第四百九十一話 皇族に対する護衛
ハリッシュは、ダークエルフの女王がラインハルトの寝室に潜入してきた意図について、ジカイラの品の無い冗談からヒントを得て、仮説を立てて皆に話した。
ラインハルトの血統、即ち『大帝の子孫』が持つ上級騎士の能力、子供が多く産まれる多産の血統を狙ったのではないか。
ハリッシュが説明を終えると、帝国四魔将をはじめ、皆、納得したようであった。
アキックスが口を開く。
「・・・あり得る話だ。陛下の子を孕んで、上級騎士の力を持ったダークエルフを産み落とそうなど、想像も付かなかったが・・・」
ジカイラは、ひきつった笑顔を浮かべながら口を開く。
「おいおいおい! まさか本当に上級騎士の能力を持った無敵のダークエルフを誕生させようとしていたなんて。・・・シャレにならんぜ? まさに悪夢だ」
ティナは、呟く。
「忍者並みの身体能力、上位召喚師並みの精霊魔法と首席魔導師並みの魔力を兼ね備えているダークエルフが、更に近接戦最強の上級騎士の能力を持ったら・・・」
ナナイは、吐き捨てるように口を開く。
「無敵のダークエルフね。人間や亜人では歯が立たない。勝ち目が無いわ」
ヒマジンは呟く。
「幸い、まだ無敵のダークエルフは誕生していない。そのためには、陛下とその子孫達、皇族に対して護衛を付けて守るべきだ」
エリシスが続く。
「そうね。ダークエルフの女王は、皇妃様の神聖魔法で退けられたのだから、恐らくダークエルフの魔法は暗黒属性。神聖魔法の使い手に陛下達を護衛させる必要があるわ」
ナナシは尋ねる。
「一度、失敗したダークエルフが、すぐに同じ方法で二回目を仕掛けてくるとは思えんが。一応、陛下達に護衛を付けるとしよう。陛下は聖騎士の皇妃様が護衛するとして。皇太子殿下には、誰を護衛に付ける?」
「くっ・・・」
神聖魔法が使えないソフィアは、ジークの傍らでナナシの言葉を聞いて俯くと、視線を落として悔しそうに唇を一文字に結び、両手を握り締める。
リリーは提案を口にする。
「ミネルバ様はいかがでしょう? 御兄妹の聖騎士ですし、同じ部屋で夜を過ごされても・・・」
「いや。それはダメだ」
ジークは即座に否定する。
同じ部屋で夜を過ごすなど、ジークに『その気』が無くても、ミネルバが『その気』になってしまう事は明らかであった。
しかし、以前起きたミネルバとの近親相姦未遂事件を口外する訳にもいかず、ジークは悩む。
幸いリリーは深い事情は詮索はせずに、拒否したジークの意思を尊重しつつ、苦笑いしながらジークの意思に追従する。
「ま、まぁ、血の繋がった御兄妹とはいえ、年頃の男女が同衾するのは、やぶさかではありません・・・ごもっともです」
ラインハルトは、案を出す。
「フェリシアとカリンをトラキアから帝都に呼び戻そう。巫女のフェリシアなら神聖魔法が使えるだろうし、回復魔法も使えるだろう。それに、第三妃が夫と同衾しても問題は無いだろう。それと、魔法が使えるアストリッドもトゥエルブベルクから帝都へ戻すとしよう」
「・・・判りました。私はそれで良いとして、アレクはどうしますか?」
ジークからの質問に、ラインハルトは少し考える素振りを見せるが、二歩三歩と歩くとジークに答える。
「講和会議の国際会議場を教導大隊に警備させる。警備任務を割り当てれば、小隊単位で活動してアレクが一人になる事は無いだろうし、飛行空母ユニコーン・ゼロを宿舎代わりに教導大隊に使わせるとしよう」
ラインハルトの案にジカイラは苦笑いする。
「おいおい。アレク達は卒業間近なんだぞ? 鬼だな」
ハリッシュは口を挟む。
「一応、一触即発の列強による不測の事態を想定して、講和会議には帝国軍を警備動員して帝国竜騎兵団、帝国機甲兵団、帝国不死兵団、帝国魔界兵団と帝国海軍の五軍儀仗で各国の代表使節団を迎える予定でした。教導大隊が講和会議の警備に加わっても、特に違和感は無く、各国を刺激することも無いでしょう」
ジークは口を開く。
「それならば、是非、トラキア兵団も五軍儀仗に加えて六軍儀仗として欲しい。メフメトでの紛争に勝利した彼らを帝国軍の末席に」
「良いだろう。五軍儀仗ならぬ、六軍儀仗としよう」
ラインハルトはジークの進言を了承する。
緊急会議の終了後、帝国軍による六軍儀仗と皇族の護衛は、すぐに手配される。
ーー帝国領トラキア トラキア離宮 フェリシアの私室
フェリシアとカリンは、フェリシアの私室にいた。
ラインハルトからの勅命状がフクロウ便でフェリシアに届けられ、勅命状を読んだフェリシアとカリンはジークの護衛として帝都への招聘され、ジークに会えると大喜びする。
また、フェリシアは、講和会議に集まる各国の使節団に対する儀仗に、トラキア人からなるトラキア兵団が帝国軍として加わり、従来の五軍儀仗から六軍儀仗となることを知り、トラキア諸侯を集めてラインハルトからの勅命状を示しながらその旨を伝えると、トラキア諸侯たちは『自分達が帝国軍として認められた』と大歓喜してトラキア離宮は言葉どおりのお祭り騒ぎとなった。