第四百四十七話 北部同盟会議(四)
半時ほどの後、北部同盟の列強関係者が集まり、晩餐会はそのままにして関係者だけ会議室に移り、西方協商による大攻勢について緊急会議を開く。
薄暗い会議室は、厚い石壁の上部に小さな窓があり、わずかに雪明りが差し込む。
ランタンの明かりが灯され、集まった主要な人物たちは、円卓の席に座っていく。
北部同盟の盟主スベリエ王国から、フェルディナント国王、オクセンシェルナ伯爵。
グレース王国からシャーロット女王。
ソユット帝国からは、皇帝シゲノブ一世、将軍二号。
中立であるバレンシュテット帝国から皇帝ラインハルト、皇太子ジークフリート。
ジークとシャーロットは、予め西方協商の大攻勢について事前にラインハルトから教えて貰っていたため、それを知っても驚かなかったが、スベリエ王国のオクセンシェルナ伯爵とソユット帝国の将軍二号は、驚愕する。
オクセンシェルナ伯爵は、西方協商のアルビオン諸島攻略の大攻勢概要が記された羊皮紙を見ながら顔色を真っ青に変えて口を開く。
「フェルディナント陛下。北部同盟は、春の雪解け頃に反攻を計画しておりましたが、これでは北部同盟が反攻に出る前、西方協商が年明けにアルビオン諸島に・・・」
フェルディナントは苛立った様に答える。
「判っておる!」
シゲノブ一世は口を開く。
「すまないが、今から我がソユットの陸海軍をアルビオン諸島に送っても、西方協商の大攻勢が見込まれている年明けには全く間に合わん。アルビオン諸島には、帝国飛行艦隊を向かわせる」
将軍二号が補足する。
「恐らくヴェネト共和国も我がソユットと同じ状況でしょう。彼らも南大洋の国家です。仮にヴェネトが陸海軍をアルビオン諸島に送ったとしても、年明けには間に合わないかと」
ソユットの二人の意見にフェルディナントは頷く。
「なるほど」
会議室に入るまでジークに甘えていたシャーロットだが、会議室に入ると、凛としたグレース王国の女王の顔付きになっていた。そのシャーロットは口を開く。
「我がグレース王国は、全軍をもって西方協商の大攻勢を迎撃する。カスパニアやナヴァールの好きにはさせん。氷竜海は、我らが海ぞ!」
力強く言い切ったシャーロットにフェルディナントは感心する。
「頼もしいな」
オクセンシェルナ伯爵は口を開く。
「力添えに感謝します。無論、我がスベリエ王国も、全軍で西方協商の大攻勢を迎撃致します。アルビオン諸島の島嶼防衛の詳細については、各国の司令官と別途打ち合わせ致したく」
フェルディナントは頷く。
「うむ」
ラインハルトは口を開く。
「我がバレンシュテット帝国は、中立だ。しかし、大陸北部域でカスパニアが覇権を確立するのを座視するつもりは無い。アルビオン諸島の防衛支援に軍事顧問団を送ろうと思う」
フェルディナントは訝しむ。
「軍事顧問団だと?」
ラインハルトは答える。
「そうだ。帝国が職業軍人からなる正規軍を『派兵する』となると、西方協商が帝国に宣戦布告してくる。だから、軍属からなる軍事顧問団を派遣してアルビオン諸島の防衛支援に当たらせる」
フェルディナントは、考えるように目を細める。
「『軍人』ではなく、『軍属』を送るというのか・・・。考えたな」
ラインハルトは悪びれた素振りも見せず答える。
「『軍属』の士官学校の学生達だ。正規軍の『派兵』ではない。それと、観戦武官として皇太子のジークフリートをグレース王国に派遣する」
シゲノブ一世はラインハルトの言葉を訝しむ。
「・・・随分と北部同盟に肩入れしてくれるのだな?」
ラインハルトは、悪びれた素振りも見せず答える。
「スベリエには、ひとつ『借り』があるからな。それに、我が帝国の周辺での奴隷貿易、麻薬貿易を許すつもりは無い」
フェルディナントは、納得したように椅子の背もたれに寄り掛かる。
「それがバレンシュテットの本音か」
この夜の会議で、西方協商による大攻勢に対する北部同盟側の対策の概要が決まり、翌日の会議に追加の議案として提案される。
翌日の北部同盟会議では、ホラント王国の独立と支援が承認され、グレース王国のシャーロット女王とバレンシュテット帝国の皇太子ジークフリートの結婚についても、現状維持ということで了承された。




