表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十八章 決戦、アルビオン諸島
487/543

第四百七十六話 女王の来訪

 夕刻になると、東方不敗、スベリエ飛行艦隊、ソユット飛行艦隊と戦闘していたカスパニア飛行艦隊が戦域から撤退する。





 北国の冬の日は短く、夕刻から直ぐに日没となり、夜の帳が降りてくると共に雪が降り始める。


 教導大隊の一年生達がそれぞれ陣地の歩哨に立っていた。


 アレクは、宿舎から外に出ると陣地の塹壕の中から夜空を見上げる。


 月の光は雪雲に遮られているため辺りは暗く、雪は夜空から音も無く、とめどもなく舞い散るように降り続けていた。


 雪で視界はほとんど効かないが、時折、カスパニア無敵艦隊(アルマダ)が本島を砲撃する音が聞こえてくる。


 アレクの元にルイーゼがやって来て、雪が降る夜に外に出ているアレクを心配する。


「アレク。まだ宿舎の中に入らないの?」


 自分の身を気遣ってくれるルイーゼに、アレクは優しく微笑み掛ける。


「大丈夫。今、戻るよ」


 二人の元にジカイラがやって来る。


「二人とも、ここに居たのか」


 アレクは声が聞こえたジカイラの方を振り返る。


「大佐」


 ジカイラが続ける。


「カスパニア軍が気になるのか?」


 ジカイラからの問いにアレクは頷く。


「ええ」


 決戦の趨勢は既に決しており、西方協商の航空戦力は既に戦場から失われ、上陸したカスパニア軍もアルビオン本島から撤退を続けていた。


 アレクは、雪の降る闇夜の中でカスパニア軍がどのように動いているのか、その動向が気になるようであった。


 ジカイラは続ける。

 

「カスパニアは撤退するだろう。制空権を失い、撤退を始めていたカスパニアが明日、いきなり上陸戦を再開するとは考えにくい。それに、降雪している視界の無い闇夜でカスパニア軍に追い打ちを掛けることも困難だ。・・・こっちは手詰まりだよ。二人とも、昼間の戦闘で疲れただろう? 夜間の歩哨は一年生がやる。宿舎の中に入って休め」 


「判りました」


 ジカイラに諭され、アレクはルイーゼと宿舎に戻る。






 宿舎に戻ったアレクとルイーゼは、戦闘装備を外して入浴を済ませて自分の部屋に戻る。


 ベッドに横たわるアレクの傍らにルイーゼが寄り添う。


 アレクはベッドに寝転がったまま、天井を見上げて考える。



 

 不服そうな顔でベッドに寝ているアレクにルイーゼが声を掛ける。


「アレク。まだカスパニアの事を考えているの?」


 アレクは、心配してアレクの顔を覗き込むルイーゼに答える。


「んん? ・・・まぁね」


 ルイーゼは、気のない答えを返してくるアレクにキスする。


「んっ・・・。ルイーゼ?」


 キスを終えたルイーゼは、アレクを諭すように告げる。


「アレク。・・・アレクは、もう十分戦ったわ。きっと、陛下も皇太子殿下も、アレクの事を認めてくれる。今はまだ士官学校の学生なんだから、大佐の指示通りにしていれば良いのよ。カスパニアの事は、士官学校を卒業して第二皇子に戻ってから考えたら良いわ」


 アレクは、自分の目を見詰めるルイーゼに答える。


「そうだな。ルイーゼの言うとおりにするよ」


「うん」


 アレクとしては、この決戦で徹底的にカスパニア軍を叩いて、他の国を侵略して住民を拉致したり、奴隷貿易や麻薬取引を二度と行えないようにしてやりたかった。


 そのカスパニア軍は、制空権を失い、戦場から撤退しつつある。


 撤退しているカスパニア軍を許せない自分が追撃の一手を行えない事が歯痒く、悔しかった。





 ミネルバとランスロットの二人は、陣地の見回りを行っていると、雪の降る空からプロベラの風切り音がしてくる。


 ミネルバは雪の降る闇夜を見上げ、隣のランスロットに告げる。


「これ・・・プロペラの音!? 何か来る!!」


 ランスロットも空を見上げる。


「この闇夜の悪天候の中を? どこの船だ!?」


 二人の目の前に次第に風切り音を発生させている物体の輪郭が見えてくる。


 ミネルバは見上げながら呟く。


「・・・グレース国旗!? 赤錆色の飛行船!?」


 二人の前に降下してきたのは、グレース王国に帰属した東方不敗の飛行船であった。


 陣地に着陸した飛行船のハッチが開き、中から人が降りてきたので、二人は慌てて敬礼して出迎える。


 二人の前に現れたのは、元帥服に身を包んだグレース女王シャーロットと東方不敗の団長リッチ、士官のすつぬふとルパ、アーベントロートであった。


 すつぬふは、出迎えに来た二人に軽口を叩いて片目を瞑って見せる。


「ふう。なんとか着いたな。雪の降る闇夜で、味方から撃たれるんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ」


 シャーロットは、ランスロットとミネルバに声を掛ける。


「出迎え御苦労。ジカイラ大佐は何処だ?」


 ランスロットは、答える。


「大佐は宿舎の中です。呼んできます」


 リッチは、口を開く。


「いや。こちらが出向こう。女王陛下を雪の中で待たせるより、建物の中の方が良いだろう」


 ランスロットは、謝罪する。


「これは、気が付かず・・・。申し訳ありません」


 シャーロットはミネルバに話し掛ける。


「案内を頼んでも?」


「はい!」


 ランスロットは小走りでジカイラの元に向かうと、ミネルバは緊張した面持ちでシャーロット一行を宿舎の中に案内する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