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第四十五話 上級騎士の剣技、姉妹の懇願

--夜。


 アレクは一人、当直の整備士以外、誰も居ない格納庫の一角で、剣術の鍛錬していた。


 上級騎士(パラディン)の剣技である『受け流し』の練習であった。


 アレクは、ブツブツ呟きながら剣の動きと体捌きの練習をする。


「こう来たら、こう受けて・・・、その時の体(さば)きはこうで・・・」 


 アレクは、父のラインハルトや兄のジークのように上級騎士(パラディン)になりたかった。


 アレクが先日、ルイーゼとのデートした際、腹筋同盟のチンピラ共が十二人で現れた。その時、アレクはルイーゼを連れて逃げた。


 しかし、上級騎士(パラディン)である兄のジークならば、あんなチンピラどもなど五十人が相手でも叩きのめしたことだろう。


 アレクは、ルイーゼとキスしたことから、より身近に彼女の存在を意識するようになり、『ルイーゼを守れる強さが欲しい。上級騎士(パラディン)になりたい』と切実に考えるようになった。


 アルが剣術の練習をしているアレクを見つける。


「アレク、一人で何してんだ?」


「『受け流し』の練習さ」


 アレクの答えを聞いたアルが驚く。


「『受け流し』って、上級騎士(パラディン)の剣技だろ?」


「そうだよ」


「そんな剣技を練習して、どうすんだ?」


上級騎士(パラディン)になりたくてね」


「そうなんだ」


 ひとときの間、アルはアレクが練習している様子を眺める。


 相棒ともいえる友人が、より上位の職種を目指して努力している姿に、アルは感じいる。


 アルが口を開く。


「よし! アレク、オレが練習の相手になってやる!」


 こうして二人は剣技の練習を始めた。


 二人で小一時間ほど練習していると、ジカイラが剣技の練習をしている二人を見つける。


「おっ? 二人で剣技の訓練か?」


 ジカイラからの問い掛けにアレクが答える。


「『受け流し』の練習です」


「なるほどな」


 ジカイラはそう答えると、練習する二人の様子を眺める。


 数回、練習している様子を見ると、ジカイラが口を開く。


「いいか。『受け流し』ってのは防御技だ。単独で使っても効果は薄い。『切り返し』と組み合わせて連続で使え」


「はい!」


 ジカイラの言葉にアレクは頷く。


(なるほどな・・・)


 ジカイラは、先の革命戦役で上級騎士(パラディン)であるアレクの父、ラインハルトと一緒に数々の戦いを潜り抜けており、ラインハルトの剣技を間近で見ていた。


 ラインハルトは、サーベルで相手の攻撃を『受け流し』、返す刀である『切り返し』の一太刀で相手を斬り伏せていた。近接戦最強の上級騎士(パラディン)ならではの『神速の一刀』であった。


 アレクは、アルがゆっくりと振り下ろす剣を、自分の剣で受け、体(さば)きによって、相手の攻撃を自分の体の中心軸から外れるように流すと同時に、相手との間合いを一気に詰め、返す刀で切り返す・・・という練習を繰り返す。


 ジカイラは、改めて二人が練習する様子を眺める。


 少し練習しただけで、アレクがメキメキと剣技の技量を上げていく事がジカイラには見て取れた。


(・・・アレクは、あのラインハルトとナナイの息子だ。元々、才能はある。・・・今まで努力も練習もしていなかっただけだ)


 ジカイラが口を開く。


「アレク。だいぶ、上手くなったじゃないか。・・・『受け流し』と『切り返し』は上級騎士(パラディン)の主な剣技だ。一日一時間でも良い。出来る限り毎日練習すると良い」


「はい!」


 アレクは、アルが練習を手伝ってくれた事、努力をジカイラに認めて貰えた事が何よりも嬉しかった。

 







 練習を終えたアレクとアルの二人が通路を歩いていると、先日、アレク達が鼠人(スケーブン)から救出した姉妹が歩いて来る。


 姉が妹に告げる。


「先に部屋に戻っていなさい」


 幼い妹は、姉に言われたとおりに小走りで自分の部屋に戻っていく。


 姉がアレクに話し掛ける。


「あの・・・隊長さん。ご相談があるのですけど」


 アレクが聞き返す。


「オレに相談?」


「はい」


 気を利かせて、アルは二人を置いて先に自分の部屋に戻っていく。 


「じゃ、オレは先に自分の部屋に帰っているから」


 アレクは、飛行空母の居住区画の一角にある『応接室』に姉と一緒に向かう。






 アレクは応接室に入ってソファーに腰掛けると、姉にも座るように促す。


「まぁ、掛けて」


 姉はアレクに続いて応接室に入るとドアに鍵を掛け、アレクの前に立ち尽くしていた。


 緊張気味のアレクが姉に尋ねる。


「そ、そう言えば、まだ、名前を聞いてなかったね。名前は?」


「カルラです」


 アレクは、カルラを名前で呼ぶと改めて尋ねる。


「それで、カルラ。オレに相談って、なんだい?」


 カルラは懸命にアレクに願い出る。


「隊長さん! お願いです! 私達をこの(ふね)に置いて下さい!」


 アレクは、怪訝な表情で尋ね返す。


「この(ふね)って、この飛行空母? そんなにここが良いのか?」


「はい!」


 そう言うと、カルラは(ひざまず)いて両手を床に着けて頭を下げ、アレクに必死に願い出る。


「・・・避難民は皆、州都に降ろされています。私達は、州都に降ろされても、生きていけません! ・・・掃除でも、何でもやります! 妹の分も私が働きます! どんな事でもします! お願いです! 私達をこの(ふね)に置いて下さい! お願いします!」


 アレクは、必死に懇願するカルラ達の事を考える。


 カルラ達は、両親を鼠人(スケーブン)に殺されていた。


 両親のいない二人だけの幼い姉妹が避難先である州都に降ろされたところで、生きていくのは困難に思えた。


 実際に、幼い姉妹を飛行空母から地上の州都に降ろしたところで、二人を待っているのは貧困と飢餓であった。


 その点、飛行空母なら食費は帝国軍持ちであり、幼い姉妹は、無料で一日三食、お腹一杯にご飯を食べることができた。


 アレクに必死に訴えたカルラは、服と下着を脱いで全裸になるとアレクの前に立つ。


 アレクは、カルラの行動に驚く。


「・・・え!?」


 カルラが口を開く。


「・・・私、どうすれば男の人が満足するのか、知ってます! 奉仕させて下さい!」 


 そう言ってカルラはソファーに座るアレクにすがりつく。


「待って、ちょっと待って!」


 カルラは懇願する目で見上げてアレクの顔を見詰める。


 アレクが口を開く。


「・・・判った。ジカイラ中佐に頼んでみるよ」


 カルラは、目に涙を浮かべてアレクに感謝を伝える。


「ありがとうございます! 感謝します! ありがとうございます!」


 カルラは服を着ると、アレクに何度も頭を下げて応接室を後にする。


 カルラが帰った後、応接室でアレクは一人で自己嫌悪に陥っていた。


(はぁ・・・)


 

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