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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十八章 決戦、アルビオン諸島
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第四百六十七話 アレクの決断

 長剣を手に立ち尽くすアレクとルイーゼの元に、ユニコーン小隊の仲間達が集まって来る。


 エルザは口を開く。


「アレク! 大変よ! 上陸してきた獣人達に子供がいるの!!」


 エルザにナディアが続く。


「上陸してきた獣人達は『軍勢』というより『難民』ね。子供だけじゃなく女性や老人たちもいたわ」


 二人の報告を受けたアレクは、戸惑いを隠せず、傍らで座り込むバルドゥインと彼を介抱しているアナスタシアに尋ねる。


「どういう事だ? なぜ、戦場に女、子供や老人といった非戦闘員が上陸してくるんだ?」


 バルドゥインは立ち上がりながら、経緯を答える。


「それは・・・」




 獣人達の村が干ばつに襲われ続け、砂漠に飲み込まれつつあったこと。


 アナスタシアの祭祀の力でも干ばつをどうにかする事はできず、獣人達は大地母神の信託に従って『人と獣人達が共に住める地:約束の地』を目指して南方大陸から北の大陸、すなわちアスカニア大陸へ行こうとしていたこと。


 他に方法が無くカスパニアの輸送艦隊でアルビオン諸島に来たこと。などを話した。


 


 話を聞いたアレクの心に、しばらく抑えていたカスパニアのやり方に対する怒りと義憤が沸々と湧いてくる。


「干ばつで村を追われた獣人たちを、集落丸ごと戦場に送り込んで自分達の『弾除け』に使おうなんて・・・」


 ルイーゼは続く。


「いかにもカスパニアらしい、やり方ね」


 獣人(ビーストマン)三世(クォーター)のエルザは、少し悲し気に呟く。


「カスパニアは、獣人(ビーストマン)を人として扱っていないから・・・」


 ナディアも嫌悪感を露わにする。


「『亜人差別』ね」


 ナタリーも口を開く。


「酷い事を・・・」


 アルは唾棄するように呟く。


「反吐が出る」


 バルドゥインは、自嘲気味に口を開く。


「まぁ、オレ達も捨て駒を承知で船に乗り込んだからな。南方大陸から北の大陸まで行ければ、カスパニアの船を奪って何とかなると」


 トゥルムはバルdpゥインに尋ねる。


「これから、どうするつもりだ?」


 立ち上がったバルドゥインは答える。


「何とかする」


 ドミトリーは、バルドゥインを諫める。


「だが、どうにもならないだろう? ここは絶海の孤島だぞ? 北の大陸というか、アスカニア大陸本土まで、かなり距離もある。おまけに冬だ。いくら獣人(ビーストマン)がタフでも、この冷え込みは堪えるだろう。まして女、子供、老人となれば、寒さに耐えられまい」


 バルドゥインは、諦めたように答える。


「そんなの判り切ったことさ。・・・あのまま黙って干ばつで全滅するか、少しでも生き残れる可能性に賭けるか。それだけの事だ」


 ドミトリーは黙り込む。


「むぅ・・・」





 その時であった。


 獣人達が逃げ込んだ森に数発の砲弾が続けて着弾し、爆音が轟く。


 砲弾が当たった森の木々が砕け散り、頭上に降り注いできた木片と木々の枝から落ちてきた落雪に、獣人達は頭を抱えるように屈んで悲鳴を上げる。


「わぁあああ!!」


「きゃぁあああ!!」


 ナディアは、周囲を見渡しながら口を開く。


「砲撃!? どこから?」


 エルザは、空を指差す。


「アレク! あれ見て!」


 アレクがエルザが指し示す先の空に目を凝らすと、スベリエ王国の戦闘飛行船艦隊が現れ、南島にカスパニア軍として上陸してきた獣人達に向けて砲撃を始めたのであった。


 続けてルイーゼがアレクに告げる。


「アレク! グリフォン小隊に食人鬼(オーガ)の群れが!」


 土木工事を終えた食人鬼(オーガ)達がゴブリン達妖魔に続いて戦闘に加わったのであった。


 アレクは必死に考える。


(くっ! ・・・どうする!?)


