第四百十六話 教導大隊vs邪神ロロネー(三)
「アヒャ! アヒャ! アヒャヒャヒャ!!」
ロロネーは、伸ばしていた無数の触手を腰の後ろにしまうと、対峙するアルに対して右手に持つ半斧槍で何度も斬り掛かるが、アルは全て斧槍で受け止める。
アルは、ロロネーを観察していた。
(速いが軽い。コイツは、まだ本気を出していない)
(・・・四人掛かりだったトゥルム達が、コイツにあれだけ酷くやられてる)
(道化師みたいな格好しやがって! ムカツクがコイツは強い!)
アルは、斧槍の柄でロロネーの斬撃を受け止めて押し返すと、大きく後ろへ飛び退き、右腕に持った斧槍を水平に構えて腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。
ロロネーは、アルが後ろに下がって開いた間合いを詰めるため、半斧槍を大きく振りかぶりながら、大きく飛び跳ねてアルとの間合いを詰め、アルに斬り掛かる。
「ヒャッハーー!!」
(いくぜ!一の旋!!)
アルの放った斧槍の渾身の一撃は、空中から襲い掛かるロロネーに向け、弧を描きなから振り上げていく。
アルの斧槍は、振り下ろされたロロネーの半斧槍と激しく激突する。
鈍い金属音が広場に響き渡り、アルと着地したロロネーが、得物の柄同士で押し合う力比べの様相を見せる。
ジリジリと力押しでロロネーがアルを圧倒し始める。
「アヒャヒャヒャヒャ!!」
(油断してる!? 今だ!!)
アルは、押し合うロロネーの半斧槍を左へ流すと、素早く得物を斧槍から海賊剣に持ち変え、ロロネーの胴体を水平に斬り払う。
「ウォォオオオ!!」
雄叫びと共に振るわれたアルの海賊剣がロロネーの腹部を切り裂く。
切り裂かれたロロネーの腹部から黒い血が飛び散る。
「クァアアアアア!!」
ロロネーは両目を大きく見開くと、耳まで裂けた口を開いて悲鳴をあげ、左手で腹部を抑えながら大きく後ろに飛び退く。
「おおっ!!」
「やったぁ!!」
四人は、ドミトリーに回復魔法を掛けて貰いながらアルの戦いぶりを見て歓声を上げる。
ロロネーは、見下していたアルに手痛い一撃を貰い、怒り狂う。
「ガキが! 雑魚が! 賤民どもがぁああああ! 神であるオレに舐めた真似しくさりおってぇええええ!」
ロロネーは大きく息を吸い込むと、アルとその後ろにいる四人に向けて、口から爆炎を吐き掛ける。
「うおおっ!?」
(殺られる!?)
アルは、迫りくる強烈な爆炎に身構える。
次の瞬間、アルとロロネーの間に巨大な炎の障壁が立ち上ぼり、爆炎を防ぐ。
ナタリーが放った第七位階魔法『地獄業火障壁』であった。
「・・・アル! みんな! 大丈夫!?」
「ナタリー!!」
ナタリーは、血の気の無い真っ青な顔のまま五人の元まで歩いてくるが、アルの傍らに着いた途端にガックリと両膝を着く。
「ナタリー、大丈夫!?」
アルは慌ててナタリーを抱き抱える。
「・・・大丈夫。アルこそ。・・・間にあって良かった」
ナタリーは、憔悴して青ざめた顔で、辛そうにアルに微笑み掛ける。
ロロトマシと戦い、ロロネーによる魔力の波動に当てられ、そして第七位階魔法『地獄業火障壁』と、ナタリーは大きく魔力も体力も消耗していた。
ナタリーが放った地獄業火障壁も長い時間は継続せず、炎の障壁は次第に小さくなっていき、やがて消えて無くなる。
ロロネーは、くすぶる炎の障壁の跡を歩いて越え、六人の前に現れる。
ロロネーは、ジカイラに斬られた胸の傷とアルが斬り裂いた腹部の傷が、ゆっくりと再生して塞がりつつあった。
ロロネーは、六人に向かって告げる。
「アヒャヒャヒャヒャ! どうした? 賤民ども! もう終わりか?」
