第四百七十七話 義理の姉弟
アレクとルイーゼがベッドの上で戯れていると、ランスロットがアレクの部屋を訪れて来る。
「アレク大尉。ジカイラ大佐が会議室にお呼びです。軍服を着用とのことで」
「軍服で?・・・判った。すぐ行く」
アレクはそう答えると、部屋着から軍服に着替え始める。
「アレク。私も行くわ」
ルイーゼは、アレクにそう告げると軍服に着替え始める。
程なく着替え終えた二人は、部屋を出てランスロットの後に付いて行く。
会議室の前に到着すると、ランスロットはドアをノックして口を開く。
「ジカイラ大佐。アレク大尉をお連れしました」
「入れ」
「失礼します」
アレク達三人が会議室に入ると、会議室にはジカイラとヒナ、ミネルバ、そしてシャーロット達グレース王国一行がいた。
ジカイラはランスロットに告げる。
「ランスロット、ミネルバ。御苦労だった。歩哨に戻れ」
「ハッ!」
ランスロットとミネルバは、ジカイラに敬礼すると会議室を後にする。
歩哨に戻った二人が会議室のドアを閉めてから、ひと呼吸の後、ジカイラが口を開く。
「・・・さて。女王陛下には紹介しておくか」
ジカイラはそう呟くと、アレクの後ろに回り込んで立ち、後ろからアレクの両肩に手を掛けて口を開く。
「女王陛下。ここにいるのがジークの弟、帝国第二皇子アレキサンダー・ヘーゲル・フォン・バレンシュテットだ」
「なっ!?」
「殿下の弟!?」
ジカイラの言葉にシャーロット一行は驚く。
「ジーク様の弟だと!?」
シャーロットはアレクの前に立つと、アレクの顔に自分の顔を近づけて、まじまじとアレクの顔と瞳を覗き込む。
シャーロットは、『氷竜海の白百合』とも呼ばれている透き通るような白い肌とプラチナブロンドを持つ目鼻立ちのはっきりした美人であった。
アレクは、美人のシャーロットに顔を近づけられ、大きな美しい銀色の瞳でまじまじと瞳を見詰められ、少し照れる。
「へ、陛下、御顔が・・・」
「ジーク様と同じ美しいエメラルドの瞳をしているな」
シャーロットは、ジークと同じアレクの瞳を見て兄弟だと納得したようであり、夫であるジークの兄弟に会えた事を素直に喜ぶ。
「そうか! そなたがジーク様の弟か! 私の『義理の弟』という事だな! グレース王国女王シャーロット・ヨーク・グレースだ! よろしくな!!」
シャーロットは、満面の笑顔でアレクの両手を握って挨拶する。
アレクは、明け透けで奔放なシャーロットに戸惑いながらも挨拶して答える。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
シャーロットは、上機嫌でアレクの傍らにいるルイーゼにも両手を握って挨拶しようとする。
「こちらは、御妃か? よろしくな!」
ルイーゼは、シャーロットが両手を握ろうとするよりも早く、シャーロットに片膝を着いて目線を落とし、最敬礼を取る。
「私は第二皇子殿下のメイド、ルイーゼ・エスターライヒと申します」
アレクは、ルイーゼがシャーロットに対して最敬礼をして『臣下の礼』を取った事に驚き、戸惑う。
「ル、ルイーゼ・・・」
アレクは、ルイーゼの身分をすっかり忘れていた。
アレク自身は、ジークの弟である帝国第二皇子というバレンシュテット帝国の皇族の生まれであり、父からの懲罰で一時的にそう名乗れなくなっているものの、兄嫁で義理の姉というシャーロットと対等に挨拶する事の出来る身分であった。
しかし、ルイーゼは違う。
ルイーゼは、帝国の準貴族である騎士爵家の生まれの『アレク付きのメイド』であり、大国グレース王国の女王であり、主人の義理の姉というシャーロットと対等に挨拶する事は憚られる身分であった。
「メイド・・・?」
シャーロットは、一瞬、怪訝な表情をするが、頭の回転の速いシャーロットは、直ぐにアレクとルイーゼの関係に気付く。
普通の主従なら、従者が主人の義理の姉に『臣下の礼』を取ったところで気にも留めない。
だが、アレクは、ルイーゼがシャーロットに対して『臣下の礼』を取った事に対して、明らかに戸惑い、動揺していた。
シャーロットは、二人の様子から『普通の主従の関係ではない』という事を察し、小首を傾げるような仕草で二人に尋ねる。
「もしかして、・・・二人は『恋人同士』か?」
ルイーゼは、シャーロットにアレクとの関係を言い当てられ、驚いてシャーロットの顔を見上げる。
「え!?」
アレクもシャーロットに見抜かれた事に驚きながら答える。
「え!? ・・・ええ。そうです」
アレクの答えを聞いたシャーロットは、大好きな『恋バナ』のネタを見つけて舞い上がり、大きく目を見開いて瞳を輝かせると、大げさな身振り手振りで会議室内を歩きながら熱く語り始める。
「おおおぉ!? ・・・皇子とメイド! 皇族と従者! 帝国の宮廷では許されない、禁じられた恋! 身分の差を越えて、激しく求め合い、愛し合う二人は、この戦場に身を置いているからこそ、寄り添い、愛し合っていられるのだ! ・・・なんて、素敵な! なんて、ロマンチックな!!」
シャーロットは、そこまで言うと、片膝を付いているルイーゼの両手を握って熱く語る。
「私は、二人が結ばれるように全力で応援するぞ! ジーク様もきっと二人を祝福してくれると思う! ・・・何なら、二人でグレースに亡命して来ても良い!!」
ルイーゼは、シャーロットの熱弁に感動した様子でシャーロットを見詰め返す。
「陛下・・・」
アレクは、バツが悪そうに答える。
「何と言うか、その・・・。旅行くらいなら、考えておきます」
三人が落ち着いたので、リッチは咳払いをしてシャーロットを諫める。
「コホン。・・・陛下。わざわざこの陣地まで『恋バナ』をしに来た訳ではありませんぞ」
シャーロットはハッとして答える。
「そ、そうだったな。・・・早速、本題に入ろう」
アレクは怪訝な顔をで尋ねる。
「本題・・・ですか?」
シャーロットは答える。
「我が軍は、単独でカスパニア軍に夜襲を仕掛ける」