第四百二十七話 帝国の皇太子vs王国第一王女
シャーロットからの一騎打ちの申し入れをジークは鼻で笑う。
「フッ・・・。良いだろう。空から帝国海軍の演習を眺めているだけで、退屈していたところだ」
アストリッドは、ジークの言葉を聞いた諫める。
「いけません! ジーク様! 帝国を担う御身が軽々しく一騎打ちなど!!」
ジークは優しくアストリッドに答える。
「アストリッド。私が負けると思うか?」
「いえ。そのようなことは・・・」
「其方は身重だ。部屋に戻って休むと良い。・・・ヒマジン伯爵。アストリッドを連れて下がれ」
「判りました。 ・・・行くぞ。アストリッド」
「ジーク様!!」
ヒマジンは、ジークの身を案じるアストリッドを連れて謁見の間を後にする。
ジークは、ジークの身を案じて心配そうなアストリッドとヒマジンを見送ると、衛兵に指示を出す。
「衛兵。彼女の手枷を外せ。それと剣を」
「ハッ!」
衛兵は、ジークから鍵を受け取るとシャーロットの手枷を外して剣を手渡す。
「私は・・・それでよい」
ジークが指示したものは、木製の小太刀であった。
シャーロットは両手で剣を構え、ジークは小太刀を右手に持って、謁見の間の中央で互いに構える。
シャーロットはジークに告げる。
「私が勝ったら、私と部下を釈放しろ! いいな!?」
ジークは答える。
「良いだろう。・・・私が勝ったら、どうする?」
シャーロットは答える。
「私を犯すなり、殺すなり、好きにしろ!」
ジークは苦笑いする。
「負けても泣くなよ」
シャーロットは、剣を構えて対峙しながらジークを観察しながら考える。
流れるような金髪とエメラルドの澄んだ優しい瞳をした、神々が造り上げたような整った顔立ちの美男子。
皇太子の礼装の胸元や袖口から垣間見える、騎士として鍛錬を重ねたであろう絞られた筋肉。
シャーロットとは頭一つほど違う、見上げる長身。
先だって試合したスベリエ王国の王太子アルムフェルトとは、全く纏っている雰囲気が違う。
いくどもの実戦を戦い抜いたであろう隙の無い自然体の構え。
ジークが耳にした噂どおりの英雄だということは直ぐに判った。
シャーロットは、自然とジークが構えている木製の小太刀に目が向かう。
(木製の小太刀だと!? 馬鹿にして!!)
「ハアァァッ!!」
気合いの叫びと共にシャーロットは、ジークに斬り掛かる。
右上からの袈裟斬り、左から右へ水平に払い、右から左上へと斬撃を放つ。
ジークは最初の一撃を軽くステップを踏んで躱し、次の払いを木立で受け流し、再び斬撃を躱す。
剣戟を続けながらジークの側もシャーロットを観察していた。
上級騎士であるジークには見切りスキルがあり、シャーロットの攻撃はコマ送りのようにゆっくりとしたものに見える。
(・・・なかなかに鋭い)
(多少は、実戦経験を積んでいると見える)
二人は小一時間ほど剣戟を繰り広げるが、近接戦最強の上級職である上級騎士のジークと中堅職である騎士のシャーロットでは格が違っていた。
シャーロットはいくども斬撃を繰り出したが、ジークはステップを踏んで避けたり小太刀で受け流したりして、シャーロットの剣はジークにかすりさえしなかった。
息が上がってきたシャーロットは、意を決して勝負に出る。
ジークの胸元を狙い突きを放つ。
ジークは、半身になってステップを踏みシャーロットの剣の軌道から体軸を避けると、小太刀でシャーロットの剣を受け流して利き腕の外側に回り込み、反射的に斬り返しを放つ。
突きを放ち、延ばしきったシャーロットの両腕の上を這うようにジークの斬り返しの小太刀が迫る。
(なっ!?)
反射的にジークが放ってきた斬り返しに、シャーロットは驚愕して目を見開く。
上級騎士の剣技、受け流しと斬り返しの組み合わせ技であった。
ジークは、シャーロットを観察しながら剣戟を続けていた。
格下の相手との剣戟であり、右手に持つ小太刀と体術でシャーロットを軽くあしらっていた。
しかし、シャーロットが繰り出してきた想定外の鋭い突きに、思わず反射的に受け流しから斬り返しとを連続でやってしまう。
このまま撃ち込めば、小太刀はシャーロットの首、もしくは顔に直撃する。
「・・・チッ!」
短く舌打ちしたジークは、慌てて小太刀を引き戻すと、小太刀を握る右手でシャーロットの鳩尾を突く。
「カハッ!?」
鳩尾に一撃を受けたシャーロットは息を吐き出し、そのまま失神する。
ジークは、失神してその場に崩れ落ちるシャーロットの身体を抱き抱えるとその顔を覗き込む。
(まったく。とんでもないヤンチャ王女だ)
(・・・しかし、格下相手の剣戟に斬り返しを使ってしまうとは)
(・・・我ながら大人気無い)