エルザは負傷したトゥルムに肩を貸して支えており、ナディアは折れた脚に回復魔法を掛けているドミトリーを介護していた。
そして、アルは青ざめてぐったりしているナタリーを小脇に抱き抱えていた。
もはや、六人には、高笑いするロロネーを睨む事しかできなかった。
アルは、ナタリーを抱き抱えながらロロネーを睨んで呟く。
「クッ・・・」
ロロネーに向けて手斧が飛んでくる。
ロロネーが半斧槍で手斧を打ち落とすと、女の声が響き渡る。
「雷撃光球!!」
巨大な雷の球体がロロネーに向かって飛んでくるが、再び淡い緑色の球体がロロネーを包み、魔法攻撃を無効化する。
ロロネーは、雷の球体が飛来してきた方向へ顔を向けると、短く舌打ちする。
「チッ!!」
駆け寄って来た騎士が一気に間合いを詰めて来てロロネーと斬り結ぶ。
騎士は、ロロネーと斬り結びながらアル達の方を横目で見て口を開く。
「珍しいな。ユニコーンが苦戦しているなんて」
六人は、騎士の顔を見て驚く。
「ルドルフ!!」
黒髪のツインテールを揺らしながら、アンナがルドルフの後ろにやってくる。
「ルドルフ、気を付けて! コイツ、魔法が効かないわ!」
アンナの後ろにグリフォン小隊の面々が続いて現れる。
ブルクハルトは、ロロネーに向けて戦斧を構えながら呟く。
「チビの道化師が半斧槍を持って暴れているとか。ユニコーンが苦戦しているとか。・・・いったい、どんな状況なんだ?」
女僧侶はブルクハルトに告げる。
「お前みたいな三枚目が出る幕じゃないって事さ」
筋肉質の女戦士も続く。
「ルドルフ隊長に任せておきな」
同じ小隊の仲間の女二人にコキ降ろされ、ブルクハルトは諦めたように答える。
「へいへい」
斬り結びながら、ロロネーはルドルフに尋ねる。
「アヒャヒャヒャヒャヒャ! ・・・後ろに居る黒髪の娘は、お前の女か?」
「だとしたら?」
「その女を神である我に捧げるなら、お前は見逃してやるぞ」
ルドルフは、ロロネーの言葉を鼻で笑う。
「フッ。・・・笑わせるな。チビ」
ロロネーは怒りを顔に浮かべると、ルドルフに告げる。
「・・・いいだろう。お前を叩きのめして、目の前で、あの女をいたぶってやる!」
「やってみろ」
「ヒャッハーー!!」
ロロネーは、ルドルフに向けて半斧槍で無数の速い斬撃を放つが、ルドルフは全て剣で受け流し、斬り返していく。
ロロネーは、今までの相手とは勝手が違い、ルドルフが斬撃を受け流して斬り返してくる事に手こずる。
ロロネーは、剣戟を繰り返しながらルドルフに尋ねる。
「貴様、もしや上級騎士か?」
ルドルフも剣戟を繰り返しながら答える。
「そのとおり」
ルドルフの答えを聞き激怒したロロネーは重い一撃を放つが、ルドルフは剣で受け止め、再び斬り結ぶ。
ロロネーは、斬り結びながらルドルフに告げる。
「許さん! 許さんぞぉ~! イケメンで、上級騎士で、女もいるなど! 毎晩、毎晩、あのイイ女と~!!」
ルドルフは、斬り結びながらニヤけて答える。
「それがどうした? 毎晩抱いているが、イイ女だぞ!」
アンナは、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「ちょっと!? ルドルフ! どさくさに紛れて何言ってるの!? 恥ずかしいじゃない!」
ブルクハルトは、呆れ顔で呟く。
「ふ~ん。あの二人。毎晩してたんだ」
女僧侶と筋肉質の女戦士は、互いに顔を見合わせながら苦笑いする。
「・・・毎晩してるとか」
「・・・二人とも、好きだねぇ」
ルドルフとロロネーのやり取りを聞いていた他の教導大隊の者達は苦笑いする。