 カスパニアに弾除けとして戦場に連れてこられた獣人達を、難民である獣人達を何としても救ってやりたい。


 獣人達を教導大隊の陣地に連れて行って匿うにも、雪山を三時間登らねばならず、残存スベリエ軍の屈強な兵士達ならいざ知らず、獣人の女、子供、老人たちは三時間の雪中行軍には耐えられないだろう。


 同時に、食人鬼(オーガ)達が戦闘に加わったグリフォン小隊を支援しなければならない。


(何か! 何か、手は無いか! 何か方法は!!)


 アレクが必死に考えながら周囲を見回していると、スベリエ戦闘飛行船艦隊の向こう側の空から、それは現れた。


 それは分厚く薄暗い雪雲の隙間から、ゆっくりと降下してきた。




 圧倒的な存在感を誇る純白の巨大な飛行戦艦。


 アレクの兄である皇太子ジークフリートが観戦武官として乗艦しているバレンシュテット帝国軍 総旗艦ニーベルンゲンの雄姿であった。




 アレクは閃く。


(あれだ!!)


 アレクは傍らのルイーゼに告げる。


「ルイーゼ! 赤の信号弾はあるか!?」


 ルイーゼは尋ねる。


「あるけど、どうするの??」


 アレクは答える。


「ニーベルンゲンをここに呼ぶ。あれに獣人(ビーストマン)達を保護して貰う」


 アルは納得したように手を打つ。


「そうか! 帝国は世界大戦に中立だもんな! 帝国の飛行戦艦に獣人(ビーストマン)達を乗せりゃ、どこからも攻撃されないし、安全だな!」


 エルザも賛同する。


「そうね! 名案だわ!!」


 ナディアもエルザに続いて賛同する。


「あの大きな飛行戦艦なら獣人(ビーストマン)達全員を乗せても大丈夫そうね!」


 ナタリーは、不安を口にする。


「・・・上手くいくかしら? 帝国は中立で、ここは戦闘区域よ?」


 ドミトリーも懸念を口にする。


「隊長、大丈夫なのか? あの艦は皇帝座乗艦だぞ? あとで不敬罪で軍法会議に掛けられたりするのではないか?」


 アレクは断言する。


「大丈夫だ!」


 アレクには確信があった。


 兄なら、ジークなら帝国軍の救難信号を見たら、必ず来てくれる。必ず獣人達を助けてくれると。


 ルイーゼは、口を開く。


「トゥルム! 背嚢から発射装置を出して!」


「判った!」


 トゥルムは頷くと、背嚢から信号弾を打ち上げる発射装置を取り出して地面に設置する。


 ルイーゼは、背嚢から赤の信号弾を取り出すと発射装置に装填し、赤の信号弾を打ち上げる。


 信号弾は、乾いた音と共に赤い煙を曳きながら厚い雲が立ち込める空に弧を描いて飛んで行く。

 

 アレクは、ルイーゼとトゥルムが信号弾の準備と打ち上げをしている間、トゥルムの背嚢から取り出した羊皮紙に手紙を綴っていた。


 ルイーゼが発射装置で赤の信号弾を打ち上げた時、ちょうどアレクも手紙を書き終える。


 アレクは首から下げているお守りを外すと、手紙と共にアナスタシアに手渡して告げる。


「いいかい? もう少ししたら、あの白い大きな船がここに来る。あの船に乗っている『ジークフリート』という人に、これと手紙を見せるんだ。その人は、必ず君達を助けてくれる。必ず『約束の地』に連れて行ってくれる」


