第四十一話 業火と鋼鉄の鉄槌(二)
地上の陸戦隊から打ち上げられた緑の信号弾を合図に、ソフィアが率いる航空部隊は原生林に向けて一斉に爆撃を開始する。
爆撃による轟音が原生林に響き、爆炎が原生林に燃え広がる。
ソフィアも自分が乗る飛竜を低空へ降下させ、火炎息で原生林を焼き討ちにする。
原生林から一斉に野鳥が舞い上がり四方へ逃げていく。
航空部隊により繰り返し行われる爆撃と飛竜の火炎息によって、次第に原生林に火災が広がっていく。
炎に追われた鼠人達が火災の広がる原生林から開拓村の方へ逃げ出し始める。
伝令がジークに報告する。
「殿下。敵が原生林から出てきました」
ジークが指示を出す。
「よし! 砲撃開始だ!」
「はっ!」
地上の陸戦隊から黄色の信号弾が打ち上げられると、飛行戦艦と蒸気戦車は原生林から出てきた鼠人の軍勢に向けて一斉に砲撃を開始する。
たちまち飛行戦艦艦隊と蒸気戦車の隊列に面した原生林と原野の境界部に爆発音が轟き無数の爆煙が巻き起こる。
帝国軍の強力な一斉射撃により、原生林から出てきた鼠人の軍勢は次々と吹き飛ばされていく。
鼠合成獣も鼠食人鬼も例外ではなかった。
飛行戦艦と蒸気戦車の一斉射撃をくぐり抜けた十体ほどの鼠合成獣と鼠食人鬼、鼠人達が陸戦隊に向けて突撃してくる。
ジークが指示を出す。
「来たぞ! 帝国騎士、前へ! 抜刀!」
ジークは、アストリッドを伴って陸戦隊の前に出るとサーベルを抜く。
「アストリッド、行くぞ」
「はい。ジーク様」
先頭を走る鼠食人鬼が、右手に持つ棍棒を振り上げてジークに殴り掛かる。
ジークは、サーベルを八相に構えると鼠食人鬼に駆け寄り、一気に間合いを詰める。
アストリッドもジークと呼吸を合わせて駆け寄り、一気に間合いを詰める。
ジークは、鼠食人鬼が振り上げた右腕の下を走り抜けざまに、その肘から先の腕をサーベルで斬り飛ばす。
そして、素早く身を翻すと、鼠食人鬼の右膝の後ろ側をサーベルで斬り付ける。
アストリッドは、鼠食人鬼の脇を走り抜けると、ジークとタイミングを合わせて、鼠食人鬼の左膝の後ろ側を長剣で斬り付ける。
同時に両膝の裏側の腱を切られた鼠食人鬼は、悲鳴を上げ、轟音と共に仰向けに倒れた。
二人の戦いぶりを見ていた陸戦隊の者達が気勢を上げる。
「おおっ!」
「殿下に続けぇ!」
飛行戦艦と蒸気戦車の砲火をくぐり抜けた鼠合成獣と鼠食人鬼、鼠人達は、蒸気戦車にたどり着く前に陸戦隊によって次々に切り伏せられていった。
昼過ぎから始まった戦闘は、帝国軍の空陸一体となった集中砲火により、夕刻までに鼠人達の軍勢の壊滅により終息を迎えた。
夕焼けの空に向けて、陸戦隊の者達が勝どきを挙げる。
陸戦隊の将兵達の輪の中、寄せられる喝采と歓呼にジークは右手をかざして応えていた。
アストリッドは、将兵達の喝采と歓呼に応えるジークを傍らでうっとりと見上げる。
愛娘とその想い人の様子を少し離れた蒸気戦車のハッチからヒマジンが眺めていた。
日没前にジークは、開拓村に連絡要員を残して航空部隊と陸戦隊を飛行空母に収容すると、辺境派遣軍を州都キャスパーシティに向け進めた。
--少し時間を戻した 揚陸艇で州都キャスパーシティに向かう教育大隊
揚陸艇の廊下をルドルフが歩いていると、同じグリフォン小隊の、黒髪をツインテールにした魔導師の女の子アンナがルドルフに近寄り、赤いリボンのついた包みをルドルフに差し出す。
