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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十六章 氷竜海の海賊姫

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第四百二十六話 謁見

-- バレンシュテット帝国軍総旗艦 ニーベルンゲン 艦橋 


 艦橋にはジークとヒマジン伯爵がいた。


 ジークはヒマジンに尋ねる。


「あれこれと理由を考えてみたが、解せんな。なぜグレース王国が帝国を攻撃する? 帝国は、北部同盟に対して敵対行動は取っていないはず。今度のホラント独立工作といい、帝国は北部同盟とは友好的であったと認識しているが・・・」


「私にも今回のグレース艦隊による攻撃は理解できません。・・・謎です」


 ヒマジンは、手のひらを上にして両手を広げ、上げて見せる。


 ジークは、考える素振りを見せながら士官に話す。


「グレースの艦隊指揮官と話してみるか。・・・投降したグレース王国艦隊の指揮官を謁見の間に」


「了解しました」





--半時後。


-- バレンシュテット帝国軍総旗艦 ニーベルンゲン 謁見の間


 皇宮の謁見の間を丸ごと持って来たかのような一室でジークは雛壇の上の玉座に座り、その両脇にヒマジン伯爵とアストリッドが立ち並ぶ。


 二人の衛兵によって木製の手枷が付けられたシャーロットが連れてこられ、ジーク達の前に引き出される。


 引き出されたシャーロットは、毅然とした面持ちでジーク達の前で堂々と仁王立ちしていた。


 ジークは、引き出されたシャーロットを見て目を細める。


 ジークの目に映るシャーロットは、美しい流れるような銀髪と銀色の瞳、年齢の割には大人びている、グレース人特有の透き通るような白い肌をした軍服を着た美女であった。


(・・・女?)


 ジークは尋ねる。


「私は、バレンシュテット帝国皇太子 ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット。帝国ホラント沖派遣軍の総司令官だ。投降したグレース艦隊の指揮官か? 官姓名を名乗れ」




(・・・帝国の・・・皇太子!)


 シャーロットは、ジークの評判と噂は耳にしていた。


 父である皇帝ラインハルトと瓜二つの容姿の長身の美形。


 武勇に優れ、帝国最年少で上級騎士(パラディン)になり、士官学校を飛び級で卒業した秀才であり、トラキア戦役で帝国を勝利させた若き英雄。容姿も、能力も、家柄も、財力も申し分ない。


 ジークは、まさにシャーロット自身が思い描く理想の男性であった。


 シャーロット自身も『私の夫になるなら、帝国の皇太子でないとな!』などと周囲にうそぶいていた。


 そのジーク本人がシャーロットの目の前にいる。


 シャーロットは、ジークと目が合った瞬間、きゅうっと胸が締め付けられる感覚を覚え、動揺する。




 シャーロットは、動揺を隠しながらジークに答える。


「グレース王国王立海軍 独立艦隊提督シャーロット・ヨーク・グレース」


 ジークは、シャーロットの名乗りを聞いて驚く。


「グレース姓!? グレースの王族か?」


 ジークからの問いに、シャーロットは答える。


「グレース王国第一王女だ」


「『氷竜海の白百合』の名は私も聞いた事がある。・・・グレース王家の姫君が、なぜ、海軍に?」


「亡き父に代わって祖国を守るためだ」


「帝国は、北部同盟やグリース王国とは敵対していない。なぜ、帝国海軍(ライヒス・マリーネ)を攻撃した?」


「女王陛下の勅命に従ったまで」


「女王の勅命だと?」


 ジークがシャーロットの言葉を訝しんでいると、シャーロットは衛兵に声を掛ける。


「コートのポケットに羊皮紙の命令書がある。それを・・・」


 衛兵は、シャーロットが着ているコートのポケットを探って勅命が書かれた羊皮紙を取り出すと、ジークの元へ行って手渡す。 

 

 ジークは勅命が書かれた羊皮紙に目を通すと、グレース王家の紋章の蝋印が押してあった。


「・・・確かに。グレース王国アメリア女王直筆の勅命だ」


 ジークは羊皮紙に書かれた勅命を傍らのヒマジンにも見せ、互いに顔を見合わせて囁いていると、シャーロットは口を開く。


「私と部下を釈放して貰いたい。身代金は支払う」


 ジークは、シャーロットからの申し出を一呼吸の間、考える。


「・・・それは出来ん」


「なぜだ!?」


「帝国を攻撃してきたグレース王国の真意が不明である以上、現時点で交戦可能な戦力を前線復帰させる訳にはいかない。それに・・・」


「それに?」


「身代金の担保も無いしな」


 ジークの考えを聞いたシャーロットは、方針を変える。


(交渉では無理か。ならば・・)


「私は、グレースの王族だ。二言は無いし、約束を違えるつもりも無い。それと、帝国はグレースの王族にこのような扱いをするのか?」


 シャーロットは皮肉っぽくそう告げると、両手を胸の高さまで上げ、掛けられた手枷をジークに示す。


 ジークは、シャーロットの姿を見て苦笑いする。


「宣戦布告も無く攻撃した相手に言える事か? ・・・まぁ、良い」


 ジークは、シャーロットに付けられている手枷を外してやろうと思い、連れて来た衛兵から鍵を受け取ると、玉座から立ち上がり、ヒマジンとアストリッドが立つ間を通り抜けてシャーロットの方へ歩いて行く。




 ジークは、ヒマジンとアストリッドの間を通り抜けてシャーロットに近づく。


(今だ!)


 シャーロットは駆け出してジークとの間合いを一気に詰めると、ジークを狙って後ろ回し蹴りを放つ。


「ハアァァッ!」


 ジークは、僅かに首を傾げた体勢で右手の甲と手首でシャーロットの後ろ回し蹴りを受け止める。


 謁見の間に、ジークがシャーロットの後ろ回し蹴りを受け止めた、乾いた音が鳴り響く。


 ジークは、少し驚いたように呟く。

 

「まさか、この状況で私を狙ってくるとはな」


 シャーロットは、短く舌打ちする。


(チッ! しくじったか!)


 シャーロットはジークを人質に取り、自分達の釈放と交換取引するつもりであった。


 シャーロットは、大きく後ろに飛び退くとジークと間合いを取って身構える。


「殿下!?」


「ジーク様!」


 直ぐにヒマジンとアストリッドが抜剣し、ジークを背に庇うようにシャーロットに向かって長剣を構える。


 ヒマジンとアストリッドに続き、謁見の間に居る衛兵達も剣を抜いて構える。


 ジークは、シャーロットに穏やかに告げる。


「ここは空の上だぞ? 逃げきれると思ったか?」


 シャーロットは、アストリッドの後ろにいるジークに向かって叫ぶ。


「女の影に隠れおって! 卑怯者が!」


「なにぃ?」 


 普段は無表情なジークであったが、露骨な侮辱に怒りの色が顔に浮かぶ。


 シャーロットは続ける。


「貴様も騎士なら、正々堂々と私と一騎打ちで勝負しろ!」


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