の表情を浮かべながらギリギリと歯軋りする父フェルディナント王の姿を見て驚く。


「ち、父上!?」


 フェルディナント王は、北部同盟の盟主である自分も、バレンシュテット帝国の皇帝ラインハルトに並ぶ当代の英雄であると思っていた。


 フェルディナント王は、憤怒の表情を浮かべながら悔しさのあまり歯軋りしながら呟く。


「グググ・・・なにが『対話による講和』だ。それは『バレンシュテットの覇権を認めろ』ということだろう。『武力による勢力圏の変更を行わず、世界の富が帝国に集中する現状を追認しろ』ということだろう。高尚な理想論で強者の理屈を覆い隠し、それを通すつもりか? ・・・認めん! 認めんぞ! 断じて認めん!!」


 スベリエの隣に位置する列強席に座るソユット帝国のシゲノブ一世も同様であった。


 シゲノブ一世は、怒鳴り散らしてやりたい怒りを抑えていた。


 将軍(ファンネル)二号は、怒りを堪えるシゲノブ一世を気遣う。


「へ、陛下・・・」


 シゲノブ一世は、怒りを堪えながら呟く。


「人外百万の軍勢を揃えて並べ、諸国の王達を恫喝しながら、綺麗ごとを抜かしおって! 『対話による講和』だと!? 貴様がそれを口にするのか! ふざけおって!!」


 一方、同じ北部同盟の列強席に座るシャーロットは、演壇から去って行くラインハルトを屈託のない希望を見い出したような明るい笑顔で見送りながら拍手を贈っていた。


 士官の一人は、シャーロットに声を掛ける。


「姫・・・」


 シャーロットは、感動して軽く興奮しつつも、鮮やかな笑顔で士官に熱く語る。


「素晴らしい! 素晴らしいと思わないか!? 『相互を理解するためには言葉が必要』! そのとおりだ! さすがは義父上だ! グレースにも学校を作って、亜人達を通わせよう!!」


 士官の一人は、感動して興奮したシャーロットの様子を心配して尋ねる。


「姫・・・まさか、西方協商との講和に応じるつもりですか?」


 シャーロットは女王の顔に表情を戻すと、斜め上を睨むように士官の一人に目線を向けて答える。


「・・・『それ』と『これ』とは、話しが別だ。ナヴァールが我らを滅ぼすか、我らがナヴァールを滅ぼすか、だろう?」


 



 西方協商の列強席中央に盟主カスパニア王国の席はあった。


 ラインハルトの演説を聞いた三人の将軍たちは動揺して青ざめる。


 レイドリックは口を開く。


「あれはカスパニアに対する宣戦布告ではないのか!?」


 イナ・トモも口を開く。


「亜人など奴隷階級ではないか。労働力を解放する訳にはいかん」


 アルシエ・ベルサードも口を開く。


「麻薬貿易と奴隷貿易はカスパニアの生業だ。これらを失っては、国がもたんぞ!?」


 カスパニアの王太子カロカロは、演説を聞いて狼狽える三人の将軍達を諫める。


「落ち着け、お前たち。皇帝は、カスパニアの生業である亜人差別、奴隷貿易、麻薬貿易を非難しても、我がカスパニアを名指しで批判したり、宣戦布告してきた訳では無い。こちらと戦争までやるつもりは無いようだ」


 カスパニアの隣の列強席に座るヴェネト共和国の議長リューネは、ほくそ笑んでいた。


 リューネは歪んだ笑みを浮かべながら、傍らのアノーテに話し掛ける。


「ふふ。為政者のくせに、綺麗ごとを抜かす。・・・世の中は銭だよ。銭。・・・麻薬も奴隷も金になる。だから取引されている。そして、人の欲望にはキリが無い。それだけのことだ」


 アノーテは、リューネに尋ねる。


「いかがいたしますか?」


 リューネは、憮然とした顔で答える。


「どうもしない。全ては需要と供給。相場の値段が決めることだ。儲かればやるし、儲からねばやらない。それだけだよ」


 反対側の列強席に座るナヴァール王国のブルグンド二世も露骨に不愉快だという表情を顔に浮かべていた。


 ブルグンド二世は、割れた顎の青々とした髭の剃り跡を右手の親指と人差し指で撫でながら、オカマ口調で不服そうに呟く。


「・・・気に入らないわね。まるでバレンシュテットが世界の中心であるかのような物言い。不愉快だわ。・・・芸術も、音楽も、料理も、世界の中心は我がナヴァールでしょうに」






 講和会議初日の午前中の予定は、これで終わりであった。


 午後からは両陣営各国の文官や次官らによる実務者間協議が始まり、外交代表団の国王や自治領主、族長たちは、迎賓館で昼食を取り、夕刻から始まる晩餐会と舞踏会に向けて迎賓館で休憩と準備をすることとなった。


 各国の外交代表団が迎賓館に集まる中、ちょっとした事件が起こる。




 シャーロットは、雪を表わす純白のドレスを着て氷を表わす水色のアクセサリーを付け、士官達と共に食事を済ませて迎賓館の通路を歩いていた。


 通路を歩くシャーロットたちグレース王国の一行の前に、意匠を凝らした派手な服を着た遊び人風の若い男が現れる。


 スベリエ王国王太子アルムフェルト・ヨハン・スベリエであった。


 アルムフェルトはシャーロットを見ると、即座にシャーロットの元に駆け寄り、恭しくシャーロットに一礼して口を開く。


「シャーロット女王陛下。お久しぶりです。スベリエ王国王太子アルムフェルト・ヨハン・スベリエです」


 シャーロットは、興味無さそうにアルムフェルトに答える。


「・・・なんだ。そなたか」


 シャーロットの答えを聞いたアルムフェルトは顔を上げると、大げさな身振り手振りをしながらシャーロットを口説き始める。


「シャーロット陛下! アルビオン諸島の決戦でのワタクシの活躍をご覧になられましたか!? いや、カスパニアの飛行船と戦い、上陸部隊と戦った我が武勇については、すでに聞き及んでおられることでしょう! 是非とも、決戦における勝利について、貴女と夜通し語り明かしたい!! 私の妃になりたまえ!!」


 シャーロットは、既にジークと結婚して既婚者である自分を、再び口説きに来たアルムフェルトに呆れたように答える。


「王太子殿下。すでに御存じのことと思うが、私は既婚の身なのだ。・・・見ろ!」


 シャーロットの言葉にアルムフェルトが顔を上げると、シャーロットは左手で大きく開いているドレスの胸元を掴むと大きく引き下げ、胸元を開けて鎖骨の下、左胸の上部を見せつける。


 シャーロットの初雪のような白い肌に、アルムフェルトの視線は釘付けになる。


 シャーロットの左胸には刺青が掘られていた。



 二国間の友好を示す交、差する二本の国旗。


 バレンシュテット帝国旗とグレース王国旗。


 その下には言葉が掘られていた。


『この(いのち)ある限り、夫ジークフリートを愛す。


 この(いのち)尽きども、この愛尽きず。


 アスカニアからヴァルハラまで、永遠(とわ)に寄り添わん』


 シャーロットの夫ジークに対する愛と誓いの言葉であった。



 刺青を見て絶句するアルムフェルトに、シャーロットは意地の悪い笑みを浮かべながら告げる。


「残念だったな。私の身も心も、我が夫ジークフリート様のものだ。・・・では、失礼」


 シャーロットはドレスの胸元を直すと、絶句して固まるアルムフェルトを一瞥して、士官達と共にその場から去って行った。 


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