第四百四十九話 決戦の知らせ
ルドルフとアンナは、帝都の市街地の一角にあるレストランでルドルフの母ティナと待ち合わせていた。
彼氏の母親との会食とあって、アンナはガチガチに緊張していた。
やがて待ち合わせ時間になり、ティナがレストランにやって来る。
「久しぶりね」
ルドルフは、ティナにアンナを紹介すると、士官学校卒業後の進路についてティナに話す。
ジカイラの推薦によって帝国中央軍配属の内定を貰ったこと。
帝都に官舎が与えられるので三人で一緒に住もうという話をする。
話を聞いたティナは答える。
「ふふふ。後でジカさんにお礼を言わないとね。それと、・・・あなたたち、結婚するんでしょ? 二人きりの方が良いんじゃない? 私が一緒で良いの?」
アンナは、頬を赤らめながら正直に話しをする。
「はい! 私、ルドルフの赤ちゃんをたくさん産むつもりなので、お母さんにも子守を手伝って欲しいんです!」
ティナは笑顔で答える。
「良いわ。私で良ければ。・・・私、孫に囲まれて暮らせるなんて、幸せね」
「ありがとう」
ルドルフは、母ティナが自分達との同居を承諾してくれたことを素直に喜んでいた。
ティナはルドルフに。
「そうだ。お父さんからコレを預かってきたわよ」
そう告げると、ティナはルドルフに布に包まれた剣を手渡す。
「剣?」
ルドルフがくるんでいた布を外すと、剣は柄に豪華な装飾が施されたサーベルであった。
アンナは、サーベルの豪華な装飾を見て驚いて口を開く。
「ルドルフ! 凄い剣じゃない!!」
ルドルフは、鞘からサーベルを抜くと、その刀身を眺めながら指で確かめる。
ミスリルで作られたであろう長い片刃の刀身は、その重さを感じる事も無く、薄く青白く輝く刀身は、強力な魔力が込められている事の証左であった。
(・・・重さを感じない。それに、この刀身。この輝き。・・・相当、強力な魔力だ)
刀身を確かめたルドルフは、柄の豪華装飾に目を向ける。
柄の豪華な装飾は、刻まれた紋章を縁取るように施されていた。
(この紋章は・・・)
柄に刻まれた紋章。
それは『バレンシュテット帝室の紋章』であった。
バレンシュテット帝国において、帝室の紋章が刻まれた物品を所有することができるのは、帝室の一族のみに許されている特権であった。
ラインハルトが帝室の紋章が刻まれた剣をルドルフに贈ったということは、皇帝が庶子であるルドルフを帝室の一族として認めたことであった。
(父さん・・・)
ラインハルトへの想いで胸一杯になったルドルフは、サーベルを再び鞘にしまうと、目を閉じて剣を握りしめる。
ティナは、ルドルフの様子を見て口を開く。
「さぁ、冷めないうちに、お料理を頂きましょう」
三人は、士官学校卒業後の官舎での三人の暮らしを思い描き語らいながら、楽しいひと時を過ごした。
--夕刻。
帝都で買い出しを終えたアレク達は、士官学校の寮へ戻る。
女の子達四人は、買い込んだ食材を持って台所へ向かい、アレク達は食堂で年越しパーティー用の席を準備したり酒類を並べたりと準備を進める。
台所から外にゴミを出しに行ったルイーゼは、羊皮紙の巻物を手にアレクの元にやって来る。
「アレク。これ、大佐からのフクロウ便」
「大佐から!?」
突然、届いたフクロウ便にアレクは驚きながらも、巻物の封印を切って広げ、目を通す。
羊皮紙の巻物を広げて読むアレクの元に小隊の仲間たちが集まる。
アルは呟く。
「父さんから??」
ナタリーも口を開く。
「何かしら?」
ナディアは愚痴をこぼす。
「もう、冬休みなのに・・・」
エルザもナディアに続く。
「何か、悪い予感・・・」
トゥルムも口を開く。
「隊長、大佐は何と??」
ドミトリーも口を開く。
「何か、急ぎの用事か??」
読んだアレクは答える。
「・・・西方協商が軍需物資の大規模調達を実施。年明け頃にスベリエ領アルビオン諸島に大攻勢を仕掛ける見通し・・・って」
トゥルムは、考える仕草をしながら呟く。
「ふむ。カスパニア属州ホラントがホラント王国として独立し、北部同盟が反撃に転じると思っていたが、西方協商側が先に攻勢に動くとは」
ドミトリーは答える。
「うむ。『北部同盟側の反撃準備が整う前に攻勢に出て叩く』ということだろう。西方協商は、『後の先』ではなく、『先の先』を取るつもりのようだ」
ルイーゼは続きを読み上げる。
「・・・上記の世界情勢を鑑み、皇帝陛下は教導大隊をグレース王国の義勇軍として現地アルビオン諸島へ派遣することを決定された。教導大隊の各小隊は、年明けに出撃できるように準備すること。・・・だって」
ナディアは叫ぶ。
「えええええぇ~!!」
エルザも文句を叫ぶ。
「そんなぁ~! 冬休み、切り上げじゃない!」
ドミトリーは頷く。
「うむ。年明けすぐに出撃となると、そういう事になるな」
エルザは涙目になってアレクの服の襟を掴むと、ぶんぶんとアレクの頭を揺らしながら文句を言う。
「ア~レ~クゥ~。断ってよぉ~。アルビオン諸島って、北のほうじゃない!? エルザちゃん、寒いところに行くの、嫌だよぉおおおお!」
トゥルムはエルザをたしなめる。
「エルザ。わがままを言うものではない。皇帝陛下からの勅命では、致し方あるまい」
涙目でエルザは、アレクの頭を揺らしながらゴネ続ける。
「イィ~ヤァ~だぁ~!!」
アルも羊皮紙に目を通し、考える素振りをしながら口を開く。
「『動員兵力は、両陣営二十万人以上とみられる』って、すげぇな。この戦い、世界大戦の決戦だよな」
ナタリーは答える。
「そうね。総兵力三十万の両陣営が、それぞれ二十万人以上を動員するってことは、西方協商も北部同盟も総兵力の三分の二以上を、この戦いに投入するってことだし」
「む~~」
わがままが聞き入れてもらえないエルザは、頬を膨らませて椅子に座る。
ナディアは、エルザをなだめながら口を開く。
「・・・決戦ね」
ルイーゼはアレクに告げる。
「大軍同士がぶつかる血で血を洗う戦いになりそう」
アレクは答える。
「決戦なら、そうなるだろう」
寮に戻ったアレク達の元に届いたジカイラからの知らせは、年明けに世界大戦の決戦が行われ、教導大隊も義勇兵として出撃するということであった。