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アスカニア大陸戦記 皇子二人【R-15】  作者: StarFox
第三章 辺境派遣軍
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第四十話 業火と鋼鉄の鉄槌(一)

 飛行空母で北西部の開拓村の防衛の指揮を取るジークの元に伝令が来る。


 ジーク達は、中央部東側 開拓村に敵軍が押し寄せ、ジカイラ中佐率いる教導大隊は、住民を連れて撤退した旨、報告を受ける。


 傍らのヒマジンが口を開く。


「殿下。よろしいので?」


 ジークが答える。


「私は、後をジカイラ中佐に頼んだ。『開拓村の放棄と撤退』は、その中佐が判断したことだ。住民に犠牲はなく、教導大隊の被害も軽微だ。見事というほかないだろう。中佐を責めるつもりはない」


「なるほど」


 ジークが続ける。


鼠人(スケーブン)の大軍を相手に寡兵で戦うのだ。『拠点死守』など前世紀の戦術。こちらは機動力を生かし、臨機応変に行く必要があるだろう」

 

 ジークが傍らの将校に尋ねる。


「それで。こちら側の敵軍の動きは?」


 将校が答える。


「敵軍は未明に原生林の中に陣取ったままです。動きはありません」


 ジークがヒマジンに指示を出す。


「ヒマジン伯爵。飛行戦艦は、原生林の敵軍に向けて単縦陣をとれ。陸戦隊と蒸気戦車(スチームタンク)も地上で横一列横隊の布陣を」


「了解しました」


 ジークが傍らのソフィアに告げる。


「ソフィア、お前も出ろ。航空部隊の指揮を取れ。飛空艇を爆装させて、敵軍を背後から爆撃するのだ。飛龍(ワイバーン)の火炎と飛空艇の爆撃で、原生林から鼠どもを炙り出せ! 森ごと焼き払っても構わん!」


 ソフィアは、ジークに深々と一礼する。


「御意」


 ジークが周囲に告げる。


「敵軍を原生林から爆撃と火炎で炙り出し、飛行戦艦と蒸気戦車(スチームタンク)の火砲で敵軍を殲滅する。鼠人(スケーブン)どもに『業火(フォイアー)(・ウント・)鋼鉄の鉄槌(シュタイルハンマー)』を下すのだ!!」


 ジークの言葉に周囲はどよめく。


「おぉ!」


業火(フォイアー)(・ウント・)鋼鉄の鉄槌(シュタイルハンマー)!」


 ジークが続ける。


「私とアストリッドも地上へ降りる」


 ジークからの指示に従って周囲が作戦行動の準備に移るべく動き始める中、ジークはヒマジンを呼び止める。


「・・・ヒマジン伯爵」


 ジークから声を掛けられたヒマジンがジークの方を振り向く。


「はっ」


「・・・これへ」


 ジークは、ヒマジンに近くに来るように手招きして促す。


「はい」


 ヒマジンはジークの言葉に従って、ジークの傍に来る。


 ジークは、傍らのヒマジンに地図を指し示しながら話し掛ける。


「・・・伯爵。貴殿はこの戦をどう見る?」


「と、言いますと?」


 ジークは、真剣な表情でヒマジンに語り掛ける。


「・・・おかしいと思わないか? 鼠人スケーブン達は、なぜ生息地の西側、我がバレンシュテット帝国側に攻め込んでくる? 世界最強の軍事大国である我が帝国の辺境に攻め込んだところで、何万人もの多大な犠牲を払って奴らが得られたのは、何も無い原野といくつかの開拓村だ。地下資源や食糧がある訳ではない。奴らも割に合わないだろう。・・・生息地の東側、前時代の軍備しか持たないトラキア連邦側へ攻め込んだほうが、生息地の拡大も食糧の確保も楽だろう」


 ジークの言葉にヒマジンは納得して頷く。


「・・・確かに」


 ジークが続ける。


鼠人スケーブン達の装備は、鉈に木槍、それに投石器(カタパルト)。大砲さえ持っていない。中世以前の古代人の文明水準程度だ。鼠合成獣(ラットキメラ)鼠食人鬼(ラットオーガ)を錬成できるような魔法技術があるとは思えん。しかし、現に存在している。・・・我が帝国でも『生命創造』や『不老不死』といった(たぐい)倫理(りんり)に反する魔法技術は、『禁忌(きんき)』とされ、帝国魔法科学省に封印されて密かに研究されているだけだ。知っている者も限られている」


 ヒマジンが驚く。


「・・・まさか! 帝国の魔法技術の機密が漏洩していると!?」


 ジークが続ける。


「いや、そうではない。・・・だが、何者かが、鼠人スケーブン達に合成獣(キメラ)を錬成する魔法技術を与え、我が帝国に攻め込むように仕向けている。・・・『裏で采配を振るう何者かが居る』と私は見ている。・・・確証がある訳ではないがな」


 ヒマジンが感心する。


「・・・なるほど。慧眼(けいがん)です」


 ジークは、ヒマジンとの話を切り上げ、傍らのアストリッドに話し掛ける。


「頭の片隅に置いておいてくれ。・・・アストリッド、私達も地上に降りるぞ」


「はい」


 ヒマジンは、前線へ向かうジークとアストリッドの背中を見送る。


(あの若さで、そこまで読んだか。流石、騎士王の跡取り息子、見事な戦略眼だ。我が娘アストリッドの夫に相応しい)







 半時ほどで飛空艇の爆装は完了し、ソフィアの乗る飛竜(ワイバーン)を先頭に飛行空母から続々と爆装した飛空艇が発艦していく。


 帝国軍の航空部隊は編隊を組むと、敵軍が潜む原生林へ向けて飛び立っていった。


 開拓村上空に滞空する飛行戦艦は、原生林に向けて単縦陣に陣形を組み替える。


 地上に布陣する陸戦隊と蒸気戦車(スチームタンク)も原生林に向けて横一列横隊を敷く。


 上空からも、地上からも、鼠人(スケーブン)達が原生林から出てきたら、一斉射撃を加えられる体勢を整えていた。


 地上に降り陸戦隊の元に居るジークとアストリッドの元に伝令がやってくる。


「殿下。航空部隊から『緑の信号弾』が打ち上げられました。準備完了です」


 ジークが伝令に指示する。


「よし! 作戦開始だ! 緑の信号弾を打ち上げろ!」


「了解!」


 程なく地上の陸戦隊から緑の信号弾が打ち上げられる。


 『業火(フォイアー)(・ウント・)鋼鉄の鉄槌(シュタイルハンマー)』作戦開始の合図であった。


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