 アナスタシアは目を見開く。


「本当ですか!? 本当に私達を『約束の地』に連れて行ってくれるのですか!?」


 アレクは自信をもって答える。


「本当さ。約束する」


 アナスタシアは深々と頭を下げる。


「ありがとうございます! 見ず知らずの私達のために! なんと、・・・なんとお礼をしたらいいか! ・・・せめて、貴方のお名前を教えて下さい!」


 アレクは照れ臭そうに官姓名を答える。


「バレンシュテット帝国中央軍教導大隊 アレキサンダー・ヘーゲル大尉」


 アナスタシアは復唱するように、両手を胸の前で祈るように合わせると胸に刻むように呟く。


「アレキサンダー・ヘーゲル大尉・・・。お名前は決して忘れません」


 スベリエ王国の戦闘飛行船艦隊が砲撃してくる中、バルドゥインはアレクに尋ねる。


「ありがとう。アンタはオレ達の命の恩人だ。・・・だが、なんで、縁も所縁(ゆかり)も無いオレ達を助けてくれるんだ?」


 アレクは答える。


「帝国は、人間も亜人も共に暮らしている国なんだ。亜人だから、獣人だから、死んでいいなんて事は無い。そんな事、許せるはずが無い」


 バルドゥインは、呟く。


「そうなのか。しかし、北の大陸にそんな国があったとは・・・」


 アレク達が話をしていると、アレク達の近くにも砲弾が着弾し、アレクと周囲の者達が地面に伏せる。


「うぉおおお!?」


 アレクは、起き上がって口を開く。


「君達は白い船が来るまで森に隠れていろ! ユニコーン小隊、グリフォン小隊の支援に向かうぞ!」


「了解!!」


 アナスタシアとバルドゥインをその場に残して、アレク達はルドルフ達が戦っている場所へ駆け足で向かって行く。


 アナスタシアとバルドゥインは、獣人達が隠れている森の入口まで行くと、振り返って戦場に向かって走って行くアレク達の背中を見送る。


 バルドゥインは呟く。


「人間にも、良い奴がいるんだな」


 アナスタシアは、アレク達の背中に向かって両手を合わせると、祈りを捧げる。


「大地母神ナントスエルタ。彼の者達との出会いと導きに感謝します。願わくば、我らが賜るその慈愛と加護を彼の者達にも分け与えられますように」





 アルは、アレクと並んで走りながら尋ねる。


「なぁ、アレク。あの兎人の女の子、アナスタシアだっけ? 可愛かったな」


 アレクは、アルの言葉に少し驚くが、同意する。


「えっ!? ・・・まぁ、ね」


 エルザは、話を聞いていてアレクを茶化す。


「アレクったら、あの子としたくて、したくて、仕方なかったでしょ? 『乙女を見たら犯さずにはいられない』って!」


 ナディアは、エルザの言葉に間髪を入れず続ける。


「もぅ・・・。エロい! エロいわ!!」


 トゥルムは、走りながら豪快に笑う。


「はーっはっはっは! 隊長は異性からモテるからな!」


 ルイーゼは、拗ねたようにアレクに告げる。


「アレク! これ以上、奥さんを増やすと大変な事になるわよ!」


 ナタリーもルイーゼに続く。


「アルも! 浮気はダメよ!」


 最後にドミトリーが叫ぶ。


「お前たち! ここは砲弾が飛び交う戦場だぞ! いい加減にしろ! 煩悩に捕らわれ過ぎだ!!」


 叫んだ直後にドミトリーの近くに砲弾が着弾し、ドミトリーは慌てて地面に伏せる。


「うぉおおっ!?」


 パラパラと宙に舞った小石や砂が降り注ぐ中、ドミトリーは起き上がるとアレク達の後を追って走り出す。


「待て! 待ってくれ! ドワーフは短距離型なんだ! ・・・はぁはぁ。・・・呼吸だ。・・・呼吸をしよう。・・・息を吸って、吐いて」 


 

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