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第四百九十六話 講和会議二日前 集結、西方協商

-帝都ハーヴェルベルク 迎賓館 併設飛行場。


 帝都南に広がる洋上からカスパニア王国旗を掲げた三隻の戦闘飛行船が迎賓館に併設されている飛行場の上空に現れる。


 奴隷貿易と麻薬貿易の元締めとして世界中にその悪名を轟かせるカスパニア王国の王太子カロカロとその腹心の部下である三人の将軍たち、レイドリック、イナ・トモ、アルシエ・ベルサードを乗せた戦闘飛行船が飛行場に着陸すると、護衛の二隻の戦闘飛行船も続いて着陸する。


 カロカロ達が飛行船から下船すると、カスパニア公使が四人を出迎える。


「殿下。遠路はるばるご苦労様です」


「出迎え御苦労」


 カロカロは、出迎えに来たカスパニア公使を労うと、一行は二台の馬車に分乗して帝都郊外にあるカスパニア公使館へ向かう。


 馬車列が飛行場地区を出て帝都の大通りに差し掛かり、待ち受けていた皇宮警護軍(インぺリアル・ガード)の四人の女騎士が前後二人づつに別れて馬車列を護衛する。


 帝都の大通りに面した繁華街の賑わいを見たカロカロが口を開く。


「帝国はずいぶんと栄えているようだな」


 カスパニア公使がカロカロに答える。


「革命戦役以来、帝国本土では大きな戦はありませんでしたからな。トラキア戦役は、帝国領東端からトラキア山脈の東側が戦場でありましたので」


 レイドリックは、苦々しく周囲に告げる。


「中立の帝国は、世界大戦の戦火を受けることは無く、何もしなくても大陸の東西南北に伸びる交易公路から租税が入ってくる。・・・忌々(いまいま)しい」


 イナ・トモも、レイドリックに続いて周囲に告げる。


「更に港湾自治都市群を制圧して中核都市を直轄領にした。だから、新大陸との貿易からも自治都市からも租税が入る。南大洋の空中都市イル・ラヴァーリからもだ」


 カロカロが皮肉を込めて語る。


「帝国は、交易公路と貿易都市から金を得る。我がカスパニアは、奴隷貿易と麻薬貿易から金を得る。・・・それだけのことだ。・・・クックックッ」


 カスパニア代表団一行を乗せた馬車列は、帝都の繁華街を抜けて帝都郊外のカスパニア公使館へと進んでいく。






-帝都ハーヴェルベルク駅。


 帝都都心部近くに位置するハーヴェルベルク駅は、行き交う多くの人々で混雑していた。


 この駅の一番端となる15番ホームは「軍事用」として他のホームより格段に長く作られており、滅多に使用されることはなかった。


 ところが、この15番ホームで皇宮警護軍(インペリアル・ガード)が厳重警備を敷いており、ホームに整列した女騎士達が到着する専用列車を待っていた。


 やがて先頭の機関車に二本交差させたヴェネト共和国旗を掲げた専用列車がホームに到着し、数人の女達が下車してくる。


 強欲な拝金主義国家として知られるヴェネト共和国の議長リューネと、その手下の有力商会長アノーテ・デ・ザンテたちであった。


 ホームで到着を待っていたヴェネト公使が出迎える。


「お待ちしておりました」


 リューネは、ヴェネト公使に答える。


「出迎え御苦労。・・・時間が掛かったが、なかなか快適な列車の旅だった」


 アノーテがリューネに告げる。


「時間が掛かるのは、仕方がありません。東方不敗がグレースに帰参してしまったので、陸路か、海路しか、この帝都に来る方法がありませんので」


 リューネは諦めたように答える。


「まったくだ。我らが共和国が東方不敗以外に航空戦力を持たなかった事が(アダ)になったな。ヴェネトから馬車でメフメト王国を経由して帝国領トラキアに入り、トラキア鉄道でトラキアの州都ツァンダレイからトゥエルブブルクへ行き、そこから、また帝国横断鉄道に乗り換えて、この帝都に着く。・・・移動に掛かる経費や滞在費が帝国持ちでなければ大赤字だ。滞在中は、目一杯、贅沢させて貰おう」


 リューネの言葉を聞いたアノーテの脳裏に空中都市イル・ラヴァーリで出会ったエリシスとリリーの姿が浮かぶ。


 アノーテは、リューネを諫める。


「あまり目立つ事をして帝国に睨まれるようなことは避けた方がよろしいかと。帝国はバケモノのような者達を大勢従えておりますので」


 リューネは、悪びれた素振りも見せず答える。


「そうか? まぁ、アノーテが、そう言うのなら控えめにしておこう」


 



ー帝都ハーヴェルベルク 迎賓館 併設飛行場。


 ナヴァール国旗を掲げた三隻の戦闘飛行船が高度を下げて飛行場に着陸してくる。


 旗艦から降りてきた一行の先頭の者は、若い細身の男であった。


 先が割れた顎は青々とした髭の剃り跡が広がり、短く刈った黒い髪と青い目、それでいて真っ赤な口紅で化粧をしていた。


 青紫地に白の意匠を施した毒々しい派手なプールポワンを着込み、肩から女性用の白いショールを羽織ったその男は、くねくねとした足取りで従者を連れて飛行場へ降り立つと呟く。


「嫌ねぇ・・・こんなとこまで、国王の私が来なきゃならないなんて。バレンシュテットなんて、野蛮だわ」


 オカマ口調で呟く男色家のこの男は、ナヴァール王国国王ブルグンド二世、その人であった。


 アルビオン諸島の決戦で父王であったブルグンド一世が戦死したため、急遽、王太子が即位してブルグンド二世となった。


 ブルグンド二世の一行も公使の出迎えを受け、馬車に分乗して皇宮警護軍の女騎士達に護衛されながら帝都郊外のナヴァール公使館へ向かって行った。


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