第四十四話 キスマーク、御褒美
--翌日。
ユニコーン小隊の女の子達四人は、連れ立って入浴するために浴場に向かう。
脱衣場で、ルイーゼが湯槽に髪をつけないようにセミロングの髪を結い上げて服を脱いでいると、ルイーゼを見たエルザが目を見開いて叫ぶ。
「ああっ!」
エルザの叫び声を聞いたナディアが、ふと、叫んだエルザの視線の先に居るルイーゼの方へ目をやると、ナディアもルイーゼを見て驚き、目を見開いて叫び声を上げる。
「ああっ!」
ルイーゼを見て驚くエルザとナディアに対して、ルイーゼとナタリーの二人はキョトンとした顔で、訳が分からずにいると、エルザとナディアがルイーゼの元にやってくる。
腰に両手を当てて、エルザがルイーゼに告げる。
「ルイ~ゼ~。・・・昨日、私達を出し抜いて、アレクと良い事していたでしょ?」
図星であった。
ルイーゼが驚いてエルザに尋ねる。
「どうして、そう判るの?」
エルザが得意満面の笑みを浮かべて、ルイーゼの首筋を指で突っ突く。
「ホラ、ここ。キスマークがある。アレクにキスされたんでしょ?」
ルイーゼは、昨夜、アレクにキスマークを付けられていた事に気付いておらず、エルザからの指摘に驚く。
「えっ!?」
ルイーゼが脱衣場の鏡で自分の首を見ると、エルザの指摘通り、首にキスマークが付いていた。
ナディアもニヤニヤと笑みを浮かべながら、ルイーゼの胸を突っ突く。
「胸のココと、ココにも。もぅ・・・二人で良い事していたのね?」
アレクとの昨夜の行為を言い当てる二人の追求に、ルイーゼはみるみる赤面して耳まで赤くなる。
ルイーゼは、恥ずかしそうに頷く。
「・・・うん」
服を脱ぎ終えた四人は浴場に入り、体を流して湯槽に浸かる。
ルイーゼは、他の三人に昨夜のアレクとのデートの話をする。
ルイーゼの話に一番驚いていたのは、ナタリーであった。
エルザが口を開く。
「ルイーゼ、良いなぁ~。アレクと二人で大人の階段を登ったんだ」
ナディアは両手で自分の両肩を掴むと体をくねらせながら、叙事詩のように語り始める。
「遠い異郷の地。噴水の傍らで。愛し合う二人は、星空を見上げながら、永遠の愛を語らっていたのね」
ナタリーは、エルザとナディアの話に苦笑いしながらルイーゼに尋ねる。
「デート、楽しかった?」
ルイーゼは笑顔で答える。
「うん!」
エルザが、興味津々にルイーゼに尋ねる。
「アレク、どうだった?」
「どうって?」
「キスとか、えっちとか」
ルイーゼが恥ずかしそうに答える。
「アレクは、優しくしてくれたわ。キスも、えっちも」
エルザが「思ったとおりだ」と言わんばかりに口を開く。
「やっぱり! エルザちゃんの目は正しかったわ! アレクは『理想の彼氏』よ!」
ナタリーがエルザに尋ねる。
「そうなの?」
エルザが身振り手振りを交えて解説し始める。
「そうよ! アレクは、いきなり中堅職の騎士になれるほど強くて、女の子みたいな綺麗な顔の美形で、気持ちは優しくて。実家はお金持ちで、メイドが居て。・・・結婚後を想像してみると良いわ。・・・炊事や掃除は全部、メイドがやってくれる。昼間は、友人とお茶会やったり、趣味に興じたり。・・・そして夜は、毎晩抱かれて子作りに励む。・・・まさに理想的よ!」
ナタリーは苦笑いしながら答える。
「それがエルザの理想なのね」
ナディアもエルザに近い考えであった。
「エルザの言うとおりよ。今は軍隊にいて汗と埃まみれになっても、良い男を捕まえて、将来は『奥様』と呼ばれたいわぁ~」
エルザとナディアは、互いに目配せすると、二人で寸劇を始める。
エルザが召使い役でナディアが奥様役であった。
ナディアが口を開く。
「ただいま」
「お帰りなさいませ。奥様。お茶の用意ができております」
「今日のお茶は何処のかしら?」
「新大陸から取り寄せたものです」
「スィーツは?」
「港湾自治都市群に初物のマンゴーが入荷したので取り寄せました。奥様の好物だと、御主人様より伺っておりましたので」
「頂くわ」
寸劇を終えた二人は、大きなため息を吐く。
「はぁ・・・」
エルザが口を開く。
「ルイーゼは、アレクと一緒になったら、将来こういう暮らしができるのよ。良いなぁ~」
ナディアも続く。
「羨ましい・・・」
アレクの実家である『バレンシュテット帝室』は、エルザやナディアの想像を遥かに超えた、世界一広大で豪華な宮殿『皇宮』に住んでいる世界一の大富豪であった。
ルイーゼは、その事を知っていたが口に出すことはせず、エルザやナディアの話に微笑んで答えていた。
帝国辺境派遣軍の主なメンバーは、飛行空母の艦橋に集まっていた。
ジークが口を開く。
「ソフィア。先日の『業火と鋼鉄の鉄槌作戦』において、お前の指揮する航空部隊の働きは、実に見事であった。おかげで敵の主力と思われる部隊を殲滅することができた」
ソフィアは畏まってジークに答える。
「ジーク様からお褒め頂き、恐縮です」
ジークが続ける。
「お前の献身的な働きに対して、褒美を与える。・・・これへ」
ソフィアは、ジークに近寄る。
「はい」
ジークは、更にソフィアを手招きする。
「もっと近くへ」
「・・・はい?」
ソフィアは、怪訝な表情をしながらジークの傍らまで近寄る。
ジークは、ソフィアの耳元まで顔を近づけると、そっとソフィアに耳打ちする。
「ソフィア。・・・私の寝室に入ることを許す」
アストリッドはジークの寝室に入る事も許されていたが、ソフィアには許されていなかった。
ソフィアが驚いて大声で叫ぶ。
「ええっ!? 私がジーク様の寝室に! 入っても良いんですか!?」
さすがのジークも赤面して、大声を出すソフィアをたしなめる。
「シーッ! ソフィア! 声が大きい!」
ジークからの御褒美に、ソフィアは周囲を憚ること無く、小躍りして大喜びする。
ソフィアの叫び声を聞いていた周囲の士官達が含み笑いを漏らす。
皇太子であるジークと皇太子正妃となるソフィア、皇太子第二妃となるアストリッドは、いわば、それぞれの親同士が決めた婚約者であり、当事者同士で肉体関係を持っても、誰も咎める者などいなかった。
むしろ周囲は、それを望んでいた。
律儀な性格のジークが世間体を気にして、一線を超える事を踏み止まっていたに過ぎなかった。
ジークがソフィアに寝室に入る事を許していなかったのは、気が強く、プライドが高く、気性の激しいソフィアを寝室に入れると、眠っているジークの上にソフィアが跨って乗り、強引に性交する懸念があったためであった。
しかし、ジークは、自分に献身的に尽くしてくれるソフィアに応えてやることにしたのであった。