第四百二十話 第506特務輸送隊、帰還
-- 一週間後。
アレク達教導大隊が野営している集落の上空に、帝国本土から来たであろう帝国東部方面軍の飛行戦艦と飛行空母、新型の大型輸送飛空艇が現れる。
ジカイラは、上空の飛行艦隊群を見上げる。
「ヒマジン伯爵の東部方面軍。・・・ホラントの属州総督府は叩き潰したってのに、また派手な連中が現れたな」
飛行艦隊群の中から新型の大型輸送飛空艇が集落の郊外へ降下してくる。
集落の郊外に着陸した大型輸送飛空艇がタラップを降ろすと、中から軍服を着崩して着て、口に葉巻を咥えた指揮官らしい大柄な男と整備士らしい男が降りてくる。
規律に厳しい帝国軍において、制服を着崩して着て、葉巻を咥えたまま飛行船に乗るなど論外であり、アレク達は降りてくる二人を怪訝な表情で見詰める。
ルイーゼは。アレクにそっと耳打ちする。
「アレク。指揮官の胸元を見て」
アレクが指揮官の胸元を見ると、制服に誇らしげに取り付けられている帝国騎士十字章と革命戦役従軍徽章、帝国銀翼突撃章が輝いていた。
「あの人! 父上や大佐の戦友なのか!?」
再びルイーゼは、驚いているアレクに話し掛ける。
「アレク。輸送飛空艇と一緒に来た飛行戦艦と飛行空母の艦隊は高度を下げて降下してない。・・・ここには着陸しないようね。そのまま飛んで行くわ」
アレクは、教導大隊がいる集落の上空を飛び去って行く飛行艦隊を見上げる。
「・・・帝国東部方面軍だ。帝国の虎の子の飛行艦隊が、どこへ行くつもりなんだろう?」
ルイーゼは答える。
「南西の方角。・・・あっちにはニーベルンゲンが」
「兄上の元に向かっているのか」
葉巻を咥えた男が出迎えに集まった教導大隊の面々を見ると、ジカイラに親しげに話し掛けてくる。
「いよぉ! 久しぶりだな!」
葉巻の男と整備士の男は、改めてジカイラ達に敬礼する。
「帝国中央軍 補給輸送群 所属、第506特務輸送隊 カマッチ少佐、特命により到着しました!」
「同じく第506特務輸送隊 セイゴ軍曹です!」
ジカイラとヒナは、現れた二人に驚く。
「おっさん!?」
「貴方は!?」
カマッチとセイゴの二人は、革命戦役の時にメオス王国の奥地にいたジカイラ達を、帝国北部方面軍が駐屯するアキックス伯爵領の州都キズナまで飛行船で運んだ軍人達であった。
(※詳細は、拙著『アスカニア大陸戦記 亡国の皇太子』を参照)
カマッチは、満面の笑みでジカイラに手を差し伸べる。
「あのワルそうな兄ちゃんが、今や『黒い剣士』と呼ばれる英雄で、帝国軍大佐とは驚いたぜ! 元気そうだな! 大佐殿!!」
ジカイラはカマッチの手を取って握手する。
「おっさんこそ、帝国軍少佐に出世してるとは思わなかったぜ!!」
カマッチは、ジカイラの傍らにいるヒナにも話し掛ける。
「お嬢ちゃんも、すっかり別嬪さんになったな!」
カマッチの言葉にヒナは照れていた。
カマッチは続ける。
「さて・・・。大佐、ホラントでのお勤めご苦労様でした。皆さんを本国へお送りするため、お迎えに上がりました」
ジカイラは答える。
「了解だ。少佐。・・・教導大隊は、被害甚大だ。式典はジーク達に任せよう」
教導大隊は、第506特務輸送隊の大型輸送飛空艇に乗り込んで行く。
ジカイラが教導大隊が宿営した集落に食糧と物資を援助するように帝国軍に伝えていたため、カマッチ達の第506特務輸送隊は、輸送してきた集落への食糧と物資を降ろして住民達に提供していた。
アレク達が乗り込んだ大型輸送飛空艇は新型という事もあり、格納庫はかなり広いものであった。
教導大隊は、小部屋のように簡易的な間仕切りが設けられた格納庫で小隊毎に別れて休息を取る。
アルは、小部屋の中で壁を背に座り、膝の上にナタリーを抱くと自分自身も毛布にくるまって休む。
ナタリーはアルの膝の上に座り、その腕に抱かれ毛布に包まれると、穏やかに寝息を立て始める。
トゥルムはアルの向かい側の壁際に腰を降ろすと、破損した自分の鱗鎧に触れながら呟く。
「本国に戻ったら、私も上級職に転職しないとな」
トゥルムの隣にドミトリーが腰を降ろし、自分の右足に回復魔法を掛けるとトゥルムに答える。
「うむ。拙僧もだ。あの道化師もそうだったが、今のままではダークエルフには勝てんだろう」
アルも二人に追従する。
「オレも暗黒騎士にならないとな」
ロロネーとの一戦で、ユニコーン小隊の面々は上級職へ転職する事を強く決意する。
アレクとルイーゼは、小部屋の外で第506特務輸送隊による食糧や物資の荷下ろしと集落への配給を眺めていた。
アレクは呟く。
「悔しいな。もっと鮮やかに勝ちたかったんだけど」
アレクは士官学校卒業後、父ラインハルトから懲罰を解いて貰い、ルイーゼと一緒になることを認めてもらうため、武功を上げようと焦っていた。
ルイーゼは笑顔で答える。
「アレクは、充分頑張ったわ。悔やむ事なんて、無いじゃない。カスパニア軍と総督府は壊滅してホラントは独立。・・・最後の道化師に苦戦しただけよ」
「そうかな?」
「そうよ。あれを見て」
ルイーゼが目線を向ける先には、配給の食糧を受け取る集落の人々の姿が見える。
「あの人達だけじゃなく、ホラントのたくさんの人々をカスパニアから救えた。もっと胸を張るべきよ」
アレクは、ルイーゼの励ましを受けて微笑む。
「ありがとう」
日没後、集落への食糧の配給と物資の提供を終えた第506特務輸送隊は集落から離陸する。
大型輸送飛空艇はアレク達教導大隊を乗せ、バレンシュテット帝国本土へ航路を向けて星の瞬く夜空を進んで行く。
若者達が胸に抱く様々な想いと共に。