「小隊長、・・・これ、召し上がって下さい」
女の子は、照れて赤くなりながらルドルフにそう告げて包みを手渡すと、走り去っていった。
『尖った不良少年』のルドルフは、ジークのような『絶世の美形』でも、アレクのような『女の子のような綺麗な顔立ち』でも無かったが、イケメンであり、ルドルフに想いを寄せる女の子達は少なからず居た。
ルドルフがリボンを解いて包みを開けると、中にはクッキーが入っていた。
ルドルフは、包みの中のクッキーを食べる。
クッキーは直ぐに食べ終えてしまったが、女の子が気持ちを込めたものを、無下に捨てる事もできず、ルドルフは残ったリボンと包み紙をポケットに仕舞う。
そのルドルフの前に廊下を歩いて来る者がいた。
キャスパー・ヨーイチ三世男爵であった。
ルドルフはキャスパーが来ると判ると、両手をポケットに入れてキャスパーを見下ろすように、廊下の真ん中に立ち塞がる。
キャスパーの目にルドルフの姿が映ると、たちまちキャスパーはルドルフに詰め寄る。
「どけぃ! 賤民の分際で! 廊下の真ん中に立って、帝国貴族たる、この私を見下ろすとは! 身の程を知れ!」
ルドルフは軽蔑の眼差しを向けて呟く。
「うるせえよ。『お漏らしキャスパー』」
キャスパーは、顔を真っ赤にして細い目を釣り上げ、金切り声を上げながらルドルフに掴み掛る。
「キィイイイイ! キィサァマァアアア!」
ルドルフは、キャスパーの顔面に右ストレートを食らわせると、続けざまにその頭を右足で蹴り飛ばす。
キャスパーは、ルドルフの蹴りを側頭部に食らって白目を剥いて気絶し、壁にもたれ掛かるようにへたり込む。
ルドルフはその場にしゃがむと、気絶して壁を背にして床にへたり込むキャスパーの顔を眺める。
(コイツ、本当に馬鹿なんだな・・・弱っちいのに)
ルドルフは、ふと閃く。
ルドルフは、気絶してへたり込むキャスパーの制服のズボンとパンツを脱がせると、顕になったキャスパーの下半身の先を、ポケットから取り出した赤いリボンで蝶結びに結んだ。
(・・・我ながら傑作だ!)
ルドルフはクスクス笑いながら、キャスパーのズボンとパンツを戦利品に持ち帰り、その場から去っていった。
小一時間後。
混濁する意識の中、キャスパーの耳に大勢の女の子の声が聞こえてくる。
「ちょっと! なに! あれ!?」
「やだぁ~!」
「あんなのを見せびらかすなんて!」
「アレ、小指くらいじゃない?」
「見て! 見て! カワイイ!」
「リボンなんか結んで、何かのおまじない?」
「この人、お漏らしした人でしょ?」
「『お漏らししない』おまじないじゃない?」
「ちょっと! 貴女、アレ、突っついて見なさいよ!」
「嫌ぁ~!」
キャスパーが目を開けると、キャスパーの周りには人だかりが出来ていた。
そのほとんどは教導大隊の女の子達で、下半身丸出しで先に蝶結びに赤いリボンを結んだキャスパーを見てクスクス笑っていた。
「なっ!?」
キャスパーは驚いて立ち上がると、必死に周囲を見回して自分のパンツを探す。
「無い! 私のパンツが無い! お前達、私のパンツを知らないか!?」
下半身丸出しで必死に自分のパンツを探すキャスパーを見て、更に女の子達が笑い出す。
「くそっ! お前ら! 笑うなぁ!」
キャスパーは、自分の股間を両手で隠しながら、その場から走り去っていった。