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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十八章 決戦、アルビオン諸島
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第四百八十一話 決着

--アルビオン諸島 海峡北西側沖 スベリエ王国艦隊


 スベリエ王国艦隊を率いるオクセンシェルナ伯爵は、海峡の西側に展開するグレース王国艦隊の北側に艦隊を停泊させていた。


 水兵達は前線から『西方協商軍、撤退』の報告を受けて北部同盟の勝利を確信して勝利の祝杯を挙げ、彼ら達のみならず、オクセンシェルナ伯爵自身も自分の部屋で好物の赤ワインを飲んで横になっていた。


 既に時刻は深夜を過ぎていたが、時折、グレース王国艦隊が一斉射撃する砲撃音が聞こえてくる。


 勝利の美酒に酔い気持ち良く横になっていたオクセンシェルナ伯爵は、横になったまま片目だけ開くと苦々しく呟く。

 

「北部同盟の勝利は決まっているというのに。いくらカスパニアが相手とはいえ、この闇夜の中で『追い打ち』を掛けるとは。・・・グレースの海賊姫め。全くもって無粋な」


 それから小一時間ほど過ぎた後、オクセンシェルナ伯爵は今度はけたたましい半鐘の音に起される。


 眠気が飛び、目覚めてしまったオクセンシェルナ伯爵は、恨めしそうに起き上がると自分の部屋から甲板に出て水兵に尋ねる。


「なんだ? この音は?」


 水兵は答える。


「隣のグレース王国艦隊からです」


 オクセンシェルナ伯爵がグレース王国艦隊へ目を向けると、グレース王国艦隊のグレース・ガレオンやフリゲートが灯火管制を一斉に解除し、闇夜を照らし出すシャンデリアのように船の随所に灯された明かりが周囲を照らし出し、慌ただしく展帆して航行を始めていた。


 オクセンシェルナ伯爵は、異変に気付く。


「グレースの艦隊が・・・出帆している!?」




 ひと呼吸置いた、その後であった。


 オクセンシェルナ伯爵が自分の艦の船舷の先に広がる闇夜に目を向けると、闇夜の中からカスパニアの大型輸送キャラックの舳先が現れ、オクセンシェルナ伯爵は驚愕する。

 

「なんだと!?」


 カスパニア輸送船団の大型輸送キャラックがオクセンシェルナ伯爵の乗るスベリエ・ガレオンの船腹に衝突してくる。


「ウォオオオオ!!」


 轟音と激しい衝撃、それらと共にスベリエ・ガレオンは大きく傾き、オクセンシェルナ伯爵は、雄叫びを上げながら船尾楼入口のドアにしがみつく。


「ウワァアアアア!!」


 スベリエ王国艦隊の水兵達の多くは勝利の美酒に酔って寝ていたため、カスパニア輸送船団による奇襲体当たり攻撃によって、スベリエ王国艦隊は大混乱に陥る。


 オクセンシェルナ伯爵は張り裂けんばかりの大声で号令を掛ける。


「全艦、直ちに抜錨! 展帆しろ! 総員、戦闘態勢! 敵が来たぞ!!」

 

「りょ、了解!」


 狼狽える士官は答える。


 更にオクセンシェルナ伯爵は命令を続ける。


「艦砲は個別照準! 準備出来次第、撃てぇ!!」


 スベリエ軍が使用しているラピッドファイヤ砲は装填時間が短いため、程なく砲撃を開始する。


 しかし、海峡へ向けて闇夜の中を砲撃しても、戦果には乏しいものであった。


 カスパニア輸送船団に体当たり攻撃を受けたスベリエ王国艦隊は、投錨していた錨を引き揚げ、帆を展開して出帆するが、対応が完全に後手に回ってしまっていた。


 オクセンシェルナ伯爵の乗る旗艦のすぐ近くに停泊していたフリゲート艦が、カスパニア輸送船団の重キャラベルに体当たりされ、轟音と共に転覆する。


 オクセンシェルナ伯爵の乗る旗艦のスベリエ・ガレオンなら装甲もあり艦体も大型であり、少々ぶつかったくらいで転覆はしないが、フリゲートのような中型艦は重キャラベルのような大型艦に体当たりされると転覆してしまう。

 

 そして、生身の人間が凍てつく冬の氷竜海に落ちれば、海水によってたちどころに体温を奪われ絶命してしまう。

 

「クソッツ! 針路北へ! スベリエ本国へ撤退しろ!!」


 オクセンシェルナ伯爵の判断は早く、カスパニアに不意を突かれ自軍の形勢不利を悟ると、撤退の命令を下す。


 スベリエ王国艦隊は、展帆を済ませて出帆した艦から北へ向けて航行を始め、アルビオン諸島から撤退して行く。


 幸いカスパニア輸送船団も、カスパニア無敵艦隊(アルマダ)も、海峡を西側へ出るとカスパニア本国のある南へ向けて進路を向ける。


 カスパニア輸送船団の一部が海峡を西側に抜けた際に、停泊していたスベリエ王国艦隊とニアミスしたため発生した交戦であった。





ーー翌日の早朝。


 海面に朝日が昇ると共にアレク達を乗せた東方不敗は、グレース王国艦隊の上空を離れアレク達をアルビオン諸島南島の教導大隊陣地に送り届け、グレース本国へと帰還していく。


 離陸して帰還する東方不敗を見送ったアレク達は、教導大隊陣地の海峡を見下ろせる一角に佇み、明るくなり始めた海面、決戦の戦場を見詰める。

 

 ルイーゼは、無言で海面を見詰めるアレクの隣に寄り添う。


 登り始めた朝日が、朝の冷気とともに穏やかな海面に反射して輝いている。


 本島の海岸から陸地に掛けての一面が両軍の妖魔と兵士の死体で埋め尽くされ、波打ち際は人間と妖魔の死体から流れ出る血で赤黒く染まっていた。


 本島の陸地の随所に艦砲射撃による砲弾が撃ち込まれた穴が開いていた。


 列強と呼ばれる国々が威信と野心、それぞれの興亡を賭けた戦場、氷竜海は何処までも青く磨きたてた青銅の鏡の色をしており、波は何事も無かったかのように繰り返し、悠久の年月を経て形作られた海峡を流れ、たったいま地上に誕生したかのようにみずみずしくきらびやかに躍動していた。


 アレクは呟く。


「終わったな・・・」


 ルイーゼは答える。


「ええ」


 ジカイラとヒナがアレク達の元にやって来る。


 ジカイラは口を開く。


「アレク。御苦労だった」


 アレクは悔しそうに答える。


「大佐。・・・四隻しか倒せませんでした。カスパニア無敵艦隊(アルマダ)を撃ち漏らしました。カスパニアは、またどこかの国を侵略するでしょう」


 ジカイラは微笑みながらアレクの肩に手を置いて答える。


「お前は良くやった。帝国へ帰るぞ」


「はい」


 ヒナは、ジカイラを冷やかす。


「ジカさん、今回は何もしなかったわね」


 ジカイラは苦笑いしながら答える。


「いつまでもオレが直接出張(でば)るんじゃなくて、若い世代に経験を積ませて育てないとな。お前らを無事に連れて帰るのがオレの仕事なんだよ」


 ジカイラとヒナのやり取りも見て、アレクとルイーゼはクスリと笑う。


 アレクは傍らのルイーゼに告げる。


「帰ろう。ルイーゼ」


「ええ」




 カスパニアが深夜に撤退を強行したことで、アルビオン諸島を巡る北部同盟と西方協商の決戦は、同諸島を守り抜いた北部同盟側の勝利という形で一応の決着をみせた。


 シャーロット率いるグレース王国艦隊が停泊中のナヴァール王国艦隊を襲撃して艦隊旗艦を含むナヴァール・ガレオン五隻を撃沈。


 また、ナヴァール王国軍は、投入した戦闘飛行船二十隻中、半数の十隻を喪失する。


 西方協商の一角を担うナヴァール王国のブルグンド王を討ち取った事は大きな戦果であった。


 アルビオン本島を巡る上陸戦は極めて激しい戦闘であり、カスパニアは三万の軍勢と多数の輸送船を失い、スベリエは一万の軍勢を失った。


 カスパニア無敵艦隊(アルマダ)も無傷では済まず、四隻を失っていた。



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